第11話 猫目石は協力を申し出る
「それで、どういう組み合わせなの?」
白銀は俺達を交互に見ながら口にする。
馬鹿なやり取りをして発見された俺と猫宮は大人しくベンチに座った。
「偶然だよ」
「偶然?」
「さっき、夢原君と廊下でばったり遭遇してね。少し話をしていたんだ。話しながら歩いていたら、虹海に見つかったというわけさ」
ちらっと猫宮がこっちを見た。
合わせろってことか。
「その通りだ。少しばかり会話していただけだ。話に夢中になっていたらこうして中庭に来てしまった」
頭の悪い言い争いをしていたことは知られたくない。ここは乗っかった。
「……彩夢と夢原君って知り合いだったの?」
「さっき知り合ったところだよ。ただ、今後付き合いは深くなるだろうね」
「どういうこと?」
「将来は家族になるかもしれないから」
おい、その発言は誤解を招くぞ。
「へっ?」
「っ」
案の定、白銀と瑠璃が同時に俺を見た。
「おい、おかしなことを言うな!」
「おかしくはないよ」
「おかしいだろ」
猫宮が俺の耳元に口を寄せる。
「僕が瑠璃君と結婚すれば夢原君は義理の兄だろ?」
そういうことか。
「――って、そうじゃねえ!」
「急に大声を出さないでくれ」
「おまえのせいだろ。あの言い方だと変な意味に捉えられるぞ」
「変な意味?」
普通に考えて家族になるといったら、結婚を意味する。瑠璃は間違いなくそう捉えているぞ。
「それなら大丈夫だよ。ほら、虹海は気付いたみたいだよ」
「何だと?」
白銀は深々とため息を吐いていた。
「もしかして、夢原君にバラしたの?」
「ああ」
「……そう。信頼したんだ」
「将来の兄だからね」
「えっ――」
驚いた白銀は一瞬だけ止まり、隣の瑠璃を見て頷いた。
すべてを察したらしい。
「事情はわかったわ。さっきのアレを目撃していたのね。確かに可愛いからしょうがないわね。私の前はお姉ちゃんだったし、別に驚きはないけど」
白銀は呆れた顔で言った。
マジで理解していやがる。
さすがは幼馴染といったところか。こういうところで以心伝心を披露してくるとは。あれだけで恋愛の対象が自分から瑠璃に移ったと察したらしい。
というか、白銀の前はその姉に惚れていたのかよ。
「そういえば、挨拶をしていなかったね。初めまして、猫宮彩夢だよ」
「ゆ、夢原瑠璃ですっ」
改めて猫宮と瑠璃が挨拶を交わしている。瑠璃がたどたどしい挨拶にいちいち気持ち悪い笑みを浮かべていたが、あえて何も言わなかった。
挨拶を済ませた後、猫宮は再び俺に耳打ちする。
「夢原君。まじめな話をしてもいいかい?」
「何だよ」
「虹海と瑠璃君のこと、聞かせてくれないか?」
「それは――」
「さっきの虹海の発言から何となく事情は察したよ。けど、中途半端に知るのは気持ちが悪いからね。是非とも教えて欲しい」
どうするべきか。
最初はやばい奴だと思ったが、瑠璃のことを可愛いと言ってくれた。変な目で見られるのはアレだが、高評価してくれたのでこいつに対する印象は悪くない。
「瑠璃君の不利益になるようなマネはしない」
「……ちょっと待ってくれ。相談してくる」
「わかった」
俺は瑠璃を連れ出した。
二人の宝石姫から離れたことで、ようやく瑠璃は緊張が解けたらしい。
「お兄ちゃん、あれって宝石姫の猫宮先輩だよね!?」
「そうだ」
「知り合いだったの?」
「さっき初めて話した。ただ、いろいろあってな」
ここで説明すると長くなるし、瑠璃に惚れた云々の話をすると面倒になりそうで嫌だった。
「あいつに瑠璃の事情を説明してもいいか?」
「別にいいよ。悪い人じゃないみたいから」
「……まあ、悪人ではないだろうけど」
