第12話 初めての後輩
五月も終盤に差し掛かった。
俺の完璧な計画に猫宮彩夢が加わることになった。想定外の状況になったが、しかし悪くはない。
瑠璃の身を考えればむしろ一番欲しい人材かもしれない。
自己防衛の術を知っておけば学生だけでなく、ここから先の人生でも使えるはずだ。可愛くなった瑠璃は高校だけでなく、その先の人生で様々な人間と関わることになるだろう。
『任されたからにはしっかり務めるよ。ナンパに痴漢の撃退は当然として、急に押し倒された時の予行練習とかもしておかないとね……グヘヘ』
下心しかない顔で張り切っていた猫宮だったが、残念ながらあいつが瑠璃とイチャイチャすることは今のところなかった。
そう、中間テストがあったからだ。
至宝学園の生徒にとってテストは重要なイベントである。ランキングに大きな影響を与えるので決して手は抜けない。それは現役の宝石姫も例外ではない。
俺はといえば、真面目に勉強してテストに臨んだ。
手ごたえはあった。去年までは気が乗らなかったけど、今年は瑠璃にいいところを見せようと頑張った。素敵な兄でいるためにも手は抜けないのだ。
結果はまだ出ていないが、間違いなく成績は上がっている。
余談だが、瑠璃は燃え尽きた表情をしていた。元々の学力もさほど高くはないし、今は他のことに手一杯な感じだった。ひとまずは落ち着くまでそっとしておこう。家では相変わらず現実逃避のゲーム三昧だったことも付け加えておく。
さて、本日は重要なイベントがある。
「――今日はよろしくね」
「約束だからな。任せてくれ」
「たのもしいよ」
テストが終わり、白銀の妹と対面する日だ。
白銀が瑠璃の先生になってくれた理由の一つは妹の願いを叶えるためだ。
予想以上に白銀は頑張ってくれているので、俺としても全力に応じる。妹を想う白銀の気持ちには共感できるし。
「ところで、白銀の妹が紹介してほしい相手は結局誰なんだ?」
「私もまだ聞いてないの。夢原君に直接言うって」
「……予想はついてるけどな」
「私には全然予想できないんだけど」
相変わらず誰もいない中庭で会話しながら待つこと数分。
校舎から小走りで少女が近づいてきた。遠目からでも美少女だとわかる。それに、瑠璃と違って明るい性格なことも。
少女は俺の前で止まった。
「――初めまして、白銀藍里です。よろしくお願いします」
白銀の妹だけあって可愛い子だった。
姉妹でよく似ている。顔立ちもそうだが、明るい雰囲気がそっくりだ。妹は少し幼い感じもするが、去年の白銀を知っている俺としては懐かしい気持ちになる。
「二年の夢原大河だ」
挨拶を済ませる。
「早速だけど本題に入ろうか」
「はい」
「俺に誰か紹介してくれと言っていたみたいだけど?」
「金森先輩を紹介してください!」
サプライズはなく、予想通りの相手だった。
金森弥緑――
俺の幼馴染であり、親友でもある奴だ。更にはこの至宝学園で二人しかいない宝石彦でもある。
名前が出た瞬間、白銀はビックリしていた。何度も目をぱちぱちさせている。きっと俺が弥緑を紹介できる立場なのを知って驚いているのだろう。
相手は予想通りであったが、腑に落ちない点がある。
「一応聞くけど、どうして俺に?」
「決まっています。夢原先輩が大親友だからです」
「……」
「そうですよね?」
「まあ、一応な」
あいつとの付き合いは長く、小学生の頃からだ。何度もお互いの家に泊まった仲でもある。
だが、高校に入学してから学園内で話をしていない。
「ちょっと待って。夢原君って、あの金森君と友達なの?」
「まあな」
「初めて聞いたんだけど」
「……」
白銀の反応は正しい。高校に入学してからほぼ喋っていないので俺達の関係については知らないのが普通だ。
腑に落ちない点とは、どうして白銀の妹が俺とあいつの関係を知っているのかだ。
学校内で仲良く話すことはしていなかったはずだ。少なくとも今年に入ってから一度も学園内で話していない。入学したばかりの白銀妹が何故知っていたのか。
……まっ、今は気にしなくていいか。
言及よりも約束を果たすほうが大事だ。
「了解した。約束だから紹介するのは構わない」
「ホントですか!?」
「白銀との約束だからな」
「ありがと、お姉ちゃん!」
感謝されて白銀も嬉しそうだ。
「カフェでお茶する場をセッティングすればいいんだろ?」
「お願いします」
「了解した。だけど――」
目的を聞くべきだろうか?
こういうのはあまり聞くべきではないと思いつつも、親友である弥緑に危害を加えるのが目的ならお断りしたいところだ。
あいつはモテる。
モテるからこそ、過去に女関係でトラブルもあった。親友を売った俺が言うのもアレだが、あまり迷惑は掛けたくない。
「一応、理由を聞いてもいいかな?」
「昔から憧れていたんです。この学園に入学したのも金森先輩が目的なんです」
「ほう」
素直だな。濁すと思ったが、意外とはっきりしている。
個人的には好印象だ。
「お喋りして、仲良くなれたら最高です」
「……恋人狙いだったりするか?」
「いえ、さすがにそれは厳しいですよ。私の場合は単なるファンというか、憧れの先輩って感じなんです!」
世間で言うところの推しみたいな感じだろうか。俺が瑠璃を推しているのと似ているかもな。そう考えると理解できる。
今のところ変な事件を起こす感じはなさそうだ。
彼女からは単純な好意というか、そういうポジティブな印象を受けた。少なくとも悪意はなさそうだ。これなら問題ないだろう。
「わかった。紹介するよ」
「ありがとうございます!」
「向こうに連絡して会える日とか決めるから、少し待っててくれ。日付が決まったら白銀を通して伝えてもらうってことでどうだ?」
「わかりました。それでお願いします」
白銀の妹は満面の笑みを浮かべた。
……さて、あいつに話を通しておかないとな。
勝手に売ったことを知ったらさすがに怒るだろうな。瑠璃のためだから後悔はしていないが、一発殴られる覚悟はしておこう。




