表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/60

第40話【事後処理】

 その後、すぐにライアンの運転する車が藪を突き破って現場に到着した。ライアンにドアを開けさせ、真白が降りてくる。

 そのまますたすたと倒れている男に近づき言った。


「こいつ?」


「そいつ」


 真白は倒れている不審者――理心を攫った男からマスクを剝ぎ取る。


「誰よこれ」


「生徒じゃないのか?」


「持ち帰らないとわからないわね」


「そりゃそうか」


 一体この学園に何人の生徒がいるのかって話だ。さすがの真白も全生徒の顔を把握しているわけじゃない。


「おう、玄。元気そうだな」


 後ろから聞こえた声に振り返った。

 真白が出てきた後部座席の反対側から、顔を覗かせる禿頭(とくとう)の男。


「佐竹か。珍しいな」


 サングラスに黒服を纏った禿頭の男。ライアン程じゃないが大柄な男がそこにいた。

 佐竹とは、本来理事長付きの護衛長。理事長同様、滅多に人前に姿を見せない、はずなんだが。


「ちょうどおばあさまとお茶してたのよ。そこに佐竹もいてね。久しぶりに玄の顔でも見るかって付いてきたの」


「なんだよ意外と暇そうだな」


「そうでもないさ。束の間の自由時間ってところだな。それより玄、聞いたぞ。立川のお嬢様とやりあうらしいな」


「どこ情報だよ。なんでお前が知ってんだ」


「さっき真白お嬢から聞いたんだ。お前が勝つか負けるかを賭けてる」


「人でトトカルチョすんなよ。……真白? 真白がなんで知ってんだ」


 俺は真白を見る。すると呆れたような顔を向けられた。


「貴方、昨日の事覚えてないの? まあすぐに気を失ったから無理もないか」


 昨日? ……酔っ払った時にでも来てたのか?


