第01話【給仕部】
熊崎卓は俺の同僚。そして元クラスメイトだ。高校の頃に色々あって仲良くなった。
お互い違う大学を出てしばらく連絡も取っていなかったが、この学園で再会した。
俺は日頃の疲れを癒す清涼飲料水を求めて、熊崎の管理する酒造蔵に足を運んだ。
この施設ができた当初は、もっと本校舎に近い位置にあった。
だが匂いがあまりにも強烈で、体調を崩す生徒が続出。教育にもよろしくないということで、今では学園の端の方に追いやられている。
「あ、鬼童くん。ちょうどよかったよ」
なにやら女生徒と話していた熊崎が、俺に気づいて手を振った。
「どうした。俺は酒を貰いに来ただけだから、厄介事はごめんだぞ」
「あ、お酒切れちゃった? この間結構渡したんだけどな。じゃなくてさ、鬼童くん、給仕部って知ってる?」
「この学園にいて給仕部を知らんやつはいないだろ」
「あ、だよね。この子、給仕部の部長さんらしいんだけど……」
熊崎に促され、俺はその女生徒を見る。
「給仕部部長、祇条灯火だ」
小柄な女子生徒だった。改造した制服の二の腕には、『給仕部』と書かれたワッペンがついている。
「なんだこのメイドさんは」
「だから給仕部の部長さんだって」
熊崎がすかさず突っ込んだ。
「今年は新入部員が多くてな。例年より派遣要員に余裕がある」
灯火――祇条灯火は、簡潔にそう言った。
「この施設にも追加で人を回す案が出ている」
「でもねえ」
熊崎が困ったように笑う。
「ここ、もう三人も給仕部の子に来てもらってるんだよ。僕としてはすごく助かってるんだけど、正直これ以上は足りてるというか……」
「派遣?」
俺は改めて灯火を見る。
「どこの部にも我々は派遣要員を送っている。顧問の先生方や、部活動に励む生徒の補助要員、といったところだな」
そういえば、そんな制度もあったな。
うちみたいな部員一人の謎部活には縁がない話で、すっかり忘れていた。
「いい身分じゃねえか熊崎。その調子で酒造りに励んでくれ」
「お酒造りは順調だよ。給仕部の子たちがいろいろ手伝ってくれるし、僕の知らない知識も持ってきてくれるから、どんどん良い物ができてる。でも人手だけで言うなら、もう十分かな」
「そりゃなによりだ。外の酒が飲めない俺のために、せいぜいいい酒を提供してくれ」
「あ、外のお酒といえば、この間外注のメーカーさんから貰ったのがあるんだ。よかったらそれも持っていくかい?」
「まじかよ、最高だな熊崎ぃ」
普段通り軽口を叩き合っていたら、
「おい」
と呼ばれた。
すっかり忘れていた灯火が、じっとこちらを見ていた。
「あ、ごめんごめん、祇条さん。せっかくだけど、うちは人手足りてるからさ。余ってるなら別の部活に回してあげてよ」
「そうか。わかった」
灯火はそれだけ言って、踵を返す。
これで話は終わり――のはずだった。
「あっ、文芸部とかどうかな?」
熊崎が、余計な一言を放った。
「文芸部……?」
灯火が止まる。
俺も止まる。
穏便に済みかけた酒造蔵への散歩は、どうやら平穏には終わらないらしい。
日常の変わる気配がした。




