第65話 暗躍する俺
テシウスとローデス、そして眼の前に年若い女。
「オルトです。よろしく」
「よろしくお願いします。私はアザレアです。……失礼ですけれども、どこかでお会いしたことがありましたか? あなたの魔力、どこかで感じ取ったことがあるような……」
いかんいかん、俺の因子を記憶してるではないか。
「人違いではありませんか? 僕は今日ここに来たばかりですよ。同じギフト持ち同士、これから力を合わせて頑張っていきましょう」
「え、ええ……」
「まあ怪しいやつではあるよな」
なんてことを言うんだローデス。
その通りではあるけど。
アザレアは俺をじっと見ながら、何か口の中でぶつぶつ言っている。
めちゃくちゃ怪しんでる?
彼女、飛び抜けて鋭いかも知れないな。
こうしてギフト持ちが集まったということで、神聖粒子砲を見せてもらいに行くことになった。
場所は吹き抜けの先。
寺院の最上階に当たる場所に筒があり、なんと今まであった螺旋状フロアを巡り、因子が収束して放たれる攻撃が粒子砲なのだそうだ。
ほうほう。
「寺院の天蓋は丸くガラス張りになってる。そのガラスを囲むように金属製の巨大なリングがあるな。で、リングがフロアの螺旋に沿って設置されていて……これが粒子王になるというわけか」
「急にこいつ、口調が変わったな」
いかんいかん。
ローデスに怪しまれている。
「ついつい、ですね。元いた街では、僕は研究を生業としていましたから。こんな凄まじいものがまだ存在していたんですね。これさえあれば、どんな魔人だって相手にならないことでしょう」
俺が褒めると、アザレアとテシウスがちょっと自慢げな顔になった。
現地の民はこれを誇りに思っているようだな。
「自分の手でなんとかしなきゃ意味ないだろ」
ちょっと反抗期なのはローデスだ。
だが、年頃の近いギフト持ちが多いこの寺院は、彼にとってなかなかいい居場所ではないか。
いやあ、この環境を破壊したくはないなあ!
アザレアは俺のことを怪しんでいるが、ずっと監視しておくほど暇ではないらしい。
なんか去り際にローデスを肘で小突いたりしてるし、ローデスに何か言われてちょっと睨んでみせたあと、クスクス笑ったりしてる。
あれ?
ローデスに新しい春が来たのか?
ということで。
見張りとして、兵士の一人がついてきた。
かなりのやり手っぽい雰囲気を漂わせている。
彼は、ギフト持ちであるアザレアから直々に、俺の付き添いを命じられ、張り切っているようだ。
「なんだか分かんねえけど、アザレア様があんたを見とけって言ってるんだ。悪いが、便所の中まで付きまとわせてもらうぜ」
「構いませんよ。それが君の仕事でしょう。……おっと、この壁辺りがちょうど良さそうだ」
「おいどうした。なんで立ち止まる? そこにはなんにもねえぞ」
「こうするんですよ、アパラチャノモゲータ!!」
「ウグワーッ!?」
兵士を生きながらにリサイクル!
