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第22話【中間試験④】

「先生、今日は焼き鳥です♪」


 焼き鳥かぁ……最高のビールのつまみじゃねえか。

 俺の高級そうな机にはいつの間にか缶ビールが置かれていた。

 ああ……何も気にせずに焼き鳥を頬張ってビールを一気飲みしたい……。


「……最高だな」


「どうしたんすか先生」


 理心が怪訝そうに俺を見ていた。


「いつもならがっついて労働後のビールは美味い。って言うところじゃないっすか」


「そうだね」


 自分でも覇気がないのを自覚していた。

 時刻はまだ18時。予定の時間までまだ3時間もあった。


「先生、少しくらい飲んだらどうだ。普段と行動が違うと不審だ」


 灯火が俺に近づいて耳打ちしてきた。


「失礼だね、君」


「少しだけでも飲んだらどうだ」


「俺は仕事とプライベートを分けるタイプなの」


「それは嘘だろ」


「うん」


 看破されちゃった。本当の所、飲むと目に力が入らなくなって弱体化するからなのよね。

 あー、でも飲みたい……。1本だけなら3時間後には酔いは冷めてるか?

 誘惑に負けそうになっていると、不意に部室の扉が叩かれた。


 こんこん。


 控えめに。


 その瞬間、俺は灯火と目配せする。

 嫌な予感がした。


 来客に対応しようと怜が扉に近づく。


「怜、出なくていい」


「?」


 怪訝な顔をする怜の横を通り過ぎて、警戒しながら扉を開けた。


「……」


 廊下には誰もいなかった。


「あら、変ですね」


 俺の横から廊下の様子を見た怜が呟いた。

 すると、階段に続く廊下の奥から、こんこん、と床を叩く音が聞こえた。

 誘ってる? ずいぶん雑だな。


「はぁ……ちょっと様子見てくるわ。しばらく部室から出るなよ」

 どちらにせよこのタイミングでの来客を放置はできない。

 俺は再度、灯火と目配せして廊下に出た。


 俺が音のした方に向かうと、こんこん、こんこん、とわざとらしく床を叩く音はゆっくり遠ざかっていく。

 文芸部室は部室棟2階の端にある。その真反対の部室の中で、その音は止まった。


 確かここは、演劇部の備品置き場だ。

 がらりと扉を開ける。

 中は真っ暗だった。黒いカーテンで閉め切られた部屋は廊下の明かりが唯一の光源だった。

 微かな光を頼りに室内を見渡す。

 衣装を着せられたトルソーがいくつも並び、段ボール箱が何段も重なっておかれている。物が多いせいか、広さの割に圧迫感を感じる。


「誰かいるのか?」


 扉から室内に呼びかけるが反応はなかった。

 例の音は鳴りやみ、周囲は不気味な程静かだった。

 入るしかない、か。嫌だなぁ……俺、ホラーとか苦手なのよね。


 こういう暗い部屋にトルソーとかあるだけで無理。

 いっその事立ち去ってみようか。


「先生、早く入ってきてよ」


 中から声が聞こえた。特徴のある、どこかで聞いた覚えのある声。

 室内のどこから聞こえたものなのかは判別できない。

 確実に、相手は俺をこの室内に入るのを誘っている。

 ……まぁいいか。

 仮に罠だとしてもなんとかなるだろ。

 部室の方には灯火が残っている。それに、近くにはライアンも張っているはずだ。


 とはいいつつも警戒を怠らないように気を付けながら部室に足を踏み入れた。


「入ってやったぞ、そろそろ姿を見せろよ」


 室内の中心で足を止めて呼びかける。


 すると、入ってきた扉ががらりと閉まる音がした。

 どこかに隠れていたであろう人影が扉の前で笑いかける。


「やあ先生、久しぶり」


 学園の制服を着た男子がそこにいた。

 生意気そうな雰囲気を漂わせた童顔系イケメンがそこにいた。


「誰だ?」


「あららもう忘れられちゃった? 去年、文化祭で遊んでくれたじゃん」


 前は顔を隠してやがったから。

 そうか……こいつか。あの時聞いた名は確か。


「……(かがり)、だったか」


 去年の二度目の理心を狙った襲撃、それは文化祭の時に起きた。

 学外の人間を多く招く催しの為、不審な人物が紛れても気付きにくい。それを利用して散々俺と理心を振り回した男、それがこの篝だ。

 どこかで聞いた声だと思ったよ。


「よかった、思い出してくれたんだ」


「どうしてお前が制服なんて着てる。それに、顔を隠すのはもうやめたのか?」


 初めて理心を襲った時も、文化祭で目の前に現れた時も、こいつはフードや布で顔を隠していた。


「ひとつ。制服を着てるのはここの生徒だから。ふたつ。もうこれで終わりにするつもりだから」


「お前が、生徒……?」


「そ。2年Cクラスのね」


 理心と同じ学年、同じクラス、か。


「理心を狙う為に、同じクラスに紛れてたってわけか」


「ま、半分は偶然。僕も個人的な用でここに入ったんだけどね。藤咲理心の件はおまけ」


「おまけだあ?」


「そ。もっと簡単に済むと思ってたんだけどね。まさか先生みたいなのがいると思わないじゃん?」


「お前の用件ってのはなんだ」


「それは内緒。でもその用件も、もう意味のないものになっちゃったから、僕が学園にいる理由なくなっちゃったんだよ」


「だから、これで最後にするつもりで姿を曝したのか」


「そういうこと。お互い何度もやり合うのも面倒じゃない? 僕はもう、藤咲理心の件から身を引きたいんだよ。でも、なんの実績も出さずには終われない」


「お前の事情なんて知るか。とっとと諦めて帰れ」


「そういう訳にはいかないんだ、残念だけど」


 そいつは、目をすっと細めて続けた。


「だから、藤咲理心は連れていくよ」


「させるかよ」


「ま、そうなるよね。ほんとめんどくさい」


「こっちの台詞だ」


「ね。先生強いし、骨が折れる仕事だよほんと」


「どっちにしろお前らの企みは無駄になるんだ。早めに観念した方が痛い目に合わずに済むぞ」


「大丈夫大丈夫。成功する目のない勝負を仕掛けるわけないじゃん」


「お前は俺に勝てると思ってるのか?」


「さあ? 仮に負けても、時間さえ稼げればいいんだ。こうやって、ね」


 話しながら、篝は指をぱちん、と鳴らした。途端に廊下から差し込んでいた微かな光が消えた。廊下の照明が消えていた。


「あ?」


 瞬間、鋭い蹴りが俺の眉間目掛けて繰り出される。


「さぁ、やろうよ先生!」


 俺はその蹴りを避けようとしたが、備品で溢れる室内では満足に動けなかった。


「ちっ……めんどくせぇ!」


 俺は蹴りを腕で受け止めた。

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