「まあいいや。で、お前はどっちに賭けたんだ」


 恐ろしい記憶が蘇ってきそうだったから俺は誤魔化して話を元に戻した。


「お前が負ける方に一万」


「おい」


「私は勝つ方に一万よ」


「さすが真白だ」


 てれれれってれー。俺の中で真白の株が上がった。


「まあどっちでもいいのだけどね」


「そう言いなさんなお嬢。娯楽の少ないオレにとっちゃ最高の楽しみだ。それで玄、結果はどうなんだ?」


「まだやってねぇよ」


「なんだよもったいつけやがって」


「そういえば凛さんは? あの子も絡んだんでしょ?」


「なんか叫んでどっか行った」


「……なにそれ? 怪我しているのなら、理心さんの検査のついでに医療施設に連れて行こうと思ってたのに」


「医療施設? 理心を?」


「眠らされたんでしょ? 検査くらいするのは当然でしょ」


 それもそうか。

 今もまだ理心は目覚めていない。怜が眠っているだけって言ってたから特に気にしてなかったが……そうか。何かしらの薬物を使われたかもしれないのか。


「こいつもう一回殴っていい?」


 ライアンが担ぎ上げ、トランクに詰めようとしてる不審者に向かって言った。


「もう気絶してるわよ。こいつもついでに診てもらいましょうか。頭を強く打っているようだし」


 ぐぃいいいいとライアンがトランクに詰め込む。いや、こっちのが重傷になりかねないと思うんだが。


「理心さんはわたしの隣ね。佐竹は前に移りなさい」


「あいよ」


「とりあえず行くわ。報告は放課後にでも。理心さんを送った時に」


「ああ、頼むわ」


 真白は車に乗り込む。俺は理心の身体を抱き上げそっと後部座席に座らせた。


「じゃあな玄。結果は早めに教えてくれよ!」


 そう言い残して車は走り去っていった。


「じゃあ怜、俺たちも戻るぞ」


「はい♪」


 怜を教室まで送り届けて俺は午後の授業の準備をする為に職員室に戻った。




 ***



 放課後になり、俺は軽く明日の準備をしてから部室へ向かった。

 扉を開けると、既に理心と怜、そして真白とライアンがいた。


「先生、お疲れっす」


「お前もな。体調はどうだ?」


「問題ないっす」


「それはなによりだな」


「先生、お疲れ様です♪」


「ああ、怜も悪かったな。呼びに来てくれて助かった」


「どういたしまして♪」


 俺はそのまま定位置まで行って腰を下ろした。

 理心と怜はソファーに座り、その対面には真白が足を組んで座っている。ライアンは真白の横で前に手を組んで立っている。


「それで今回の犯行だけど、どうやら委託業者として学外から来たようね。先日、各務原くんが仲間を呼んだのと同じ手口」


 真白は怜が提供したと思われる珈琲を飲みながら言った。


「今回は雪之丞は気付かなかったのか」


「至って普通の書類だもの。学外からの備品の搬入なんて毎日行われている作業だし、作業員の身分なんていちいち確認してないわ」


「そうか」


「あの……正直、自覚ないんすよね、襲われたっていう。部室に向かってて、気付いたら車の中で隣に真白さんがいたって状況だったんで」


「捕らえた不審者は睡眠薬を針状のものに塗り付けて持っていたらしいわ。おそらくそれで理心さんを一瞬で眠らせたのね」


 あの時の吹き矢はそれか。


「ふぅん。ずいぶん手際の良い事で」


「その男の名前は田島洋一。日雇い作業員に扮して入り込んだみたい」


「その田島とやらは五剣関係者とは違うのか?」


「今のところ不明ね。ただ言えるのは、単独犯とは言い切れないって事」


「学園の中に協力者がいる可能性もあるって事だろ」


「あら、貴方にしては頭が回るじゃない。その通り。偶然なのか意図的なのかはわからないけど、田島が理心さんを襲った時間はあるイベントの影響で人の流れが一点に集中していた」


「MERiZARiKAのライブだな」


「そうね。MERiZARiKAのライブの告知がされたのは昨日の放課後くらいかしら。でもメンバーと面識のある人物は事前に知らされていた」


「私も昨日のお昼休みが終わる頃に聞いたっすね」


「給仕部の面々も知っていたわ。中庭にステージの設置や機材の搬入なんかもあったから」


 確かに桜葉と灯火が手伝ってたな。


「MERiZARiKAは学内ではファンの多いバンドよ。知名度もそれなりにあったし、噂が流れれば見に行こうとする者も多かったはず」


 その一人です。はい。


「それを利用したとするなら、学内に理心さんを狙う何者かがまだ潜んでいる可能性も捨てきれないでしょ」


「そうだな」


 とは言ってもあくまで憶測な上に、MERiZARiKAのライブを利用しようなんて考えられるのは生徒だったら誰でも可能だろうしな。生徒間の話題でライブが行われる、なんて話は当事者に近い人間だったら知っていただろうし、それが噂として流布されていても不思議じゃない。


 問題なのは、理心を狙った田島とやらが偶然、MERiZARiKAのライブの日に仕掛けただけなのか、それともMERiZARiKAのライブを利用した誰かからの情報を元に犯行に移ったのかってことだ。


「まあ結局、今言えるのは警戒を怠らないようにしなさい、ってことだけね」


「確かにな……」


 どちらにせよ、理心はまだ狙われたままだ。

 それが昼夜問わず行われるなら、対策を考えないとならない。


「それじゃあ私は戻るわ。理心さん、大変だと思うけど思い詰めないでね。何かあったら全部玄に投げちゃいなさい」


 おいおい。


「どもっす。真白先生も、いつもありがとうございます」


「いいのよ。怜、珈琲ご馳走様。美味しかったわ」


「いいえ♪ お気を付けて♪」


 怜に見送られて真白とライアンは帰って行った。


「理心、本当に大丈夫なんだよな」


 理心に向き直って聞いた。


「本当に問題ないっすよ。先生、今回もお手数かけたっす。どもでした」


「ああ、ならいいんだ。それに、礼なら凛に言ってやってくれ」


「昨日来た子っすか?」


「ああ、なんであそこにいたのかは知らんが、理心の事守ってくれてたんだぞ」


「そ、すか。立川の人が……」


 理心が考え込むように俯く。そこで扉ががらりと開き、灯火が入ってきた。


「理心、大丈夫か?」


 心配そうに理心を見つめる灯火。

 きっと真白辺りから事の顛末を聞いて来たんだろう。


「あ、はい。問題ないっす。心配どもっす」


「そうか……ならいい」


 安堵の息を吐くと理心の隣に腰を下ろした。


「お茶をお出ししますね♪ あ、先生ごめんなさい何もお出しせずに……」


「ん? ああ大丈夫だ」


「お酒でよろしいですか♪」


「いや……今日は飲まないからいい。珈琲くれないか」


「えっ……先生が」


「自発的に」


「禁酒っすか」


 なんか三人娘が謎の連携を繰り出してきた。


「昨日飲み過ぎたしな。それにまだ凛との仕合とやらも終わってない」


「二日酔いは治ったのか?」


 と灯火。


「治った。いつの間にか頭痛も治まってたな」


「なによりだ」


「お前らのおかげだな。ありがとう」


「大したことはしていない。それに、先生の為じゃない」


 また灯火のテンプレツンデレ発言が出てきた。


「先生、どうぞ♪」


 淹れたてのホットコーヒーが差し出される。


「さんきゅ」


 一口飲む。

 飲みやすいな。


「お口に合いますか♪」


「うん、美味い」


 普段インスタントしか飲まないけどなんとなく違いを感じた。


 そんなこんなでだらだらと時間を潰して過ごす。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