第66話 お前勇者だろ!?
いつでも仲間が侵入できるよう細工した後、俺はキョンシーを伴って部屋に戻った。
見回りの兵士が歩いてくるパターンは完全に掴んだからな。
朝まで寝たフリをしようぜ、ということになり。
俺は早朝になるまでベッドの上でこれからの作戦を考えた。
聖餐である粥に、俺の力を加えて、食ったものを操れるようにならないものかなあ。
ここの寺院の連中が見ている前では無理そうだ。
一緒になったやつを全部キョンシーにすればいけるか?
いけるだろうが、ギフト持ちの少年少女たちにバレてしまうな。
彼ら以外は大した敵ではないが、騒ぎを起こすとせっかく侵入した寺院でのお楽しみが終わってしまう。
それは悲しい。
「オルトさん、起きていますか?」
「ええ、起きていますとも」
おっと、抜き打ちチェックか?
テシウスが外から声を掛けてきた。
部屋に扉はなく、布が垂らされているだけだ。
誰でも入ることができる。
だが、そこであえて一声掛ける辺りが彼の紳士的なところだな。
俺の中での好感度が上がったぞ。
「良かった。実は、これから難民たちに糧を振る舞うのです。オルトさんもこの活動に加わりませんか」
「いいんですか? 実は僕もやりたいと思っていたんですよ!」
願ってもない!
まずは一回やらせてもらおう。
そうすれば、粥を口にした者を俺の手下に変える方法が見つかるかも知れない。
キョンシーには、ギフト持ちに見つからないよう、寺院の中を歩き回っていろと指示し、俺はテシウスとともに一階へ向かった。
奥の部屋が厨房なんだな。
大量の粥の材料が用意されている。
これを外で、難民たちの前で料理すると。
よし、やってみよう。
大量の穀物が詰まった壺をみんなで運ぶのだが、
「ああ、これは僕一人で十分です。そいっ」
俺がヒョイッと持ち上げたので、周囲の人々がおおおーっとどよめいた。
多分100kgくらいの重さだな。
上位魔人との激突に比べたら、大したものではない。
外に運ぶと、既に大鍋が用意されていた。
ここに素材をざらざらと入れ、他の材料が入れられ、ぐつぐつと煮込まれ始める。
難民たちがテントから次々に現れて、並びだした。
「昨日は、難民たちの中に魔人が混じっていたのです。ごく下位のものだったのですぐに征伐しましたが」
「そうだったんですね。危険な世の中です」
ゾンビのことだな。
テシウスの言葉に、俺は他人事っぽく答えておく。
ファルメラとオトハがキャンプ内に潜んでいるのを確認する。
ここを拠点にして、寺院を調べて回っているのだ。
今日からは、中に入れるからな。
粥が出来上がると、素晴らしい香りが漂っているらしい。
難民たちがうっとりした。
ほうほう、これなら、粥に混ぜ物がされていてもこいつらは平気で食べるな。
食事によって中から作り変えるのはかなり面白そうだ。
それでどんな魔人になるかは、やってみてのお楽しみと。
さて、この穀物のどの配分をどういじってやろうか。
今後のことを考える俺なのだ。
「オルトさんは熱心に料理をしていますね。趣味だったのですか?」
「ええ。人のことを考えながら料理するのが好きなんですよ」
「それはとてもいいことです」
テシウスがニッコリ微笑んだ。
なんと裏表のない、純粋無垢な人物だろう!
彼のような人がギフト持ちで本当に良かった。
俺の真逆のキャラなんだから、それが敵対するっていうのはとても理にかなってる。気持ちいい構成だ。
ああー、早く敵対したい。
そして彼らが大事にするものを粉々にしたい。
願わくば、ここに加わるであろう勇者が、ジェプティスの予言にあるような珍妙なやつではないことを願う……。
粥が出来上がり、俺は難民たちにそれをよそってやる。
彼ら、その気になれば次々に魔人に変えてやれるな。
だが、やはり難民というのは弱い。
大した魔人にならないのが、一人ひとりに相対していても分かる。
ギフト持ちとまでは行かなくてもいいから、それに準ずるくらいの強さの難民とか来ないかなあ……。
そう思いながら椀に粥をよそっていたら。
いきなり見覚えのあるデカい椀が来た。
赤い!
チャルメラって感じのマークが付いてる!
ていうかこれ、ラーメンの丼だろ!?
ハッと顔を上げると、そこには分厚い男がいた。
髪の毛を短く刈り込んだ、縦にも横にもでかい男だ。
あれ?
こんなやつ、昨日はいたかな……?
「いやあー! この世界に来たばかりでどうしようか困っていたが! 助かります! 押忍! ごっつぁんです! どうぞよろしく!!」
「お、おう」
俺は粥をよそい、その男をじっくりと確認した。
なんだ、こいつから感じる異物感は。
人間としてはかなり大柄な体格。
そして身を包むのは……道着だ!?
黒帯!?
裸足!!
そして背中にくっついたロケットブースター。
なんだ……なんだこいつ……!?
俺は混乱した。
多分、この世界に来て初めて混乱した。
訳の分からん奴が眼の前にいる!!
俺と、その男の目が合う。
次の瞬間、俺は理解した。
男の表情も変わる。
こいつが、勇者だ。
こいつが、世界が呼び出した、俺と対になる存在だ。
ファンタジー世界に、どうして道着を着てロケットを背負った男がいる?
そんなへんてこなやつが勇者?
意味がわからん!
そして俺は思い出す。
ジェプティスが『リョウさん同様、一切この世界と繋がりのない、異質で、おかしな、珍妙な者が……』と言っていたことを。
まんまだ。
こんな異質でおかしくて珍妙なやつ、他にいない。
「あ、もしかして」
勇者が俺を指さした。
「敵?」
「いえいえ、そんなことは」
俺は笑顔で誤魔化す。
「さあ、次の方どうぞ」
勇者はゴネるわけでもなく、その場をスッと離れた。
そしてトコトコどこかに歩いていく。
「あいつ、今にもここでおっ始めそうな雰囲気だったな。頭おかしいんじゃないか。いや、だからこそ俺へのカウンターなのか……!」
魔王と勇者。
出会ってしまったな……。
っていうか、あんな変なのが勇者なのか。
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