第18話 瑠璃の成長
季節は六月を迎えた。
過ごしやすかった春が終わり、徐々に夏が近づいてきたその日。
夕飯を済ました後、俺は自分の部屋で最愛の妹と向き合っていた。近頃は瑠璃との仲も以前より良くなっている。
それもこれも瑠璃を磨く計画が軌道に乗っているからだ。ここまで順調に事を運ぶことができた自分の手腕を褒めてやりたい。
「さて、夕飯前にしていた話の続きをしよう」
「う、うん」
「知っているけど、一応聞くぞ。先月の学園ランキングはどうだった?」
「……最下位に近いです」
目の前で瑠璃がぐったりした顔をしている。
五月が終わり、至宝学園の公式アプリが更新された。
そこには五月の状況を踏まえたランキングが発表された。瑠璃の順位は前回よりも下がり、ほぼ最下位という順位だった。
入学直後の四月に関しては仕方ない。
成績は入試の点数が基準になっているし、入学してすぐに人気者になるのは難しい。だから誰からも投票されないのが当たり前だ。最下位付近というのは当たり前のことであり、俺もそうだった。
「かなり厳しい位置だな」
「……」
成績が悪く、投票するのは俺だけ。
最下位付近をうろついて当然である。
ちなみに、白銀と猫宮からの投票も控えてもらった。
お披露目後に目立つ予定なので、今は目立つタイミングではない。だから現在のランキングは単純にテストと、授業や普段の人間関係から導き出されたものだ。
成績も人間関係も終わっている瑠璃がランキング上位になるはずがない。
ここまでは予定通りだ。
予定通りなのだが――
「元気出せって。瑠璃はこれからの人間だろ」
瑠璃の落ち込みは凄まじいものだった。
本人的にはもう少しランキングが上がると思っていたのだろうか。あるいは、テストの結果が悲惨過ぎたことがショックだったのか。
「わかってるけど、衝撃で」
「ゲームばっかりしてたからな」
「勉強もどうにかしないとダメだね」
「……そうだな」
勉強か。
教えられないことはないが、俺はどう頑張っても中の上だ。
俺よりも頭のいい奴は大勢いるし、瑠璃が本気でランキング上位を目指すのならもっと賢い奴に教えてもらうべきだろう。
心当たりがあるとすれば弥緑だ。
あいつは俺よりも頭が良い。所属しているクラスも一番上だったりする。
ただ、多分難しい。勉強を教えるには長い年月が必要だし、相手の時間もかなり奪ってしまう。さすがにこればかりは自分で頑張るしかないだろう。ただでさえ弥緑には迷惑を掛けたところだし、頼みにくい。
「お兄ちゃんはどうだったの?」
「……まずまずだ」
言えない。
ぐったりしている瑠璃の前で順位がアップしたとは絶対に言えない。
「気を遣わなくていいよ」
「っ」
「お兄ちゃんは結構順位高いよね。先月は666位だったし」
「……知ってたのか」
「調べたからね。それで、今の順位は432位」
そう、俺の順位はジャンプアップした。
大きな要因は中間テストだ。素敵な兄でいるために頑張った結果、これまでで最高得点を記録した。
「おめでとう、お兄ちゃん」
「我ながらビックリしてる。ランキングにおいてテストが占める割合が大きいな」
「……それ以外にも理由があると思うけど」
「というと?」
「誰かが投票したんじゃないかな。最近のお兄ちゃんは目立ってるもん」
あの修羅場みたいな地獄から数日。
その間の大きな変化といえば、学校で弥緑と絡むことが多くなったくらいだろうか。おかげで少しだけ目立つようになった。
まあ、弥緑には逃げた件を詰められたけど。
「……ねえ、夏休み明けのことだけど」
「何だ?」
「お兄ちゃんも私と一緒にオシャレするっていうのはどうかな?」
「俺が?」
「私としてはお兄ちゃんが格好いいと嬉しいかなって」
断ろうとしたが、ちょっと待て。
なるほど考慮する価値はあるかもしれない。
妹が超美少女なのに兄は冴えない奴というのは少し見栄えが悪いというか、これは汚点になりえる。
俺としてはそういうのは気にしないところだが、女子って生き物は噂とか世間話が大好きな生き物だ。
『瑠璃ちゃんは可愛いけど、兄貴はダサくて終わってるよね』
とか生まれ変わった瑠璃が言われるかもしれない。
俺のせいで瑠璃の評価が下がるのは嫌だ。愛する妹の足を引っ張るような奴にはなりたくない。
瑠璃もそこに気付いたのだろう。成長したな。
「わかった。俺もこれからは身だしなみに気を遣うよ。それから自分の生活を改めるようにする。瑠璃の足を引っ張りたくないからな」
「うん!」
瑠璃も嬉しそうだ。
そうと決まったら俺も全力を出す。頼りなくて格好悪い兄にならないよう、勉強からオシャレまで全部に力を入れよう。
「私もこれからは勉強に力を入れないと」
「確かに今回の成績だと厳しいもんな」
テストがランキングに与える影響は大きい。学生の本文はそもそも勉強なので当然といえば当然だ。
実のところ、白銀のランキングが人気に比べて低いのはそれが理由だったりする。
白銀は可愛くて愛嬌があって投票ではもっと上だが、順位が8位なのはそれが理由だ。白銀よりも上位の宝石達は全員上のクラスだったりする。
「成績が悪いとランキングも上がらないよね」
「テストの結果は大きいからな」
「……じゃあ、頑張る」
「瑠璃は頑張ってるぞ。成績を上がるのはゆっくりでいいんじゃないか」
あまり頑張りすぎるのも良くない。
「ううん、頑張るよ。お兄ちゃんが頑張るって言ってくれたのに、私がここで折れるわけにはいかないもん。絶対に成績アップするからね!」
本当に成長したな。
兄としては嬉しい限りだ。瑠璃がここまで大きくなっていたとは。
「よし、だったら一緒に頑張ろう!」
「うん!」
「とはいえ、問題は勉強だよな」
俺が教えるしかないな。
昨年の内容なら俺が教えても問題ないはずだ。
「あっ、勉強については大丈夫」
「……どういうことだ?」
「実は、頼りになる人が教えてくれることになったの」
「頼りになる人?」
「うん。その人から教えてもらうことになったから安心して。さすがにずっと見てもらうのは無理だけど、要点や勉強の仕方を知るだけでも成績アップに繋がると思うから」
まさか自分で先生を見つけるとは。
それが誰なのかわからないが、瑠璃がここまで言うってことは本当に大丈夫だろう。
「……確認だけさせてくれ。男じゃないよな?」
「女の人だよ」
それなら安心だ。
瑠璃の成長を実感した話し合いは終わった。




