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第26話【その後①】

 話し声で目を覚ますと、馴染みのある天井が見えた。

 上体を起こし、周囲を見渡す。いつの間にか電気が復活していた。

 それに、ソファーで寝たはずの俺は部室のベッドで寝かされていた。

 ずきずきと痛む頭を触ると包帯が巻かれていた。髪にも血はついていなかった。


「あ、先生、おはようございます♪」


 ベッドの傍ら、椅子に座りながら介抱してくれていたであろう怜が気付き声をかけてくる。


「ああ、おはよう……。理心は無事か?」


「理心さんならあっちで部長とご歓談中です♪」


 怜の持つタオルは血で赤黒く汚れている。どうやら丁寧に拭いてくれていたらしい。奥に視線を向けると理心と灯火が並んで座っているのがわかった。


「……っ、あったまいてぇ」


 二日酔いとは別種の頭痛が意識の覚醒と共にどんどん強くなっていく。

 あの野郎、思いっきり人の頭を蹴りやがって。


「大丈夫ですか……? 応急処置はしましたが、あとでちゃんとした治療を受けたほうがいいですよ♪」


「この包帯も怜が?」


「はい♪ 素人仕事ですが、血は止まっていたので消毒と洗浄をして処置しておきました♪」


「そうか……ありがとう」


「どういたしまして♪」


「……なあ怜、大事な事聞いていいか?」


「え……はい?」


 神妙な俺の態度に違和感を覚えた怜が戸惑い気味に聞き返す。


「ハゲてなかったか? 大丈夫そうか、俺の毛根は」


「……血は止まっていますよ♪」


「おい! 誤魔化すな!」


「元気そうじゃない、玄」


 真白がベッドに近づきながら言ってきた。本当か? 俺の毛根は元気か?


「真白、来てたのか」


「そりゃ来るでしょ。学園で不審者が暴れた現場なんだもの」


「その不審者たちはどうした」


「おばあさまが持って行ったわ。細かい聴取は向こうでやってくれるでしょ」


「そうか。……俺、どんくらい寝てた?」


 怜に問いかける。


「2時間も経ってないですよ♪」


「そんなもんか」


 改めて部室を見る。灯火と理心はソファーでなにやら話し込んでいる。

 ライアンは箒を持ち、物が散乱した部室を掃いていた。

 そして部室の厨房のカウンターの椅子に腰掛ける見慣れない少女がひとり。


「誰だあれ」


 制服を着ているから生徒なんだろう。


「気にしなくていいわ。臨時の護衛役よ」


「護衛だあ? 生徒じゃねえのか?」


「生徒よ。でも気にしないで。問題ないから」


「問題あるだろうよ……」


 カウンター上の置物を興味深そうに観察していた少女が振り返り、目が合った。


「っ」


 瞬間、背筋に怖気が走った。全身が総毛立つ。

 嫌な汗が体中から噴き出した。


「……先生?」


 俺の様子に訝しげに首を傾げる怜。


「……真白、あいつ、なんだ……?」


 俺と少女は数秒間見つめ合う。やがて少女はふっと微笑みを浮かべ座っていた椅子から飛び降りるようにしてこちらに向かってきた。


「彼女は……」


「はじめまして。鳴神天理と申します」


 少女はベッドの傍らに立ち俺と目線を合わせる。

 想像よりも小柄だ。灯火よりも身長は低いかもしれない。


「鳴神……」


 聞き覚えはない。この娘の持つ異様な気配からは嫌でも天下五剣を連想してしまう。少なくとも、天下五剣にそんな名はなかった。候補者の一部か……?


「今日は少しお邪魔しただけなので気になさらずに。そろそろ帰ろうと思っていたので、挨拶だけでも出来て光栄です。鬼童先生」


「あら、もう帰るの」


「ええ。夜更かしは美容の大敵ですから」


 普通に軽口を叩きあう二人。真白はなぜ普通に話していられるんだ。こいつは今まで会ったどいつよりも……。


「それでは先生。また別の機会にゆっくりお会いしたいですね」


「……気を付けて帰れよ」


 未だに脳内で鳴り響く警鐘。精一杯の強がりを言って少女を見送る。


「どうしたの、玄」


「お前、何も感じないのか?」


「? 何が?」


 分からないのか。俺は、生徒に対しても、他の人間に対してもここまでの戦慄を覚えた事はなかった。この少女は只者じゃない。


「さあ行きましょうか」


 扉の横で天理が呟く。すると「ああ」と男の声が聞こえた。

 声が聞こえると同時に、その男の姿を認識できた。

 待て。いままで気配も何も感じなかったぞ。突如現れた男に困惑する。

 天理は入口で丁寧にお辞儀すると、謎の男と共に去っていった。


 なんなんだ。頭を強く打っておかしくなったのか?

