第14話 アレキサンドライトの親友と真珠の友達
「久しぶりだな、大河」
イケメンが近づいてきた。
遠くから見ても圧倒的なイケメン力だが、近づくと更にそれを強く感じる。
整った顔立ちにはっきりした二重まぶた。高い身長にすらっとした体型、その姿はよく雑誌に登場する男性モデルのようだ。
至宝学園ランキング第5位・金森弥緑。
気品や品格を象徴するアレキサンドライトの称号を持つ宝石彦だ。こいつに最もふさわしい宝石かもしれない。
「久しぶりに学園内で会ったな」
俺が言うと、鼻で笑われた。
「高校に入ってから随分と避けられていたからな。どっかの誰かさんに」
「注目されるのが嫌だったからな」
「……されるか?」
「されるに決まってるだろ。中学の頃は一緒にいるだけで女子から殺意を向けられたからな。おまえは女子から逃げる口実に俺を使ってた。おかげでこっちはいつも悪者扱いだ。最低の気分だったよ」
恨み言に弥緑は苦笑いしていた。
高校に入学してから弥緑と学園内での接触は避けていた。
面倒事に巻き込まれるから――というか、実際に何度も巻き込まれた。中学の頃は何度も女子から睨みつけられた。
昨年の夏、宝石の称号を与えられてからの人気は異次元だった。
入学当初は行動を共にすることもあったが、あちこちから見られて非常に居心地が悪かったので距離を置いた。別にケンカしたとかそういうことではない。実際、休みの日には今もよく遊ぶ。
あくまで学園内だと面倒になるから近づかないだけだ。
「ところで――」
俺は視線を弥緑の背後に向ける。
「どうしてあいつが?」
「勝手に付いてきたんだ。連絡があった時、たまたま近くにいてな。大河に会いに行くって教えたら一緒に連れていけってうるさくてな」
「相変わらずの仲良しっぷりだな」
「……別に仲良くはないんだけどな」
弥緑は溜息を吐いた。
何だその顔は?
「仲良しだろ。付き合ってるって噂だぞ」
「……冗談だろ?」
「冗談じゃない。結構な奴がそう思ってる」
先ほど、白銀の妹が彼女になれないといった理由がまさにその女にある。
会話が一区切りすると、弥緑の背後に立っていた少女が待ってましたとばかりに近づいてきた。
「ひ、久しぶりっ。大河君っ!」
声が裏返っているけど、これはいつも通りだったりする。
「久しぶり。元気だったか?」
「も、もちろんだよ!」
至宝学園ランキング第6位・真野珠理奈。
愛情や純真の象徴とされる真珠の称号を持つ宝石姫だ。
しかし、彼女の外見は純真とは程遠いものがある。だから多くの生徒から最も似合わない宝石だと言われていたりする。ある意味では弥緑の対極に位置している。
「相変わらずのギャルだな」
「ど、どうかな?」
「えっと……いい感じだと思うぞ」
「だよね!?」
そう、真野の外見はどう見てもギャルなのだ。ギャル以外の言葉で形容するのが難しいくらい圧倒的にギャルだ。
金髪に派手な顔立ち、着崩した制服、耳にはピアスが光っている。その姿は誰がどう見ても今時のギャルである。
学園で最も派手な容姿をしているのは間違いないだろう。
「大河君に褒めてもらえると嬉しいよっ!」
「お、おう」
多くの生徒は彼女が見た目通りの派手女だと思っている。
だが、実際の真野は外見と大きく異なる。
俺はそれをよく知っている。そりゃもう誰よりも知っている。
何故なら同じ中学に通っていたから。それどころか、唯一の女友達と呼べるくらいには仲良しだった相手である。
「大河君とお喋りするのは久しぶりだね」
「クラスが違うからな。至宝学園は人が多すぎて違うクラスになったら喋る機会とかほぼなくなるし」
「……そうだね」
しかし、何年も経つには違和感が拭えない。
中学二年の夏まで、真野は瑠璃とそっくりだった。
地味というか、清楚というか、教室の隅っこで絵とか描いているタイプの少女だった。容姿だってメガネを掛けた黒髪のおかっぱだった。それが今ではどう見ても立派なギャルだ。
中学時代はぎりぎり目立たない髪色だったが、高校入学を機に金髪にしてきやがった。
ちなみに俺はこの姿になってから真野に近づいていない。
クラスが違うからとかそういう理由じゃない。単純にギャルが受け付けないからである。派手な子が好きじゃない俺としては金髪の時点でアウトだ。
もし瑠璃がこうなってしまったらと想像するだけで震える。
実のところ、瑠璃を磨くことを一度諦めたのは真野のせいだったりする。完全な失敗例を見て怖気づいた。瑠璃がこうなってしまったらショックでしばらく寝込む自信がある。
「――ところで、大河君。一つ聞いていいかな?」
「何だよ」
「あれって白銀虹海だよね?」
真野の視線が鋭くなる。
そういえば、さっきこっちを睨みつけていたな。この感じからすると、あれは俺じゃなくて白銀に対してだったのか。
「白銀だな」
「どうして大河君と一緒にいるのかな?」
真野は怪訝な表情を浮かべていた。
「事情があるからだ」
「事情?」
「それはこれから弥緑の奴に話す」
白銀の妹の話はしたくない。
ほら、真野からしたら恋敵になるかもしれない。教えたら変な空気になりそうだ。それが怖かった。
それに、白銀の妹の話をしたら面倒が広がる。瑠璃のことも説明しなくちゃいけない事態になりかねない。
「……じゃあ、一つだけ質問するね」
「何だよ」
「白銀と大河君の関係は?」
白銀との関係か。
原石である瑠璃を宝石に磨く先生だが、それを言うわけにはいかない。
だったらどうしよう。友達というにも少し違うだろう。クラスメイトと答えても一緒にいる理由としては弱いか。
先ほどの会話でわかったが、白銀は結構なシスコンだ。シスコンという単語には変なイメージがあるのでここは妹想いの素晴らしい姉と表現しておこう。
俺達の関係――
「同志だな」
これがピッタリの表現だろう。
「……同志?」
「そう。俺にとって唯一の特別な味方だ」
俺は自他共に認めるシスコンだが、実は異性でそれを知るのは母と妹だけだ。
一応ほら、俺も普通の人間だ。
シスコンと言われても全然構わないが、あまり公言したくはない。だからこそ、それを知っている唯一の女子である白銀は特別な味方だ。
「と、特別なの?」
「うむ。特別だな」
返事を聞いた真野が震えていた。
「唯一の味方?」
「今のところそうなるな。俺の気持ちを理解してくれるのは白銀しかいない。もはや一心同体といっても過言ではない」
さすがにそれは言いすぎだろうか。
どうして真野の目からハイライトが消えたのかわからないが、前言を撤回することはない。
話していると、その味方がこっちに近づいてきた。
「久しぶり、真野さん」
知り合いだったのか。じゃあ、さっき睨んでいたのは気のせいか。
白銀の社交性なら二人が友達でも全然おかしくないな。
「……」
「あの――」
「うるさい。あたしと大河君が話してるの見えないの?」
「っ」
……あれ、何か険悪じゃね?