「宝石姫なら大丈夫だよ。悪い噂のある人はランキング上位にいけないから」
「確かに変な噂のある奴は宝石姫の中でも一人くらいしかいないからな。性格に問題がある奴は投票されないし、そういう意味でも判断できるか」
仕方ない。
許可を得たので猫宮には事情を説明することにした。
「猫宮よ、俺の妹は可愛い」
「うむ!」
「その可愛い妹だが、今は地味だ。外見も中身も」
「残念ながらそうみたいだね。僕もその姿に騙されてしまったよ。自分の未熟さを恥じているところだ」
「しかし、可愛く生まれ変わろうとしているところだ」
「ほう!」
ここで白銀を見る。
「白銀には瑠璃の先生役をお願いしている。要するに、原石である瑠璃を磨いて宝石にしてもらっているわけだ。白銀は社交的だから、瑠璃のコミュニケーション能力を伸ばしてくれるように頼んでいる」
「……だから虹海と急接近しているわけだね」
「そういうことだ」
諸々の事情に納得してくれたみたいだ。
「しかし、虹海はよく引き受けたね?」
「こっちにもいろいろあったの」
「……虹海が動くとなれば、藍里君絡みかな?」
藍里?
初めて聞く名前だが、恐らく白銀の妹だろう。
「そして、夢原君は瑠璃君のために動いているわけか」
「おう」
「……素晴らしいね。姉妹愛に兄妹愛というわけだ。僕は一人っ子だからそういうのに憧れてしまうよ」
大袈裟に拍手した後。
「さて、僕から提案がある。瑠璃君を磨く計画に協力させてほしい」
「えっ?」
いきなり何を言い出した。
「無論、メリットはあるよ。まず、会話の相手は多い方がいいだろう。より多くの人と話したほうがコミュニケーション能力が磨かれる。そもそも、虹海とばかり話していたら二人が仲良くなって終わりになることもある」
なるほどな。
ありえる。瑠璃は一度仲良くなると人見知りを解除して親密になるから。
「メリットはもう一つあるよ。僕なら自己防衛の術を教えられる」
「……防衛?」
「あれだけ可愛ければ今後は多くの生徒に囲まれるはずだ。性格的に内気みたいだし、自己防衛の手立ては考えておいたほうがいいと思う」
確かにな。以前にもその話はしていた。
「自慢じゃないけど僕はその手のことについては詳しいよ。それから、人を見る目も自信がある。悪人だと思ったら大抵当たるからね」
人を見る目に関してはさっきの俺に対するアレで少し心配だ。
「親が警察官で、幼い頃からあれこれ言われている内に防犯に対する意識が芽生えたんだよ。護身術も習得しているし、それを瑠璃君に教えられる」
「……良い考えかも」
「白銀?」
提案を援護したのは白銀だった。
「彩夢には何度も助けられたの。いろいろな対処法を教えてくれたし」
「虹海はかなり迂闊というか、無防備だったからね」
可愛くなる弊害か。
海とかプールに行くと美女は頻繁にナンパされるという。
それだけじゃない。変な犯罪に巻き込まれるリスクも高くなる。瑠璃は内気な性格だし、強引な男に捕まる可能性もゼロじゃない。
この提案は魅力的だ。
「ただ、肝心なのは瑠璃の気持ちだ」
「わかっているよ」
黙って聞いていた瑠璃に近づく。
「……どうだ?」
「その、お願いします!」
瑠璃もやる気みたいだ。
「わかった。よろしく頼むよ」
「頼まれたよ」
「でも、見返りは――」
「必要ないよ。瑠璃君と合法的にベタベタできるからね。僕からしたらそれが最大の見返りだからね。それ以上は必要ないから」
それが狙いかよ。
こいつから身を守る手段を教わった方が良いかもしれないな。
とはいえ、二人の宝石姫から指導を受けられる。これで瑠璃はもっと綺麗に磨かれるはずだ。これはこれで悪くない。




