第52話 清潔過ぎる廃墟
無人の都市を歩く。
謎のコンクリめいた物体で舗装された道路には塵一つ落ちておらず、カラカラに乾いた空気の中、物音一つしない。
人工の環境の中、風は吹かず、空気が淀んでいる。
見上げると、天井はドーム状だ。
ぼんやりと太陽のような輝きが、幾つか揺らめいていた。
「あれは地上の光を、ここまで送り届ける機構だな。ドラク王国にあった、鏡で地表まで太陽光を送るシステムと一緒だ」
「なるほど……。ですけれど、もっと規模の大きな、想像もつかない技術で行われているように見えますわね」
「実際そうだろうな。科学技術というやつだ。完全にこの世界はSFだな。まさかアポカリプスものだったとは」
俺の呟きに、仲間たちが首を傾げた。
『アポ?』
「アポカリプス。滅びた後の世界を舞台にしたお話……くらいの意味だな」
『ははあ。しかしわしら人間は滅びていませんぞ? あ、いや、生前の話ですが』
「そうだなあ。つまりだ。さっきも説明したが、本来的な意味で、人間とは君たちの先祖を管理していた連中のことを言うわけだ。彼らはマロングラーセによって滅ぼされた。それで君たちは外の世界に出てきて、増えた。本来的な意味の人間は滅亡していて、彼らの残した史跡がこうして存在する世界……これがアポカリプス世界というわけだ」
「ウボアー」
「ヘッドレスにはちょっと難しかったか」
彼ばかりでなく、みんな理解できないようだ。
だが、なんとなく落ち着かない気分らしい。
恐らく……遺伝子に刻まれた根源的な恐怖があるんだろう。
彼らは人間によって作り出された実験体みたいなのが祖先だとすると、こういう未来としめいた光景は彼らの本来の立場を思い出させるものなのではないか。
自意識と遺伝子が語る過去が整合しないため、それを恐怖として感じる……とかだ。
おお、それにしても……。
「ううう、わたくし、なんだか不安です。早く、早く用事を済ませてしまいましょう!」
「私もだ。落ち着かない……。なんなのだこの気持ちは……」
強い女たちが不安そうにしているのは捗るなあ!
ちょっと口角が上がってしまう。
なお、ラッシュとヘッドレスはすぐに慣れたっぽくて、分離して勝手に偵察行動を始めたりしている。
あれは、二人とも人間から大きくかけ離れた存在になっているから、根源的恐怖が薄れてるんだろうなあ。
さもなくば、底抜けに能天気なのか。
『うおおー!! 神様! 神様ーッ!! ゴーレムです! ゴーレムが来ますぞ!』
「管理ロボットかな?」
ラッシュの大声がしたので、女子たちを引き連れてゴーレムらしきものを見に行く。
そこには、巨大なルンバみたいなロボットがいた。
ピカピカ光りながら、道を隅々まで綺麗にしつつ走っていく。
あいつが永遠にこの都市を巡り、埃一つ無い環境を実現しているのだな。
巨大ルンバは俺達に気づくと、スッと避けて移動していった。
人間を識別している。
よく出来ているなあ。
そしてこいつ以外にも、街のあちこちに監視カメラらしきものが設置されているのが分かる。
あれ?
レンズの中で灯りが点いたな?
俺は手を振ってみる。
「おーい。遊びに来たぞ。まだこの都市が生きているなら顔を出せ。管理者みたいなのがいるんだろう」
カメラは俺達を撮影するばかりだ。
返事がない。
これは、機械を管理する存在も残ってないんじゃないか。
そんな思いに駆られた俺であった。
これだけ広いと、探索も大変そうだな。
さてどうしたものか。
「ウボアー」
「おっ、どうしたヘッドレス」
「ウボボア」
「ほうほう、向こうに光る板があって、四角い模様が描かれていたと。触ってみたら模様が横に動いて、新しい模様が出てきた……。それはもしかすると、この地下都市の地図なんじゃないか?」
「ウボ?」
「お手柄だぞヘッドレス! よし、急げーっ」
「なんだかリョウ様、ここに来てからテンションが上がってるように見えますわ」
「謎めいたお人だ。師父はもしかすると、この様な世界の出身だったのではないか?」
「ありえますわね。一番付き合いが長いのはアニタですから、彼女なら何か知っているのかも……」
女子たちはお喋りしながらついてくる。
恐怖も薄れてきたかな?
恐らく、見渡す限り一人も人間がいないから、この広大な地下都市は無人と考えていいだろう。
ラッシュが高いところを飛びながらあちこち見てくれている。
報告に戻ってくる度に、『誰もいませんぞ』の返答ばかりだ。
つまりここは、廃墟ということになる。
おっそろしく綺麗な廃墟だ。
隅々まで掃除の行き届いた廃墟。
千年前に人間が滅んだなら、ここは千年の間清潔さを保ち、存在し続けてきた廃墟ということだ。
マミーは多分、外から来た魔人が住み着いて、ピラミッドの防御機構を上位の魔人だと思って崇めたんじゃないかなあ。
「ウボア」
「おお、これかこれか。どれどれ? ほほう、どう見てもこの都市の地図なのだ。ええと、ピラミッドからそれぞれ降りてくるエレベーターが何に直結しているかという感じか? 文字が分からんな。だがなんか絵で分かる。ここに……倉庫みたいなものがあるな。それにこれは博物館か? 遊牧民は博物館に潜り込み、契約書を奪取したというわけか」
「リョウ様、今まで変な趣味なだけの殿方だと思っていましたけど、誤解でしたわ。深遠なる知識を持ち、古き時代に対する教養を持つ恐るべき方。それがあなたでしたのね」
「買いかぶられている気がする……」
とにかく!
この地図は有用だ。
取り外すと電源が切れて、画面が消えてしまいそうだな。
俺は地面の舗装を引っ剥がすと、これをメモ帳代わりにして地図を刻み込むことにするのだった。
「まずは博物館。それから倉庫に行ってみよう。どこかで意思を持った存在に会えるといいんだが」
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