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第48【子守唄】

 桜葉、凛、灯火の入浴が終わり、俺の番が来た。

 シャワーしかないとはいえ、女性の入浴は時間がかかるな……。

 かなりの強めの眠気が襲ってきていたが、今更寝るわけにもいかないので重い腰を上げてシャワー室に向かう。


「殿、お背中を――」


「いらん。もう遅いから寝てろ。俺も終わったら速攻寝る」


「先生♪ お背中を――」


「だからいらん。寝てろっての」


 ご奉仕体質の二人を振り切ってシャワー室に籠る。

 怜が脱いだ衣服を回収しに来てもいいように、分かりやすいところに放り投げた。

 下着まで生徒に洗われるのはなんともいえん気分だ。


「あ゛あ゛あ゛……」


 捻った蛇口からは想像よりも高温の湯が出てきたが、それが心地よかった。汗をさっさと流し、俺は育毛シャンプーで髪を洗う。誤解のないように言うとこれは怜が用意したもので、俺の私物じゃないぞ。


 さっと湯浴みを済ませてシャワー室を出ると、放り投げた衣服は回収され、代わりに黒を基調にした白い縦線の入ったジャージが置かれていた。

 俺はそれに着替えて、ドライヤーで髪を乾かして脱衣所を出た。


「おーまいがっ」


 一瞬目を疑う光景だった。

 俺が寝るであろうベッドの横には布団が敷かれ、仕切りが立てられた向こうには四基のベッドが並んでいた。教室をぶち抜いて作られた空間といえど、さすがに圧迫感がある。


「先生おかえりっす」


「早かったな」


「どうぞ♪ お冷です♪」


「あ、ああ」


 怜の差し出してくれたペットボトルを受け取り、室内を見回す。


「もうちょっといい配置あっただろ」


 なんでわざわざ全部を横並びに置いてんだ。無理矢理押し込んだであろう壁際のベッドは心なしか少し小さく見えた。


「ご心配なく♪ そこを使う予定は今のところありませんから♪」


 ないの? じゃあ何のために置いたんだよ。

 使わないにしてもそれだと人数と数が合わないぞ。


「私は先生と一緒に寝ますから♪」


「おい」


 それはないだろ。

 この間は強引に横に入ってきた怜の子守唄で寝かしつけられたが、毎晩同じベッドで生徒と寝るわけにはいかん。


「じゃあ先生は私にあのちょっとデッサンの崩れたベッドで寝ろって言うんですか♪」


「移動させろよベッドを」


「ちょっと無理ですね♪」


「じゃあこの布団をどかせばいいだろ」


「ちょっと無理でございます」


 今度は凛が言ってきた。


「なんでだよ。わざわざベッドの間に布団を挟むな」


「移動させろと仰るなら、わたくしは殿のべっどに潜り込むしかなくなります」


「なんでそうなる!」


「モテモテっすね、先生」


「だよねー」


 理心と桜葉は完全に傍観している。二人は灯火を交えて三人でベッドの上でババ抜きしてやがった。


「お前らこいつらを止めろよ!」


「一緒に寝てあげればいいじゃん」


 無責任な事を言うな桜葉ぁ!


「両手に花で寝られるなら男冥利に尽きるんじゃないっすか」


「生徒相手で喜べるか!」


「殿が同衾してくださると仰るのでしたら、わたくしはこの布団を即座に取り払いましょう」


「先生が一緒なら、もう何も怖くない♪」


「だから布団を移動させろって話だろうが! 怜に至ってはキャラがぶれてんだよ!」


「まぁまぁ先生♪ とりあえず横になりましょう♪」


 手を引いてベッドに連れて行こうとする怜。


「お前、また変な魔性の子守唄で俺を寝かせるつもりだろ」


「え♪」


「え♪ じゃねえよどういう発音だよ」


「細かいことはお気になさらず、殿、こちらでございます」


 怜に続いて凛まで俺の手を取って誘導してくる。


「一人で寝るって言ってるだろ!」


「ふんふふ~♪」


「子守唄を歌うな……!」


 それ聴くと猛烈に眠くなるんだよ。


「すやぁ……」


「りこぴん?」


 早速子守唄の被害者が! それに桜葉、いつの間に理心をりこぴん呼びするくらい仲を深めたんだ!


「分かった分かった、とりあえず横になるから、誰も隣には入るなよ」


 観念してベッドに横になる。


「分かりました、先生が寝るまでは入りません♪」


「寝ても入ってくんなよ!」


「ふんふふ~♪」


「それやめろや……!」


「殿~いい子だねんねしな~♪」


「お前まで歌うんじゃねえ……!」


 なんなのこいつら! その歌を聴いてると自然と瞼が重くなるんだけど、給仕部の必須技能だったりすんの?


「……ぐぅ……」


 いや、違う! 灯火も落ちた!


「殿~♪」


「先生~♪」


「うわあああああああああああああああああああああ」


「もう……無理……おやすぅ……」


 魔性の子守唄の連携に桜葉まで寝落ちした。


「ぐっ……なんて睡眠への誘惑だっ……」


 だが俺は、決して屈さないぞ。このまま寝たら、何をされるかわかったもんじゃ、ない……ぞ。


 ……ぐっ……。…………ぐぅ。


 気付いたらふかふかのシーツと、聴き心地の良い子守唄の魔の手にかかり、俺の意識は、いつのまにか、深淵に落ちていった……。


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