第17話 修羅場な宝石達
どうしてこの二人がここに?
突如として出現した瑠璃達に意識を集中していると、真野と白銀の方もヒートアップしているらしい。こっちにもはっきり内容が聞こえるくらい声量が大きくなっていた。
「どうしてさっきからケンカ腰なの?」
「別にケンカ腰じゃないし」
「……明らかにケンカ腰だったと思うけど」
「ケンカ売られる覚えがあるからそう感じるんじゃない?」
この言葉に白銀もイラっとした様子だ。
しかし、真野もこういうこと言えるようになったんだな。
瑠璃と瓜二つだった頃はいつもビクビクしていたのにな。変なところで成長を感じてしまうよ。
「身に覚えはないよ。大体、それって私と夢原君の話だよね。無関係の真野さんに何か言われる筋合いはないから」
「……無関係?」
「私と夢原君の話だから、真野さんには全然関係ないでしょ」
両者の視線がぶつかる。
こりゃ完全に修羅場になる雰囲気だな。
原因はさっぱりだが、お互い言葉にトゲがある気がする。これが他人なら見世物として楽しい気分で見れるが、知り合いだとそうもいかない。
「――おい、止めろって!」
険悪な雰囲気を見かねて弥緑が止めに入った。
「弥勒君は黙ってて!」
「そうだよ、金森君。これは私達の話だから」
残念ながらイケメンの制止も意味がなかった。
雰囲気でまずそうだと察した俺はこそこそ忍者のように動くと、瑠璃達の近くに移動した。
「やあ、お義兄さんじゃないか」
「その呼び方は止めろ」
「仕方ないな。しばらくは夢原君と呼ぶよ」
永遠にそう呼んでくれるとありがたい。
余裕のある猫宮と違い、瑠璃はあわあわして不安そうだ。その表情も可愛かった。まあ、笑っている顔が一番だけど。
「お兄ちゃん。これってどういう状況なの?」
「俺にもさっぱりだ」
「あの派手な人は真野先輩だよね」
「知ってるのか?」
「……同じ中学だから」
失言だった。
知っているのは当然だ。瑠璃も同じ中学校に通っていたのだから。あの容姿だから真野は当時からめちゃくちゃ目立っていた。
ただ、俺が真野と仲良しだったことは知らないはずだ。
「用事があって弥緑を呼び出したら付いてきたんだ。実は俺と真野はクラスメイトだったこともあるんだよ。その関係で」
「そうなの?」
「といっても、別に特別仲良しとかはないぞ。あいつは弥緑狙いだったからな。俺のことは特に気にしてなかったみたいだ。むしろ邪魔だと思っていたのかもしれないな。よく俺と目が合ったから」
「――えっ?」
瑠璃は信じられないと目を見開く。
その顔はどういう感情なのだろう。
真野が弥緑狙いなのは明らかだ。弥緑がギャル好きだからギャルに変身したわけだからな。きっと多くの女子と同様に弥緑の近くにいた俺が邪魔だったのだろうが、変身前は仲良しだったので何も言わなかった。
「それより、瑠璃はどうしてここに?」
「猫宮先輩から自己防衛の術を教えるからって」
なるほどな。さっき欲望丸出しの声が聞こえていたが、まあいいだろう。
「それより、弥勒さんも巻き込まれてる感じなのかな?」
「みたいだな。あいつなら上手く切り抜けるから大丈夫だろ」
「何があったの?」
「わからん。真野が急に怒り出したんだ」
「……急に」
「俺も困っていたところだ。意味不明だったから」
本当に意味不明だ。
何となく俺が地雷を踏んだ気がしないでもないが、気のせいだろう。きっと気のせいに決まっている。
「どうでもいいが、人が増えてきたようだよ
「っ」
宝石彦と宝石姫が集まって揉め事だ。目立たないはずがない
猫宮の言葉に周囲を見ると、さっきまで誰もいなかった中庭には多くの生徒が集まってきていた。誰かが情報を拡散しているのだろう。
このままだと非常にまずい。
瑠璃にケンカの場面など見せたくないし、真野を見て変な影響を受けてもらっては困る。
ついでに目立つのも遠慮したい。
いずれは目立つ予定の瑠璃だが、ここで目立つことにメリットはない。
「確かに、これだけ注目されると僕としてもヤリにくいな」
「カタカナになってたぞ」
「気のせいだよ」
絶対気のせいじゃないが。
「仕方ない。確かにこれは大きな騒ぎになりそうだね。僕は虹海を止めるとしよう。友達を放っておくわけにはいかないし」
「悪いな。俺じゃ多分無理だし」
「任せてくれたまえ。その代わり、今日は瑠璃君にいろいろと教える予定だった。代わりの日を用意してくれると嬉しいよ」
「それくらいは任せろ」
俺の返事を聞くなり、猫宮も仲裁に入った。
猫宮の登場に白銀も驚いた様子だ。
「……よし、今の内に俺と瑠璃はここから逃げよう」
「え、いいの?」
「問題ない。俺の役目は果たした。ここにいる理由もないし、さっさと逃げるとしよう。瑠璃も一緒に逃げるぞ」
ここに残っている理由はない。
弥緑の奴には要件を伝えたし、後は白銀の妹と日時のすり合わせをするだけだ。ここまで来たら俺に出来ることは何もない。
「でも――」
「残念ながら俺達にはどうすることもできない。そもそも、この騒ぎとは無関係だからな。後は宝石達に任せよう。ここにいたら無駄に目立つだけだ。それは瑠璃からしても都合が悪いだろ?」
「う、うん」
困惑している瑠璃の背を押す。
「弥緑さんは放っておいていいの?」
「あいつに任せれば場が収まる」
「……」
「というわけで、さっさと離れるぞ」
しかし、無言で逃げるのはさすがにまずいか。
これでも俺は律儀であり、常識のある男として名を馳せている。勝手にこの場を去るのは礼儀を欠いている。
そそくさと動く。
「おい、弥緑よ」
「っ、丁度良かった。止めるのを手伝ってくれ――」
「大変そうだな。さっきの話は承知したよ。今後は校内でも話しかけるとする。おまえが話しかけても普通に反応する。それから、白銀の妹とお茶する件は話し合って決めてくれ。そうそう、猫宮は白銀を止めてくれるって話だ。だから弥緑は真野をどうにかしてくれ」
口早に告げる。
「お、おい――」
「じゃ、この場は任せたぞ」
そう告げると、俺は瑠璃を連れて逃げ出した。
背後から「逃げるな」とか「戻って来い」とか聞こえるがきっと気のせいだろう。仮に気のせいでなくとも俺にとって一番は瑠璃の安否である。
精々頑張ってくれ。




