第57話【深夜飯】
「というわけで、各務原くんが助けてくれたんすよ。そのあと凛さんが来て、ばったばったと薙ぎ倒して――」
「あの篝がねぇ……」
随分と自発的に動いてくれたもんだ。そのおかげで理心は無傷。篝も目立った傷はなかった。やけに疲弊していたし凛に怯えた表情を向けていたが。
俺が体育館に着いてすぐに事は終わったし、そのあと篝は「先生だけじゃないんだなぁ」と謎の言葉を残してすぐにどこかへ消えて行った。
怜が厨房に籠って三十分。理心と昼間の出来事を整理していたら厨房からお盆を持った怜が出てくる。
「お待たせしました♪」
さっきからいい匂いがするとは思っていたが、配膳された物を見て納得した。
「美味そう」
レバニラ炒め、カツオのたたき、あさりの味噌汁、これは小松菜か? のおひたしが並ぶ。だがひとつひとつの量は思ったより控えめだった。
「深夜なので少量にしておきました♪」
「充分だ、ありがとう」
最後に怜が白米の盛られた茶碗を置いてくれて配膳完了。
豪華だな。怜や灯火が来てから本当に飯の質が爆上がりして大変助かってる。もう元の食事には戻れないかもしれない。
しかしあれだな、こう酒に合いそうなものを見るとどうしても……。
「なぁ怜」
「駄目です♪」
まだ何も言ってないぞ。
「こちらをどうぞ♪」
怜が出してきたのはオレンジジュースだった。この献立にオレンジジュース?
「ビタミンCは鉄分の吸収を助ける働きがあるんですよ♪」
「……なるほど」
合う合わないじゃなく必要だから飲めと……。
まあいいや。気を取り直して目の前の食事に向き合う。
「いただきます」
両手をしっかり合わせ、怜に感謝しながら小松菜のおひたしの入った小鉢を手に取る。白ゴマがかかったそれを一箸で一気に口に運んだ。
うぉっ美味ぇ。出汁の優しい味がじゅんと染みる。少量のレモン果汁が丁度良い酸味を感じさせる。ちょっと口の傷が痛んだが、空腹のせいかそこまで気にならなかった。
箸は止まらずにレバニラ炒め、カツオのたたきとどんどんかっこんでいく。
しつこくない絶妙な油で固くなり過ぎていないレバーが最高だ。
カツオのたたきにはおろしたしょうがとにんにくが添えられている。少しだけ付けてポン酢でいただく。美味くないわけがない。身には臭みもなく、藁で炙られたのか、いい香りが鼻孔を突き抜ける。
「美味い美味い」
「ゆっくり召し上がってください♪」
言葉を無視してバクバクと食べ進め、気付いたら味噌汁以外全部平らげていた。
あさりの殻を外して少しずつ汁を啜る。味噌の風味がこれまた落ち着く。やっぱ日本人はこれよなぁ……。
「はぁ……食った食った。ごちそうさまでした」
最後もしっかりと手を合わせて空になった御膳を拝んだ。
「お粗末様でした♪」
「粗末なんてとんでもない。めちゃくちゃ美味かったぞ」
「ありがとうございます♪」
食後にオレンジジュースに口を付けたらこれも普通とはひと味違った。甘味と酸味のバランスが丁度良い。どうかと思ったオレンジジュースも、気付けばすぐになくなっていた。
「ふぅ……満足」
量自体はそんなでもなかったがおかずが多かったので満足感があった。あんまり食い過ぎても胃によくないしな。
「あとで部長にもお礼を言ってあげてくださいね♪」
「灯火に?」
「寝てる先生の傷を見た部長が新鮮なレバーやカツオを貰ってきてくれたんですよ♪」
「そうか……」
本当に給仕部の連中には頭が上がらんな。
凛は理心を助けてくれた。怜は手当を。灯火は食材を、か。
色々と面倒かけてるな……。
「わかった、起きたら礼を言っとく。俺は腹も膨れたし眠くなってきた」
「まだ寝ちゃ駄目ですよ♪」
「え、なんで」
「消化に良くないので♪ せめてあと一時間くらいは起きていてください♪」
「まじかよ」
もうかなり強めの睡魔が襲って来てるんだが。
「まずは先生の歯を磨いて~♪ 上半身はさっき拭いたので次は下半身を拭いて~♪」
「絶対させないからな。自分でやるわ」
「じゃあ私がやるっすか」
黙って俺の食事風景を見守ってた理心が口を開いたかと思えばとんでもないことを言い出した。
「絶対させねえって言ってるだろ。お前らはいい加減寝ろ。俺も適当に時間潰して寝るから」
「先生のいけず♪」
「照れなくていいんすよ」
「そういう問題じゃねえんだよ!」
そのあとやるやらない問答をしたり歯を磨いたり身体を拭いたりしていたらなんだかんだ時間は過ぎ、再びベッドに入ったのはもう午前四時に差し掛かろうかという時間だった。
もちろん、身体は自分で拭いたさ。




