表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/29

第03話【変化】

 いつもの文芸部室。

 いつもいる女生徒理心。

 いつもと同じ味の酒。


 ……のはずだった。


「お肉だけじゃなく、野菜もたっぷり召し上がってください♪」


 今日はなんか煙がすごい。


 肉と野菜を炒めた匂い。

 机の上に並ぶ料理の数々。

 目の前で手際よく動き回る、知らん給仕部の生徒。


 ポニーテールを揺らして、屈託のない笑顔を振りまいているそいつは、朝霧怜。

 昨日、酒と一緒に熊崎から押しつけられた面倒ごとだ。


 給仕部。


 学園に存在するあらゆる部活へ、自ら支援や補助を名乗り出てサポートする変わり者集団。

 そういう部があることは、俺がこの学園で教職についた頃に聞いた気がする。今じゃすっかり、学園の仕組みの一部みたいな顔をしている。


 他人への奉仕が生きがいの変人が多く所属する謎の部活。

 それが給仕部だ。

 そしてそれを取りまとめているのが、昨日会った現部長――祇条灯火。


 この学園には何年も世話になっているが、給仕部と直接関わるのはこれが初めてだった。

 理由は二つ。


 そもそも去年まで、俺は部活の顧問を請け負っていなかった。

 それと、この文芸部が理心しかいない弱小部だからだ。


 文芸部なんて、名前だけ見れば普通だ。

 だがこの学園には、もっと刺激の強い部活が山ほどある。


 様々な魚介類を自分たちで増やすことを目的とした養殖部。

 学園の山岳地帯で獣を狩る狩猟部。

 育てるものに制限のない園芸部。


 そんな連中がひしめいてる場所で、ただ本を読んだり書いたりするだけの文芸部に人が集まらんのも、まあ当然だろう。


 結果、うちみたいな部員一人の弱小部には、今まで給仕部の派遣なんて縁がなかった。


 ……はずなんだが。


「先生♪ お野菜もどうぞ♪」


「知らん。まず肉だ」


「だめです♪ お肉だけだと栄養が偏ります♪」


 どうやら、今年からはそうでもないらしい。


 カコン、と空になった缶をデスクに置く。


 するとすかさず、


「どうぞ♪」


 と、俺秘蔵の冷蔵庫から新しい一本が差し出された。


「さんきゅ」


 短く礼を言って受け取り、改めて部室の中を見る。


 理心は振る舞われた料理を小皿に分けてつまみながら、相変わらず読書を続けていた。

 取り皿を使うようになったのは褒めてやるが、行儀は悪いぞ、お嬢様。


 そんなことを考えていると、部室に軽快なメロディが流れた。


「お米が炊けました♪」


 いつの間にか、卓上に炊飯器まで増えていた。

 自然すぎて気づかなかった。


 怜はすぐには蓋を開けず、おかずの準備に取りかかる。どうやら少し蒸らすつもりらしい。


 ……というか、米が炊けるほど長い時間ここにいたのか。


 酒のせいか、こいつの持つ妙な空気のせいか、時間の感覚がだいぶ曖昧になっていた。


 さっきまで机に並んでいた料理の数々は、いつの間にか綺麗になくなっている。

 まあ、俺と理心が黙々と食ってたせいだろう。


 なくなった端から、怜はまた新しい料理を始める。

 ホットプレートに追加で肉や野菜を放り込んでいた。


 しかし、あのリュックはどうなってるんだ。


 ホットプレート。炊飯器。食材の数々。

 質量保存の法則はどうした。


 直径三十センチほどの小型のリュックに、そんなに入るわけがない。

 いや、絶対入らんだろ。だめだ。酒のせいで自分の思考の正常さまで怪しくなってきた。


「んー、美味そうな匂いっす」


 ようやく本から顔を上げた理心が、ホットプレートと炊飯器を交互に見た。


「なんすかこれ」


 遅い。


「そのリュックどうなってるんすか」


 肉と野菜に調味料を足し、味見をしながら、怜はにこやかに言った。


「秘密です♪」


 信用ならんなあ。


 振る舞われた料理を完食する頃には、すっかり夜も更けていた。


「お前ら、寮の門限とか平気なのか」


「平気じゃないっす。まさかこんな時間になるとは」


 理心が戦々恐々といった様子で呟く。


「寮母さん結構厳しいんすよ。門限破りな上に夕飯もいらないなんて言ったら、どんな目に遭うか……」


 こいつがここまでうろたえるのは珍しい。

 きっちりした、いい寮母じゃないか。


 他人事みたいに考えていると、怜が援護してきた。


「問題ありません♪ 給仕部が派遣されている部は、門限やその他に少し融通が利くので♪」


 どういう権力を持ってるんだ、給仕部は。


 この学園の方針に少々不安を抱きつつ、俺は二人を寮まで送り、そのまま帰宅した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