ゾンビは自意識が無くてダメだから、上位のキョンシーくらいの感じに作り変えておく。
「これでお前は俺の手勢だな」
「へえ。なんでも言う事を聞きます」
兵士キョンシーがヘコヘコした。
一見すると、顔色が悪くなって目にクマが出来た程度にしか変化を感じないはずだ。
ただし、キョンシーの爪は大変毒々しい色になるので、手袋は欠かせない。
アザレアには遭遇しないようにな。
顔を会わせたら因子を見られて一発でバレる。
テシウスも怪しい。
ギフト持ちの後衛組らしいあの二人は、俺の侵略とか潜伏作戦に対してかなり強力なカウンターになるな。
この兵士は使い捨てと割り切るか、あるいはあの二人の目を欺く偽装を工夫するための実験台になってもらうか。
まあいい。
後で考えよう。
「旦那、ここで何をするんですか?」
「おう。外を仲間が探ってるんだが、寺院はなかなか入り込めないらしい。だから俺が、彼女たちが入ってこれるように隙間をだな。アパラチャノモゲータ!」
兵士キョンシーが体を使って遮蔽になり、俺は見事に抜け道を作ることが出来た。
一見すると、何も無い壁だ。
だが、ぐっと押すと横にスライドする。
何枚も横にスライドさせると外に出られるのだ。
で、扉は元の位置に自動で戻る。
この寺院の中の因子を勝手に使わせてもらって、そういう仕組みを作ったぞ。
ちょっと外に出てみたら、結界の中なのだ。
結界をちょいちょいっといじって、出入り自由にした。
問題は、うちの仲間はこういうのを感知する能力が無いからなあ。
真夜中に外を徘徊して、仲間と合流する他あるまい。
「よし、では俺の見張り役として同じ部屋で寝るんだろお前」
「そうなりますぜ」
「一緒に行動している限りは、お前がキョンシーになったことはバレないだろ。真夜中まで与えられた部屋で時間を潰すぞ。来い!」
「へい!」
ということで。
部屋でまったりと時間を潰す俺とキョンシーなのだった。
何せ、眠る必要が無いからな。
「結局、あの粒子砲って連射できるの?」
「一発ぶっ放したら半日は撃てないっすね」
「なるほどなー」
兵士キョンシーは完全に俺の手下なので、持ってる限りの情報を全部喋るぞ。
人格はさっきまでの兵士とはまるで違うものになっている。
これは、記憶だけは保持しながら、中身の人格がまるっと入れ替わってしまったようなものだ。
寺院内の警備は厳重で、夜間は屋内を、見張りの兵士みたいなのが歩き回っている。
そいつに気付かれない程度の声色で、情報を聞き出す俺なのだった。
さて。
そろそろ夜も深い時間であろう。
俺はキョンシーとともに、そろりと部屋を抜け出した。
改造した壁へと向かう。
途中遭遇しかけた兵士は、壁板を素早くリメイクし、俺達が中に隠れられるようにしてやり過ごす。
「旦那、すげえ力ですねえ!」
「まあな。割と万能の力だ。なんだってやれるぞ。だが、仲間との通信はできない……ということで外に会いに行くんだ」
壁を抜けて、結界を抜けて外に。
そうしたら、空をラッシュが飛んでいるではないか。
「おーい! ラッシュー!」
『おや! 神様ではないですかな!?』
羽の生えた青いドクロが降りてきた。
そしてキョンシーに気づく。
『新入りですな?』
「ああ。俺の見張りに付けられた兵士をアンデッドに変えておいた。便利だぞ」
『いいですなー』
「そっちはどう? 何か分かった?」
『そうですなあ。寺院には少しずつですが難民が来ていますぞ。逆を言うと、難民以外の者は近づいてきませんな。食料が運び込まれている形跡もないですな』
「ふむ。じゃあ食料なんかは、寺院の中で解決できているんだな……」
『その他は、ゾンビどもが見つかりましたな。寺院から現れた戦士たちに討伐されましたが、かなり警戒態勢が厳重になりましたぞ』
「あ、やっぱゾンビは見つかったか! もしかして、あの因子を見極めるギフト持ちの女?」
『そうですぞ。姫様とオトハ将軍は上手いこと隠れてますぞ』
なるほどなるほど……。
『それで、あのおっそろしい兵器はどうでしたかな?』
「うむ、ありゃ、撃つまでに時間が掛かる。無力化は可能だろうが……構造がイマイチよく分からないから、下手に手出しするのも危なそうなんだよな」
そんな話をしていたら、徐々に夜が明けてくるのである。
炊き出しの時間が近いのではないか?
俺も粥づくりに混ぜてもらおうかな。
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