表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/33

第21話【中間試験③】

「給仕部は学園中の部活、そして物資の流れに大きく関わっているわ」


 足を組み直して真白は続ける。


「食材、備品、工事、清掃、搬入。あらゆる部活に派遣要員を送っているからこそ、作業内容やその内側にも詳しい。ただの教員でしかない私や貴方よりもね」


「……それで?」


「それにも色々申請や確認作業が必要なのよ。

 そして、その承認をするのが、私、もしくはこの二人。ここまでが前提。いい?」


「ああ」


 前提から話し始めるのはこいつの癖みたいなものだ。


「そこでこの紙だらけの部室に、変な書類がいつの間にか紛れていた」


 真白は雪之丞に目配せした。


「あ、はいぃ……あれ、どこだっけ……。あ、これだ……こ、これですぅ」


 一枚の書類を差し出された。


「……文芸部、搬入手続き申請?」


「そう。この間、貴方の城である文芸部には大きな変化があったでしょう?」


 ……あったなぁ。とんでもない大きな変化。

 元々は、今いる給仕部部室と広さ的には大差なかったはずの文芸部室は今や教室ひとつ分広がり、更には喫茶店とレストランが混ざったような厨房、そしてシャワーとトイレに大型ベッドまで増えている。


「ま、それはいいのだけど、承認したのは私だし」


 お前なのかよ。


「問題なのは、この書類がそれとはまったくの別件っていう事よ」


「つまり、どういう事だよ」


 俺は受け取った書類を読みながら答える。


「私が承認したのはこの間の工事だけ。この書類に関しては認可どころか認知すらしていない」


「あ、あたしも、承認した覚えはないですぅ……」


「我もだ」


 手元を見る。そこにはしっかりと承認を示す印が印されていた。


「……承認する権限を持ってるお前らの誰も、この書類を承認した覚えがないってか」


「そういうこと」


 偽造? 何のために? あぁ……それで理心に繋がるのか。


「ここにいる誰でもない、誰かが書類を偽造してこの部室に紛れ込ませたと?」


「そうじゃないとおかしいでしょ?」


「お前らが承認した事を忘れている可能性は?」


「残念ながらないわ。私はそんないい加減な人間を自分で使うつもりはない。……というより、その承認印、誰のものとも一致しないのよ」


 俺はいい加減な人間だけどお前にこき使われてるぞ。


「一致しない……ね」


「こういう時の為に、承認印と朱肉は専用のものを使っているの。調べればすぐにわかるようにね。基本でしょ?」


 何が基本かわからんが。とにかくこいつはこの搬入手続きの書類が偽造である事を見抜いた。


「しかし、よく見つけたな、こんな紙の山から」


「それは明美の功績ね」


「あ、い、いえぇ……たまたまですぅ……はいぃ……」


 雪之丞は手元をせっせと動かしながら続ける。


「こうして、日付毎に整理してまとめておくんですけどぉ……この書類だけ、なんとなく浮いて見えた……と言いますかぁ……」


 普段の日常の癖やらに違和感が滲んでいたわけか。


「それで、この書類と理心がどう繋がる」


「確信はない、と言ったでしょ。でも、わざわざそんなものを用意するなんてただ事じゃないでしょ。ましてや文芸部、に」


 含みのある言い方をする。


「でもこれ、明日の日付だぞ」


「だからよ」


「?」


「試験間近で校内にはほとんど人が残っていない。それなのに文芸部に搬入の申請。本来なら自然よ。人のいない時間に作業を依頼するなんていうのは。でも、その時間、普段の貴方たちはどう過ごしてる?」


 ……なるほど。


「俺たちは理心を寮に送る為に、それなりに遅い時間まで残ってるな」


 人の少ない寮も、人気のない場所も、理心を狙う輩からしたら絶好の的になりうる。だからこそ理心はこの一年、俺の近くで過ごしてきた。いざとなれば暴力で解決できる、俺の傍で。


