第68話 リョナスキーVS純愛厨
「うわっ、誰ですかあなた!」
「俺だよ、オレオレ」
「顔も背丈も声も違います!」
「俺だってばー。リョウですよー」
ファルメラ、本当に見分けがつかないのかー!?
俺が本気で慌てていると、ファルメラがプッと吹き出した。
「ウフフ、冗談ですよ、冗談。身のこなしや言葉遣いでリョウ様だということはすぐに分かりますから」
「ほんと!? 良かった……」
俺がこの世界にいる最大のモチベーションのひとつが彼女だからな。
横ではオトハが、「仲のおよろしいことで」とか笑っていた。
「うーん、いい女過ぎる。旦那、どっちか紹介してくださいよ」
「うるさいぞキョンシー」
生意気なキョンシーの後頭部をはたく。
「あいた! 俺への扱いが手荒いなあ」
こうして寺院内部にて、二人と合流した俺だ。
なお、ラッシュとヘッドレスは飾ってある甲冑の中に入り込み、潜伏している模様。
こちら側の武器も寺院内へ持ち込み成功したということである。
「師父、これからどうするおつもりですか?」
「そうだな。一旦この神聖粒子砲は破壊しよう。厄介だからな。いや、解析を牛にやってもらってからがいいかな」
「牛と言いますと? あ、ヘルガーディアンさんのことでしたか」
「その通り。彼は今、寺院内を隅々まで歩き回っていますよ、ファルメラ様。恐らく寺院に関する情報を隅々まで集めていることでしょう。今夜あたりに合流して、ひと騒ぎ起こして我々は離脱するとしますかね」
「師父、しかけるおつもりですね?」
「ああ。割とたっぷりと寺院の中で過ごしたからな。だが……大した情報は掴めなかった気がする。いや、情報収集以前にギフト持ちたちと絡んだり、粥を作ったり、脱出口を作って遊んでた気がする」
「リョウ様らしいというか、なんというか……」
こういった侵略活動、破壊活動は楽しくやっていかないといけないからね。
ハッピー&エンジョイ。
それがリョウ&フレンズ軍の鉄則だ。
まあ、神聖粒子砲を破壊されたとしても、ギフト持ちが集まっている寺院のことだ。
ナントカやっていくだろう。
こんな勇者の遺産とやら頼ってちゃいかんよ。
別に、俺が解析しきれなくて利用できる気もしなくて、仕方なく壊すんじゃないからな。
寺院の連中の動きが鈍化してからやろうということになり、深夜まで待機することになった。
ファルメラとオトハを俺とキョンシーの寝室に隠し……。
って、ベッドをリメイクして二人の隠れ家にしていたら、勇者がやって来たじゃないか。
「今日から寺院の世話になるゼクウだ。よろしくな」
「ああ、よろしくお願いします。やはりあなたが選ばれましたか」
俺とゼクウは握手をした。
「ああ。ここで飯を食わせてもらえることになった。俺は何の望みもなく、ここでも砂を噛むような日々を送るかと思っていたが、違ったようだ」
「と、言いますと?」
「純愛の萌芽を見つけた」
思わぬ言葉に、俺は衝撃を受けた。
こ、こいつ……!
他人のラブラブを見てニチャるタイプの変態なのか!?
「なにっ。待て。ローデスとアザレアは、ありゃちょっと気安くて年も近くて、軽く小突き合う程度の仲なんじゃないのか。愛にはまだ遠い」
「解像度が高いな」
ニヤリと笑うゼクウ。
猛獣のような笑みだ。
そして、この男は猛獣よりも恐ろしいだろう。
「そんな小さな芽を、そっと見守っていきたい。俺がこの世界にいる理由ができた」
「じゅ……純愛厨、傍観派か貴様っ!!」
純愛厨傍観派とは!
元は百合厨などから派生しており、壁や観葉植物となって、二人の愛が育まれ成就していくさまを見守りたいという欲望を持つ者たちのことだ。
「やべえ、旦那と新入りの言ってることがこれっぽっちも理解できねえ……! この人たち、何を言ってるんだ……!!」
「理解しようとしたら頭がおかしくなりますわよ」
隠れているファルメラがぼそっと漏らした。
(リョウ様みたいなのがまた一人増えましたわ……。この世界はどうなってしまいますの……?)
どうなるかってそりゃあもう、戦争だよ。
誰も俺を阻むことが出来なかったのに、ついに拮抗する存在が現れた。
強い性癖を持つ者は強い。
俺の持論である。
「ではな。俺は……ローデスくんを見守るために向こうに宿泊させてもらう」
勇者は去っていった。
あいつめ、俺へ宣戦布告するために来たのか?
「旦那、すっかり元の口調に戻ってましたぜ」
「あんな強敵の前で、己を装っていられるかよ。ああいう局面で余裕ぶっこいてたから、ゲームに出てくる魔王という連中は負けたのだ。俺は全力だぞ。よし、今夜寺院を燃やす。徹底的に破壊するぞ!」
「はわわわわ、あの変な大男が旦那のやる気に火を点けちまった」
「妙にノリのいい部下を捕まえましたわね? 道化師チームを結成するおつもりですの?」
ファルメラの言葉が否定できない。
そして夜。
部屋の外に出たら、ヘルガーディアンがいた。
「うわーっ。驚いた。大声をあげるところだった」
『そろそろマスターがしびれを切らして何もかもおじゃんにするであろうと推測し、牛のボディを抜け出してきました。私のメモリの中には、この寺院の内部データが完全に記録されています』
「明らかにリョウ様よりも仕事をしていますわね……!!」
「ファルメラ様、俺もかなり仕事をしたんですよー」
「師父、張り合わないで下さい!」
『寺院地下には畑が広がっていました。太陽光を屈折させて届けるシステムに近いものが用いられているようです。この寺院そのものは上層に飛び出た、神聖粒子砲の砲塔でしかありません。私は嘆かわしい』
「あっ、ヘルガーディアンが顔を抑えて天を仰いだ。なんだなんだ」
『人間が原理も分からぬ武器に頼りきりになり、これを調べることすらしていないからです。これは科学とすら呼べません。信仰です。マロングラーセの侵略によって滅びた人類は、科学という名の神を奉じていました。神とは己の手で生み出すもの』
「思想が強いぞヘルガーディアン!」
『ここ数日、寺院に存在する学者たちの言葉と、彼らの持つ文献全てを研究した結果導き出した答えです。この寺院には語るべきものはありません。マスター、やってしまいましょう』
「よし分かった! なんか全部語られちゃったけど、やろうやろう!」
そういうことになったのだった。
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