第6話 平和主義だってところ、見せてやろう
「見えてきた見えてきた」
アニタの故郷である街が見えた。
城壁はあちこち崩れ、焼け焦げ、戦場になった後であろうことがうかがえる。
「とっても綺麗な街だったのに……。ひどい……! カザン帝国が来たから、全部おかしくなったの……!」
アニタがとても悲しそうだ。
「いきなり固有名詞が出てきたな……。俺はあんまり固有名詞を覚えられないのでそれについて教えてください」
「ええと……南の方に住んでいる、私達とは違う神様を信仰している人達だって聞いたことある。なんでなのか、私の故郷シエスタはドラウ王国に守られてるんだけど、そこにいきなり攻めてきたの!」
「あっ、また固有名詞が出てきた!!」
『ふむ、わしが王国におった頃は、カザン帝国が攻めてくるなんて話はありませんでしたな。ただ、南方はバルログたちの国、ボルカノバーグがありますぞ。カザン帝国はその国と戦い続けていたはず……』
「や、やめてくれ! 俺はゲームの時もテキストを流し読みしてて、叡智シーンの女子の喋ってるテキストしかじっくり読んでないんだ! 固有名詞を脳に流し込んで来られると思考停止してしまう! 俺の弱点なんだ!」
「神様が苦しんでいます!」
『万能の神にも弱点がありましたな……。いや、全く致命的ではない弱点ですな』
記憶が持つ間にまとめよう。
アニタが知るのは、ドラウ…?王国と、アニタの故郷の街シエ……スタ?、そしてカザ……ン?帝国の話がちょっぴり。
ラッシュは王国の庭師だっただけあって、もうちょっと細かい話を知っている。
カザン帝国と、そこを取り巻く環境の話だ。
『ともあれ、カザン帝国が攻めてきたというのならそれは一大事ですぞ! 彼奴らは象という巨大な乗り物を使い、騎馬兵を蹴散らします。それに召喚魔法によって守護者を呼び出し、守護者を通じて恐るべき力を行使してきますからな!』
「急にファンタジーになってきた……」
俺はちょっと動揺した。
思った以上に本格的にファンタジーじゃない?
叡智ゲームみたいな世界じゃなかったの?
RPGツクレールとか使って、同人で作ったやつでさ。
とりあえずカザン……? 帝国は、古代インドみたいな国ってことでOK?
いいね?
そう理解した。
「話を聞いていると、カザなんとか帝国も悪いだけの連中ではないだろう。俺は平和主義者なので、一旦アニタとともにシエス…なんだっけ?の街に潜入してみようと思う」
『早速神様の記憶が曖昧になっていってますぞ。本当に苦手なんですな』
冗談じゃなく苦手なんだぞ!
「よしゾンビたちよ。俺の指示があるまで待機だ。いいな」
「ウボアー」
ゾンビは従順でいいなあ。
「何かあったら呼ぶから、その時はお前とお前とお前がゾンビ爆弾になって城壁に突撃するんだぞ。あのボロボロの城壁なら粉砕できるからな多分。命令権はラッシュ、お前に預けておく」
「ウボア」
『拝命しましたぞ!! さすが神様、先々のことまで考えておられる!!』
「でも、壁は壊さないでほしいなあ……」
「安心するんだアニタ。完全に破壊したら俺のリサイクルで再生できるから」
「あっ、なるほどー! さすが神様!」
全ての問題は解消された!
俺はアニタを従えて、正面からシエスタの街に向かった。
入口近くには、象がいる。
象だ。
いきなり象がいる。
象は武装しており、その上にはやっぱり武装した黒い肌の男が乗っていた。
他にも兵士らしいのはいるのだが、あまりに象のインパクトが大きい。
「象は大きいなあ」
「神様、あの生き物に詳しいの!?」
「動物園で見たことはある」
俺はトコトコと近づいていった。
「止まれ! 止まれ!!」
静止の声がしたが、アニタが戸惑う。
「……! わからない言葉で何か叫んでる!」
「あれは止まれって言ってるね。アニタとは言葉が通じてないようだ。えー、皆さん! 俺はリョウという者だ! 平和主義者! 敵ではない! 戦争よくない! 平和! トモダチ! 友愛! スキヤキ!」
俺は歩みを止めずにジェスチャーした。
こちらの言葉も向こうに届いているようだが、彼らの緊張度が高まっていく。
ふむ、シエスタの街を占領しているということは、王国軍に勝っているのだろうが。
何をそうピリピリしているんだ?
さっきも偵察しているだけのラッシュに矢を射掛けたようだし。
「神様、いやに冷静……! やっぱり神様ってすごい」
「フフフ、戦いは冷静さを失ったほうから負ける!」
ちょっと調子に乗ってアニタにそんな事を言ったら、これが兵士たちの耳に入ったようだ。
「戦い!? お前、やはり敵か!」「肌の色が違う! 味方のはずがない!」「北の王国の人間か!」「ウェンディゴの手下め、何度来ても無駄だ!!」
いきりたつ兵士たち。
意味の分からない固有名詞まで言ったぞ。
そして、俺を目掛けて、矢を放ってきた。
俺はアニタを背後に隠した。
彼女はすぐ死ぬからな。
何回もリサイクルしてると、よくないことも起こりそうだし。
「そこに隠れているんだ」
「はい、神様! 山賊たちとやった時みたいにするのね!?」
「そういうことだ。そーれ、降り注ぐ矢を次々にリサイクルするぞー。そして……リメイク!」
「矢が通じない!」「あれは人間じゃない! バルログだ!!」「人間に化けていたのか!?」「ウェンディゴの大地にもバルログがいるのか!!」「バルログには、魔除けの剣を……」
なにか企んでいるようだが、俺はこの隙に、手に入れた矢を全てドリルの矢に変えている。
「行け。アパラチャノモゲータ!!」
矢が奔った。
回転しながら突き進む矢は、空気を貫きながら真っ直ぐに到達する。
そこにいた全ての兵士に、矢が炸裂、貫通した。
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
「リサイクル・ゾンビ化!!」
「ウボアーッ!」「ウボアーッ!」「ウボアーッ!」「ウボアーッ!」「ウボアーッ!」
象は目を見開いてこの光景を見ていた。
賢い動物である君なら、何が起きてるか分かるね?
ゾンビ化した兵士たちは、俺の前に集まってペコペコする。
「ウボ、ウボア」「ウボアー」
「皆まで言うな。ゾンビになったなら、みんな俺の仲間だ!」
「みんな、よろしくね!」
「ウボアー!」
「さて、俺とアニタでこの街に潜入したいのだが、手を貸してもらうぞ」
「ウボア!」
彼らは、象をぺちぺち叩いた。
「パオ」
象が立ち上がり、隅っこに寄った。
「君、理解力が高くて偉いね」
「パオン」
鼻が伸びてきて、俺の腕をさわさわしてくる。
握手してやった。
その後、ゾンビと象で、閉ざされた扉を開けてくれる。
持つべきものは友なのだ。
俺とアニタは堂々と、シエスタに潜入したのだった。
カモフラージュのために、カザン兵のゾンビにも同行してもらう。
「さて、カザン帝国と平和的にやり取りできるものかな……。まず、初手で心強い仲間を得たが」
「ウボア!」「ウボアウボア」
「神様、みんな励ましてくれてるよ! きっといけるよ!」
「みんないいやつだなあ……! これなら、外に待機してるゾンビたちを呼ぶことは無いだろうな……。無いだろうなあ……」
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