「俺は部室で酒飲んで、そのあとに理心を送っていくのが日課と言っていい。給仕部が介入してきてからもそれは変わってない」


「その時間は?」


「……だいたい、ここに書いてある通りだな」


 書類には、搬入時間21時と書かれていた。


「……真白、お前がわざわざこうして場を用意した理由をなんとなく察した。だけどそれはやめた方がいいんじゃないか」


「あら、どうして?」


「危険が多い。お前はこの書類を逆手にとって、理心を狙う奴らを迎え撃つつもりだろ」


「そうね。正解よ、よしよし」


 口では軽く言うが、真白の顔は真剣そのものだった。


「理心の近くには、今では怜もいる。巻き込むのは理心の本意じゃねえ」


「そのために、ここにいる二人に話をしたのよ」


「ああ。天城先生の言う通りだ。我らは事情を聞かされた」


「なんでそう面倒事に関わるかね」


「先生、知らないのか。我らは、他人に奉仕するのが生き甲斐の変人集団と呼ばれているんだぞ」


「理心の為に、危険な目にあってもいいって?」


 そんなの、奉仕でも給仕でもなんでもないじゃねえか。


「安心しなさい玄。そもそも、私だってただの生徒にこんな事お願いしないわよ」


 そう言ってまた足を組み替える真白。


「この子たち、強いから」


「……は?」


 いきなりなんだ。


「給仕部の部員は何故か、皆誰かに仕えたがっている」


 灯火が言う。


「主と定めた者に出来うる限りの奉仕と献身、そしてその主を守る為に、武を鍛えている者も多い」


「なんだそりゃ」


 そんな感想しか出てこなかった。


「我も、護身と警護を兼ねていくつか心得がある」


 そう言われてもな……。



「迎え撃つ上で必要なのは強い駒と頭数。

 強い駒一騎で足りるならライアンだけで十分。だけど万全を期して、この子たちにも声をかけたの」


「強いっつったって……」


 俺は灯火を見る。

 いつもの改造制服、メイドさんみたいな恰好した女の子がそこにはいた。


「生徒を巻き込むのかよ」


「元々生徒の問題よ。藤咲理心という、ね」


 ……。


「玄、貴方は勘違いしているわ。私はただ強いだけの生徒に危険な事を頼んでいるわけじゃない」


「どういう意味だ」


「貴方と同じ、この二人は理屈の外側にいる」


「いやまじでどういう意味だ」


「灯火も明美も、ライアンと張り合えるくらい強いのよ」


 はあ?


「……」


 俺は灯火、雪之丞、ライアンを交互に見る。

 ありえん。

 灯火も雪之丞も、身長的には150cm前後くらいしかない。

 対してライアンは2メートルを優に超えている。しかも筋肉モリモリマッチョマンときた。


「疑うなら試してみる? 言っておくけど、私だって半端に強い程度の生徒にはこんな話しないわよ」


「そうは言っても生徒は生徒だろ」


 俺たち教員からしたら守るべき対象のはずだ。

 どうにも俺は納得できかねていた。


「……玄」


「うわっびっくりした。急に喋るなよ」


 ライアンが渋く太い声を絞り出すように言った。


「……オレが守る」


 心配するな。とだけ言った。


「……何を」


「……」


「灯火と明美を、そして理心さんと怜の事でしょ?」


 こくり。

 真白の問いにゆっくり頷いて返事した。

 相変わらず主語もなにも足りていないやつだ。


 確かにライアンは強い。学生時代、こいつとやり合った時はかなりしんどかった。蹴っても殴っても向かってくるし。何度ぶっ倒れても起き上がってくるし。

 そういえば、こいつの昔のあだ名はフランケンだったっけな。

 強面なだけの異名ではなく、その打たれ強さを加味したものだった。



「……それで、理心を囮にして、実行犯を誘き出して、どうするんだ」


「制圧するのよ」


 簡単に言うじゃねえか。


「相手は私たちが偽の書類に気付いた事を知らない。まんまと誘き出されている事も知らずにのこのこやってきてくれるのよ」


「それで上手くいくと?」


「行くわよ。貴方がいるもの」


 閉口するしかなかった。

 真白が俺をどういった目で見ているのか知らないが、事はそう簡単じゃない。

 去年、理心を襲った人物。現場でその指示を出していた司令塔には既に二度も逃げられている。

 廃墟で襲われた時、そして文化祭での外部の人間に紛れて襲われた時も、同一人物だった。


「相手は強いぞ」


「知っているわ。貴方が二度も取り逃がすくらいだもの」


 真白は目を伏せて続けた。

「でも、理心さんの問題は、早く片付けるにこしたことはないわ……もう、理心さんも二年生になっちゃった……自由な時間は、どんどん減っていく」


「……」


 それは俺も考えていた。

 理心、あいつは未来を諦めてこの学園に来た。

 最後の自由だと。その自由までもが、誰かの手によって歪められている。満足に自由に外を歩くこともできず、毎日毎日部室に足を運んで本を読む。

 俺は、もっと理心に自由を与えてやりたい。それが例え、この学園にいる間だけの仮初のものだとしても。


「それで、お前はどう駒を配置するつもりだ」


「腹をくくってくれたのかしら」


「やるだけやってやる」


 それで、理心の学園内での自由が約束されるなら、悪くない賭けだと思った。


「貴方たちは、普段通り過ごしてくれていいわ」


「予定では明日が本命だよな」


「この書類を鵜呑みにするならね」


「つまり、明日の夜21時前後に物騒なやつらが理心を攫いに来る、と」


「そうね。……しばらくライアンは理心さんを守る駒として使う。でもこんな巨人を近くに置いておいても目立つでしょ。だからいざという時以外は身を隠していてもらう。理心さんを普段から守る役目は、灯火に任せるわ」


「はい。そういうわけだ、先生」


 タメ口変わらず。


「ところで、こいつらに俺の事を言ったってのは?」


「理心さんの事情を知る人物、って事よ。それだけ」


 そっちかよ。俺はてっきり過去の振る舞いやらを話されたのかと思ったぜ。


「理心の近くには怜がいるぞ」


「怜なら問題ない」と灯火。


「藤咲も怜も、我が守る」


「お前も生徒だろうが。守られる側にいる事忘れんじゃねえ」


「我は問題ない」


「そうよ。荒っぽい部に派遣される事もある部活よ?

 自分の身くらい、自分で守れるわ」


「本当かよ……」


 俺は半信半疑だった。

 だがライアンが近くにいる。それに俺も。

 いつ奇襲があるかわからない。


 今日は酒、飲めそうにないな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