第56話 勇者が召喚されます、とファラオは言った
さて、旅立ちの時。
俺達はちょっと休憩したくらいで、すぐに世界侵略に精を出し始めるのだ。
やれることはどんどんやって行きたい性分だからね。
ゲームは買ってから数日でクリアするのが俺だ。
こっちはドラゴンゾンビで向かおうという話になり、みんなでいそいそと巨大なドラゴンに乗り込む。
幽霊船の方は、アニタをリーダーとして、パパールが乗り込んでいる。
シンカイは水を見つけたら合流できるし、アニタもパパールも現地で仲間を呼んで増えるからな。
オトハ将軍もそうだし、じつはうちの軍勢は一人が入り込むと内側から一気に蚕食する能力が高いかもしれない。
外部から押しつぶすのはバルログなんだが……。
もうちょっと汎用性のあるやつが欲しいな。
次の寺院みたいなとこに行ったらいるかなー?
意思のあるゴーレムっぽいのがいるといいなあ。
『リョウさん』
「あっ、ジェプティスが見送りに」
『ええ。私が大変高性能なAIなのはご存知だと思いますが、そんな私がリョウさんの道行きを計算し、予測を立ててみました』
「ほほー。高度に発展した科学は魔法と区別がつかないっていうやつだ」
『ええ。私の演算は既に予言の域です。この世界に満ちる力は因子と呼ばれていたものですが、それは今、魔力と表現されて誰もが魔法の源として使うことができるようになっています。この揺らぎを測定し、大きな動きを察知、その大本まで遡っていくと……』
「行くと?」
「リョウ様がジェプティスと不思議な話をしていますわ」
「ジェプティスは底知れないからな」
『どんな予言なんでしょうな。気になりますぞ~!』
「ウボア!」
なお、ヘルガーディアンは腕組みし、俺の上位AIのお言葉をとくと聞きなよ、みたいなポーズをしている。
後方腕組みというやつだ。
『端的に申し上げますと、リョウさんが出現したことで世界のバランスが崩れました。ややカオティック寄りだった世界の因子が、カオティックエビルに振り切られたのです。その事で、世界は大きく傾いています。それが今、猛烈な勢いで元に戻ろうとしています』
「ほうほう、具体的には?」
『極めて強大な、カオティックグッド……勇者が召喚されようとしています』
「ゆ、勇者~!?」
俺は脳内で勇者のイメージを思い浮かべる。
1レベルからスタートして、コツコツレベルアップして、それで仲間たちとともに魔王を倒す存在。
ステータスとかは現実的で、強さは装備依存だったりとかな。
「ほーん。確か俺の素であったオルトファースも勇者にやられてるだろ」
『その情報も掴んでいます。かつての勇者は、この地で生まれたギフト持ちだったようです。神に見捨てられた世界において、唯一神とつながる力を持ち、その勇者の子孫や残した技術が人間たちを今に生き残らせています』
「なるほどなー。俺が見逃してきたギフト持ちたちは、勇者の子孫だったのか。じゃあ今度も、なんか神の力を得た勇者が来る感じ?」
『いえ、全く関係ない者が来ます。リョウさん同様、一切この世界と繋がりのない、異質で、おかしな、珍妙な者が……』
「君は一体何を言っているんだ」
ジェプティスの故障を疑ってしまう。
だが、ジェプティスのファラオ然とした顔は真剣そのものだった。
『新たな人類の王であるリョウさんは、言うなれば理不尽な強さを持つ闇そのもの。対するのは、理不尽な強さを持つ光そのものです。それがこの世界に訪れようとしています』
「理不尽な光……ねえ」
覚えがないと言えば嘘になる。
俺が、あまり好きではない存在がそれだったからだ。
俺が生きていた世界で、ダンジョンを踏破する冒険配信者という連中がいた。
その中に、とんでもない女がいたのだ。
俺の友人が、あの世界で運良くデーモン化し、人間もデーモンになれるのか、こりゃあ夢があるなあと思っていた矢先。
あの女が現れて、友人を滅ぼした。
生まれが良くて、性格が曲がっていて、世界への不平不満しか口にせず、常に怒り、俺がちょっとおだてるとなんでも奢ってくれた友人をだ。
なんてことだ。
お陰で俺は奢ってもらえなくなった。
あの女……。
女子高生配信者は許さん。
そしてあの女は理不尽なほど強かった。
俺が大好きな、ヒロピンとかリョナ的展開が世界的に発生している時、あの女が現れた。
あの女は次々に世界を救っていった。
なんたること!
なんてご都合主義!
「リョウ様が百面相していますわ。こんなに感情をあらわにする姿、初めて見ますわね……」
「勇者とやら……。ジェプティスの言う通りの存在ならば、俺の宿敵かも知れん……」
「なんと、師父の宿敵!? 誰一人として並ぶもののない、偉大な師父と戦える存在がいると……!?」
「そうだ。なんか世界のどこかに現れるっぽい。オトハ将軍、部下に命じて、世界中探らせておいてくれない? 見つけ次第報告するように。手柄を焦って攻撃したらだめだぞ」
「かしこまりました師父。キョンシーたちに伝えましょう!」
『ですがリョウさん、勇者が現れるまでにはまだ時間があります。自らの目的のために、着実に活動を進められますよう』
「ああ、助かったジェプティス! いやあー、まさかここに来て、最大の敵の情報を聞いちゃうとはなあ。世界中に勇者包囲網を敷けるように、張り切って侵略していかないとまずいぞ。それはそれとして、ギフト持ちは逃がしてやって勇者と合流させ、パーティを組ませてやるのもドラマチックで楽しい……」
怒りと焦りと、喜びとワクワクが同居している。
心が二つどころか四つくらいある!
ちょっと今後が楽しみになってきたぞ。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




