第20話【中間試験②】
授業を終えて給仕部の部室へ向かおうとした。困った。
場所、分かんねえ……。
いままで給仕部の活動とは無縁だった為、所在地不明。
灯火を探すか、真白に電話して聞くか?
どっちも却下。灯火が分かりやすい場所にいる保証もないし、真白に
「給仕部の部室ってどちらですか?」なんて聞こうものなら、またいつもの罵倒が飛んでくるのは目に見えている。
「こういう時は頼れる旧友の出番だ」
俺はスマホを取り出して熊崎に電話した。数コールの後、繋がった。
「もしもし、熊崎か」
『鬼童くん、お疲れ。どうしたの?』
「給仕部の部室ってどこにあるんだ?」
『給仕部の……? ごめん、知らない』
「まじかよ」
『部員同士もお互いの顔を知らないような所だし、そんなに大っぴらに公開してないんじゃないかな』
「……詰んだ」
『どうしたの? 給仕部に用事なら真白ちゃんに聞いてみたら?』
「やっぱりそうなるか」
『真白ちゃんなら知ってるでしょ。給仕部の顧問だし』
「……熊崎、今なんて言った」
『え、給仕部の顧問だよ、真白ちゃん』
「初耳ですが」
『え、意外。二人仲良いから知ってると思ったよ』
「別に仲良くない。腐れ縁なだけだ」
『まあそういう事だよ。あ、ごめん、ちょっと呼ばれちゃったから切るね』
そのまま通話は途切れた。
まじか。俺、本当にこの学園で雇われてんだよな?
同僚の事知らなすぎだろ。
「先生どうしたー?」
廊下で呆然と突っ立っていると生徒が話しかけてきた。
「桜葉か」
確か、桜葉澪。軽い振る舞いから想像できないくらい成績が良い。いつも気だるそうに授業を受けているのに、いざテストとなると学年でも上位の成績を叩きだす。そのギャップと授業中の軽口のおかげで覚えのいい生徒だった。こうやって気さくに話かけてくるのもいつも通りだ。
「おつー。どしたんスマホ見て固まっちゃって。誰かに振られた?」
「ちゃうわ」
「なんだつまんないなー」
そう言ってその場を離れようとする桜葉。
望みは薄いが生徒の方がこういった事情には詳しいかもしれん。試しに聞いてみた。
「ちょっと待て桜葉。給仕部の部室の場所とか、知らない……?」
「……知ってるけど」
「まじかよ。教えてくれ」
聞いてみるもんだな。
「え、嫌」
「え? なぜ?」
「知ってる人そんなにいないんだよね。たぶん灯火は隠してるつもりもないだろうけど。ていうか先生給仕部になんの用なの」
こいつ灯火を知ってるのか。ん? 待てよ。
俺はさっきまで授業をしていたクラスの名簿を見る。
祇条灯火。クラス名簿にしっかり名前が書かれていた。
「あいつお前と同じクラスかよ」
「え、先生知らなかったの、やばー」
「あいつ、席どのへんだ」
「んっと確か、先生から見たら左側の真ん中らへん」
「んー……? あ……」
いつも学年一位か二位の祇条さんか。そうか、祇条、だもんな。あいつが、祇条さん? 真面目に授業を受け、無駄口も叩かず淡々と授業に聞き入る、あの祇条さん?
「あいつかよ!!!」
「うわ、びっくりした。なんなの……」
「普通の制服じゃん!」
「それがなに……」
「あいつ放課後はメイドさんじゃん!」
「そうだね」
「授業中と全然イメージ違うじゃん!」
「わたしに言われてもねぇ……」
「はぁ……まじか……祇条さんが灯火か」
「なに当たり前の事言ってんの……」
ちょっとショック。いや、なににショックを受けてるのか自分でもわからんけど。
「まあいいや。その灯火に部室に来いって呼ばれてんだよ。場所教えてくれ」
「……ほんと?」
「こんな嘘吐いて俺になんの得があんだよ……」
「それもそうか……」
んー、と悩んでいる桜葉。
「……一応、灯火に確認していい?」
俺ってどこ行っても信用ないのね。まあいいけど。
普段が普段だし。
「構わん。早くしてくれ」
これ以上時間をかけると待たせてる身としては申し訳なさも出てくる。それ以上に待たせたら真白が何を言ってくるかわかったもんじゃない。
「……その必要はない」
背後から急に声が聞こえて飛び跳ねた。
「びっっっくりした! お前いつからいた!」
背後に灯火が立っていた。
「なんとなく、声を掛けづらくてな」
「なんで」
「あいつかよ、とか、メイドさんじゃんとか聞こえてきたから」
「あ、はい。すみません祇条さん」
「……まあいい。澪、手間を掛けたな。先生は預かる」
「あ、うん……でもなんで先生を?」
灯火は少し逡巡し、短く言った。
「言えない」
「なにそれ、変な邪推しちゃうじゃん」
「しても構わん。とにかく、この件はお前でも言えない」
「ふーん。ま、いいけどね。変なことすんなよー」
「するか!」
俺はすぐさま突っ込んだ。
桜葉澪はひらひらと手を振り、そのまま去っていった。
***
灯火の後に着いていき、辿り着いたのは普段空き教室として扱われている場所だった。
使われていない机や椅子が置かれ、半分物置と化している。
「ここ?」
「この奥だ」
教室に入り、更に奥の扉を開く。
音楽室や美術室などに備えられている準備室、のような場所だった。
「遅いわよ」
事務机の上で腕と足を組んでふんぞり返る真白が出迎えた。その後ろではライアンが天井を気にしながら佇んでいた。室内はそんなに広くない。ライアンのような大男がいると圧迫感がすごい。
「すみません、天城先生。鬼童先生を拾うのに時間が掛かりました」
真白に対して妙にかしこまる灯火。え、もしかしてそれが目上に対していつも使ってる顔か? 俺や熊崎には初対面からタメ口だったぞこいつ。
「つまり玄が悪いって事じゃない」
「そうかもしれません」
「おい」
反射でツッコんでいた。
しかし凄い部屋だな。
壁際の棚にはファイルに纏められた書類がぎっしりと収まっている。部屋の奥には整理しきれていない書類の山が積みあがっていた。
ん?
書類の奥でせっせと動く見知らぬ生徒がいた。
「あれは……?」
床に正座しながら書類の仕分け? のような作業を続けている女性徒。
「あ、はじめましてぇ……あたし、雪之丞と言いますぅ……」
自信なさげに頭を垂れる雪之丞と名乗った生徒。
「我が給仕部の副部長の雪之丞明美だ」
やっぱり俺にはタメ口なのね。
「で、なんで俺はこんな紙の山の部屋に呼ばれたんだ」
「……まだ確信はないけど、おそらく藤咲理心さん絡みの事で、貴方の耳に入れたい事があってね」
……まさかこの場にいない理心の話題を出されるとは思っていなかった。
それにこいつ今、藤咲って……。
「いいのか、ここでその名を出して」
「問題無いわ。灯火には昨日、全部話したから」
雪之丞さんにもね、と付け加える真白。
「は、はいぃ……聞いちゃいましたぁ……」
おどおどとしつつも書類の仕分けを続ける雪之丞とやら。
「事情は聞いた。それに、先生の事も……」
「それもか……」
まさか一生徒にまで俺の事を話されるとは思ってなかった。
「まずは説明しましょう。私が何故、この二人を巻き込んだのかを」
「そうしてくれ」
正直、若干混乱していた。