 他の反応を探るように視界を巡らせる。

 ライアンと灯火はどうやら異様さを感じ取っているらしかった。

 天理が去ると同時に気の抜けたように緊張を解いた様子が伝わる。

 俺は未だに緊張が解けずにいる。もしさっきの少女がこの場で暴れたりなんかしたら、俺は止められるのか……?


「先生、大丈夫ですか? 傷が痛むんですか?」


「……いや、大丈夫だ」


 怜のおかげで少しだけ緊張が解れた。

 とにかく、寝ている間に何があったのかを真白に聞く。


「主犯格と思われる男とその他数人はおばあさまの介入で拘束。凶器の類も押収したわ。そのあとは……」


 ちらりと真白が怜を見る。

 ?

 なんか真白の顔が引き攣ってる。


「どうかしましたか♪」


「い、いえ。なんでもないわ」


「?」


「そ、そのあとは特になにも。怜が貴方を診ていてくれていたから、理心さんと灯火でお茶してただけよ」


 掃除をライアンに任せて、か。良い身分ですね、本当に。

 ほんとにライアン様様だな。ライアンのおかげで俺はあの場面で安心して寝落ちすることができた。


「そうですか。まあ無事終わってなによりだな」


「無事に、ねえ」


 含みのある言い方だった。


「なんだよ」


「これで終わり、そう簡単な話じゃなさそうよ」


「どういう事だ?」


「さっきの、鳴神天理さんと合流したあと、私はライアンを一人でここに向かわせたわ。でも、その途中で何者かに襲われた」


「襲われた?」


「そう。ただ襲われただけじゃなく、ライアンは一度、完全に意識を失ったらしいわ」


 そういえば部室に来た時のライアンは全身血だらけだったな。それに、あの服の裂け方は完全に刀によるもの。部室にいた奴らも、最後の一人が刀を持ち出しやがったし、ライアンの刀傷はそういった雑魚に付けられたもんだと思っていたが……。

 一度はライアンが負けたとなると話は別だ。ライアンはとんでもなく打たれ強いし、見た目通りの怪力だ。生半可な人間に後れを取るなんてありえない。


「そのライアンを襲ったやつは?」


「分からない。その後なんのアクションも起こしていないってことは、もう学園から出ている可能性もある。潜んでいる可能性もね」


「そりゃ厄介だな……」


「もしかしたら、天下五剣に名を連ねる人物、そのものが裏で関わっている可能性も考えられるわ」


「確か、理心が狙われる理由は、理心の兄貴が五剣の一人だからその失脚を狙ってって事だったよな」


「そうね。あくまでも憶測だけど」


「他の五剣が理心の兄貴をよく思っていないってのはありえるだろうな。けど、それで天下五剣のひとりが、わざわざ学園内に侵入してくるなんてありえるか?」


「……さあ。少なくとも、ライアンを簡単に倒せる人物がいた事だけは確かよ」


 なんとなく真白の言い方が気になった。何かを隠してる?

 その時、さっきの少女が脳裏をよぎる。


「……鳴神天理ってやつは?」


「ないわね。ライアンと別れたあと、彼女は私とずっと一緒にいた。付き添いの彼も同様にね」


「そうか……」


 天下五剣。日本国内で剣を極めたとされる上位五名に与えられる称号。

 政治面でも彼らの発言権は大きいと聞く。そのため、その称号を自分の家の者に授けたいと思う名家は多い。

 藤咲の家がどうなのかは詳しく知らないが、現状、天下五剣に名を連ねる者の多くは古くから続く格式ばった家ばっかりのはずだ。

 特に、宮本や柳生なんかはその意識が強い。


「理心さんの為にも、早い所解決したいわね」


 言いづらそうに真白は呟く。


「だけどまだ、火種は燻ったままか」


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