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第19話【中間試験①】

 いつも通り、職務を終わらせて文芸部室に向かう。

 今日は試験前の雑務やらで少し遅くなった。

 試験期間は授業も午前で終わり、ほとんどの部活動もその活動を休止している。

 我が文芸部部長には問題が多い。試験期間中であろうと部室に足を運んでいるだろう。去年がそうだったからな。

 がらりと扉を開ける。


「お疲れ様です♪」


 メイドさんが出迎えてくれた。

 朝霧怜。給仕部とかいう得体の知れない部の一員。


「今日は少し遅かったな」


 メイドさん二人目。

 祇条灯火。同じく給仕部の部長さん。


「この時期は普段より忙しいらしいっすよ」


 そしてソファーに寝そべり、だらけながら本を読むのは我らが文芸部の部長、明智もとい藤咲理心。


「お前らなんでいるの」


 理心がいるのはわかる。だが他の二人はなぜ帰っていないのか。試験期間は勉強しなさい。


「私はここでテス勉っす」


 どう見ても本読んでるだけだよな。


「私は理心さんがいるので♪」


 答えになっているようでなってないんだよな。


「我は先生に用があった」


 まともなのは一人だけか。


「用?」


「確認したい事がある。明日でいいんだが、給仕部の部室に来てほしい」


「またここじゃ言えない話か?」


 灯火は横目で理心の様子を窺った。


「そうだな。出来ればそうして欲しい」


「わかった。授業終わってからでいいんだろ?」


「ああ頼む」


「はいはい」


 話が終わるといつもの定位置に座る。高級そうな机ちゃん。


「先生、どうぞ♪」


 いつも通り怜が冷蔵庫から缶ビールを取り出して机に置いてくれる。


「さんきゅ」


 缶ビールを開けて一気に半分程流し込んだ。


「ぷはぁ……労働後のビールは最高だな」


 ふふ、と微笑み「今おつまみをお持ちしますね♪」とメイドさんは厨房に入っていった。


「先生は休みの日でも飲んでるじゃないすか」


「何もせずに飲むビールも美味いんだよ」


 結局酒は正義という事だ。


「あまり飲み過ぎるなよ。我は戻る」


「今日は食っていかないのか」


「我もそれなりに忙しいんだ」


 あ、それと、と前置きして灯火は言った。


「天城先生から言伝だ」


 一気に嫌な予感が噴き出してきた。


「……真白が?」


「楽しみにしていなさい、と。ではな」


「……どういう意味だよ」


 俺の呟きに反応せずに灯火は部室から出ていった。

 真白? 灯火からの呼び出しにあいつも絡んでるのか?

 一気に行く気がなくなった。けど俺はあいつに逆らえない。

 陰鬱としてきたところで厨房から怜が戻ってきた。


「どうぞ♪ 揚げ豆腐と枝豆です♪」


 最高だな。

 揚げ豆腐の上には筍とさやえんどうを絡めた餡がかかっていて美味そうだった。


「メインは筍とチーズたっぷりのグラタンです♪」


 珍しい組み合わせに感じるが美味そうだった。

 怜の給仕により陰鬱さは一瞬でどこかへ消え去った。

 明日の事は明日考えればいい。

 とりあえず今は酒を飲んで酔っ払う事しかもう頭になかった。


 その後二日間、満足に酒が飲めない事態になるとは思ってもいなかった。



 ***



 怜は三人分のグラタンを用意し、春野菜と魚介のパスタまで出してきた。三人で座って美味しくいただいた後、俺はいつものように二人を寮に送っていく。

 部室の戸締りをして三人で外に出た。

 校舎の外は春とはいえ夜はずいぶん冷える。


「うっ寒っ……」


 空っ風が吹き冷たい風が吹きつけた。

 理心は自分の身体を抱える様にしてあからさまに寒がっていた。


「お前薄着な」


 ブレザーを脱いでシャツ一枚だった。


「制服教室に置きっぱなしっす」


「なんで」


「体育のあと暑かったんで」


 シンプルな理由だった。


「忘れんなよ。取り行くか?」


「いや、平気っす」


「理心さん、どうぞ♪」


 怜は羽織っていたストールを理心にかける。

「悪いっすよ」

「もう一枚あります♪」

 そう言って怜は四次元リュックからストールを取り出す。もう突っ込まん。


「先生もいりますか♪」


「大丈夫だ」


 まだ入ってるのか……。

 そのうちあのリュックからどこにでも繋がる扉とか出てくるんじゃないだろうか。


「さっさと行くぞ。俺は帰って飲み直す」


「まだ飲むつもりっすか」


「おつまみいりますか♪」


「……いらない」


 本当はちょっと気になった。けど下手な事を言うと部屋にまで来そうだし。もしくはあのリュックからなんか出てくるのか?


「ほどほどにしないとマジで身体壊すっすよ」


「我慢は体に毒って言うだろ。どっちにしろよくないなら俺は我慢しない」


「どういう理屈っすか」


「明日は体に良さそうな物でもご用意しますか♪」


「知らんのか怜、体に悪そうなものの方が美味いんだぞ」


「体に良いものも美味いっすよ」


「頑張って美味しくします♪」


 確かに怜の作る飯はなんでも美味い。

 毎日美味い飯をありがとうございます。

 今度何かリクエストでもしてみるか。

 いや、これ以上甘えたら本当にダメ教師の烙印を押されそうだ。


「もう遅いっすよ」


「心読むなよ」


「なんとなくっす」


 なんとなくでそんな的確なツッコミ入れんな。


「本当に仲良いですね♪」


「そうでもない」


「そうっすね」


 そんな会話を続けていたら女子寮に着いた。


「着いたぞ」


「どうもっす」


「ありがとうございます♪」


「じゃあな。寝坊すんなよ」


「先生も飲み過ぎ注意っすよ」


「はいはい気を付けますよ」


 エントランスに入っていく二人を見送る。

 理心がストールを返している光景を眺めつつ、姿が見えなくなるのを何気なしに見ていた。


「さて、帰るか」


 俺は自分の部屋に向かって歩を進める。


「くしゅっ」


 寒いな……。やっぱり何か借りるべきだったか。

 風で揺れる木々の隙間で一瞬、何かが光った気がした。


「あ?」


 何もない。

 視線のようなものを感じた気がしたが、気のせいだったのかもしれない。

 そのまま部屋に戻るまで、特に何か起きる事もなかった。

 ふと、灯火に呼び出されていたのを思い出す。

 面倒な事じゃなければいいが。


 まあ、真白が絡んでいるなら十中八九、俺の願いは届かない。


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