第10話【炉端焼き】
「今日は新鮮な魚介類をいっぱいいただきました♪」
例の如く、机の上にはたっぷりの食材。
そして俺の机には、お決まりの缶ビール。酒造蔵印。
炉端焼きができる電気式の網焼き器まで置かれていた。
「なんでそんなものが部室にあるんだ」
「あの四次元リュックから出てきたんすよ」
怜のリュックに、いつの間にか妙な名称がついていた。
「先生、少しいいか」
俺が缶ビールを開けて、完全にオフモードへ切り替わった瞬間だった。
さわら事件の後、灯火は度々部室を訪れるようになった。
そんな折、怜が厨房で牡蠣の下準備をしている最中に、お呼びがかかった。
「なんだよ」
「ここでは言えない。来てほしい」
面倒事の予感をひしひしと感じながら、俺は灯火についていった。
部室を出て、階段の踊り場まで来る。
「どうした。進路相談か」
「怜のことで少し、留意しておいて欲しいことがある」
「怜?」
「我ら給仕部がどんな噂をされているかは知っているか?」
「噂?」
「他人に奉仕するのが生き甲斐の変人集団」
「ああ」
知っている。
そして今では、間違った評判でもないなと思っている。
「怜は、その噂を体現しているような娘だ」
「体現?」
「我は、部長を名乗っているものの、そこまで他人への奉仕とやらに関心がない。出来る範囲で出来ることをして、それが結果的に他人の益になっているだけだ」
ご立派な志だな。
「それで?」
「お前は変だと思わなかったのか? 多くの私物を持ち込み、料理を振る舞い、部室の工事まで行った生徒を」
思うに決まっている。
だが俺の知っている給仕部の噂には、もうひとつどでかいのがあった。
元々この学園には屋外プールしかなかった。
それを水泳部の打診で屋内プールまで増設し、各種インフラまで整えたのが給仕部だ、という噂だ。
怜の突拍子もない行動も、その噂通りのもので、給仕部としては普通の行動なのかと思っていた。
なにしろ俺は、数日前まで給仕部と直接的な関わりがなかったからだ。
「つまり、何が言いたいんだ」
「怜の行動に注意してくれ。怜は数ヶ月前に、他人へ尽くすばかりで自滅一歩手前まで行っている」
「どういう事だ?」
「自分よりも他人を優先するんだ。病的なまでに」
「それは見ててわかる。つまりなんだ、怜は給仕部の中でも割と異質な方ってことか」
「そうだ」
灯火は続けた。
「我や他の部員は、他人のために自らを捧げるようなことはしない。結果としてそう映っているだけだ」
「怜も本人の中ではそうなのだろう。だが、尺度が常人とは一線を画している」
「あまりに行動が行き過ぎていた場合、注意して欲しい。怜自身も、自分の異常さを理解している。だが、止まれないし、変えられないのだろう」
「……」
「変えられるとしたら、今のところ怜が気に入っている文芸部にいるお前らだ」
「責任おもくない?」
「教師だろ。生徒が誤った道に進まないよう、見張ってやって欲しい」
誤った道を進んだ身としては耳が痛い。
「どうしろってんだ」
「我には分からない。だが、きっとお前たちなら……怜を変えてくれるのではないかと」
伏し目がちに言う灯火。
こいつもこいつで給仕部なんだな。異常だと思う人間がいるなら、放っておけばいいのに。
それでも捨てきれない。
情なのか、それとも別の何かなのか。
「お前もお前でお人好しなのはわかったよ。何が出来るかはわからんが、とりあえず無茶はさせないようにする」
「日頃の先生の態度を見ているといまいち信用できないがな」
「まったくだ」




