第15話 アレキサンドライトと約束
あの二人って仲が悪かったのか?
険悪な様子も気になったが、弥緑が近づいてきた。
「で、俺を呼び出した本題を聞かせてくれ」
「そうだったな。さっき送ったメッセージの通りだ」
「誰かに会わせたいとか」
「実は紹介したい相手というか、おまえを紹介してくれって女子がいてな。俺がその頼みを引き受けたんだ」
「……」
弥緑は珍しく驚いた表情をしていた。
「相手は女子だろ?」
「そうだ」
「……大河がそういうのを引き受けるのは初めてだな」
「引き受けるだけの理由があった。勝手して悪いと思ってるから、別に怒ってくれて構わない。むしろ怒れ」
「慣れてるから別にいい」
慣れてるのかよ。さすがは宝石彦だ。俺は今まで誰かに紹介されたことなど一度もなかったぞ。
呆れていると、弥緑が視線を隣に向けた。
「相手は白銀虹海か?」
「その妹だ」
「……新入生か?」
「そうだ。紹介してくれと頼まれてな」
これは言っても問題ないだろう。どうせ紹介することになるわけだしな。
さて、反応はどうだ?
俺からこういった申し出をするのは初めてのことだからビックリしているようだが、それ以上に弥勒は何か考えている様子だ。
「その妹は俺と大河のことを知ってたのか?」
「ああ。俺もそれが引っかかった」
新入生なのに俺達の関係を知っていたことに弥緑も違和感を覚えたようだ。
「まっ、たまたま学園の外で遊んでるところを見たのかもな」
「それはあるか」
相手は弥緑のファンらしいから、もし見かけたら気付くだろう。隣に立っていた俺のことを仲良しだと思った、という説が個人的に推奨したい説だ。
「紹介とかは別にいい。だが、どうして大河がそんなことしてるんだ。そもそも、白銀虹海と面識があるって話を聞いてないぞ」
「……」
「面倒事を嫌うタイプだったろ?」
「まあな」
この辺りはさすがに親友だ。俺のことをよく知っている。
「大体、女子の頼みを素直に聞くタイプでもないだろ。あれこれ理由を付けて面倒事を嫌うくせに。例外があるとしたら――」
口にしたところで何かに気付いたらしい。
「理由は瑠璃ちゃんか?」
「よくわかったな」
「大河がこんなことする理由は他にないからな」
本当によく理解している。
当たり前だが、何度も俺の家に来ているので瑠璃とも面識がある。実は本物の兄妹のように仲良しだったりする。
瑠璃も懐いており、萎縮せずに接することができる数少ない人間だ。
正直なところ、瑠璃が気になる相手はこいつだと思っている。
ただ、その場合には真野がライバルってことになる。弥緑に想いを寄せているならそれも知っているはずだが――
「勝手に売られた俺には事情を聞く権利があると思うが?」
「そうだな。確かに権利はある。というわけで、話そう」
素直に事情を話した。
親友の弥緑相手に今さら隠すことじゃない。瑠璃との面識もあるし、性格だってよく知っている。それに、こいつは言い触らすような奴でもない。
最初こそ怪訝な表情だったが、理由を聞いて納得した様子だ。
「ほう、瑠璃ちゃんの改造ね。そいつは名案だな。前から思っていたが、少し弄るだけで別次元に化けるぞ」
「だろ?」
弥緑は再び白銀に目を向ける。
「で、白銀から指導してもらう対価として――」
「おまえを売った」
「……」
「お陰で宝石姫を数か月もレンタルできた。喜べ、高値で売れたぞ!」
元気よく答えると、肩を殴られた。
「少しは悪びれろ」
「これでも多少は申し訳ないと思っている。ただ、瑠璃と天秤に掛けたらこうなった。俺がシスコンなのは知ってるだろ」
「……全然申し訳ないと思ってねえだろ」
失礼だな。ちょっとくらいは思っている。
しかし瑠璃を可愛くするのは長年の夢だった。こればかりは俺の中でも優先順位がある。だから譲れない。殴られる覚悟はしている。
弥緑は諦めたように息を吐いた。
「仕方ないか。大河は昔から瑠璃ちゃんだけ特別扱いだったからな。俺としてもあの子は可愛い妹分だ」
「それでこそ親友だ!」
「……ただし、条件がある」
「条件?」
身構える。
「今後は学園内でも俺と絡め」
「……」
「露骨に嫌そうな顔するなよ。こっちは毎日女子に囲まれてウンザリしてるんだ。そのせいで男も近づいて来ないし、結構寂しいもんだぞ。はっきりいって毎日退屈だ。それもこれもおまえが俺から距離を置いたせいだからな」
女子に囲まれるのが嫌とか贅沢な奴だ。
とはいえ、今回の件は確実に俺が悪い。こればかりは受け入れるとしよう。受け入れないと約束を反故にしたと白銀が先生役を投げ出す。
すべては瑠璃のためだ。
「条件を呑もう。その代わり、白銀の妹のことは頼むぞ」
「約束したからな」
「おう」
無事に話はついた。
これで白銀との約束も守れそうだ。
「で、具体的にはどうするんだ。普通に会話すればいいのか?」
「お茶したいらしい。カフェでまったりした時間を過ごしてくれればいい。金は俺が出すから安心してくれ。それくらいはする」
「……いつもケチなのに」
「瑠璃のためだ。可愛い妹のためなら財布のヒモが緩むのは全人類の掟だ」
「そんな掟はない」
掟がないなら作ればいいだろ。
とにもかくにも、これで俺の任務は終わった。後は細かい打ち合わせをするだけだ。最後は日時のセッティングをするだけだ。
「――白銀。ちょっといいか」
声を掛けた。
少し離れたところで真野に絡まれていた白銀だったが、すぐにこっちに来た。
「どうしたの?」
「許可が出た。弥緑が会うってよ」
「ホント!」
白銀は嬉しそうだ。
「こいつに押し切られたよ」
「ありがとね、金森君!」
「構わない。それで、白銀の妹とお茶すればいいんだろ?」
「うん。お願い」
「それならお安い御用だ。いつにする?」
「待って、聞いてみるから」
二人は日時のすり合わせを始めた。
これで良し。
白銀との約束は守れた。これで夏まで瑠璃の面倒をみてくれる。見返りとして弥緑と学園内で絡むことを約束させられたが、これくらいなら安いものだ。
後の対処は弥緑に任せればいい。
恋愛に発展するのは難しいだろうが、こいつなら上手く立ち回ってくれるはずだ。肩の荷も下りたというものだ。
「……」
その時、真野と目が合った。
「盗み聞きするつもりはないけど、聞こえちゃった」
「えっ――」
「弥勒君が白銀の妹とお茶するって」
しまった。
真野に聞かれてしまった。真野は弥緑に惚れているから、ライバルが登場したことになる。
これはまずいのでは?
そう思っていたら――
「どうして大河君が仲介してるの?」
真野がジッと俺の顔を見た。




