第47話 ちょっと本気出しちゃう
「主よ、いささかこちらの手勢が不足しておりませんかな?」
「そこはすぐ解決すると思うよ」
俺の言葉通り、幽霊船から飛び出したアニタがその目を赤く輝かせる。
「みんな、おいでーっ!!」
エルミジャッド改め、サンドパレスで生活していたシエスタの人々。
彼らがまーたこっちに全員召喚されたのだ。
「あーっ、また移動した!」「人使いがあらぁい!」「でもアニタの頼みじゃ仕方ないか」「よっしゃ、やるぞーっ!」
全員がワイバーンの血を飲んでパワーアップしたレッサーヴァンパイア。
それが、虚空から数百人現れたわけだ。
彼らは自らの意思で周囲に散り、ワイバーンライダーやら現地民やら兵士やらを仕留め、得物をゲットする。
アクティブだなー。
「いや、ヴァンパイアどもの活躍を初めて見ましたが、一人ひとりの強力さはさほどではなくとも、臨機応変さと個々のずる賢さが凄まじいですな。あれはバルログであっても手を焼きましょう」
「だろー? 戦う度に強くなるしな。ただまあ、雑兵みたいなのも欲しくなってくるところではある。帰ったらピラミッドからマミーでも大量生産するかなあ」
押し寄せてくる遊牧民の軍勢を、真っ向から迎え撃つのはアニタ。
ガランドーによって鍛えられた真紅の斧が輝くと、空に道が生まれた。
そこを、アニタが猛烈な速度で駆ける。
真紅の斧が唸りをあげ、一撃でワイバーンの翼や首を切り飛ばす。
その横を、幽霊船が進んでいった。
瘴気の大砲がぶっ放され、ワイバーンたちを次々に撃ち落とす。
接近してきた敵は、甲板にいるファルメラが迎撃だ。
自在に伸びる剣が、ワイバーンの鱗をやすやすと切り裂く。
彼女が数歩歩くだけで、次々にワイバーンが落ちた。
降り注ぐ火球は瘴気の盾が防ぐ。
うんうん、普通のワイバーンならそれでいけるよな。
では、こいつはどうだろう。
眼前にいる、でかいドラゴン。
そいつが口を開いた。
カッと口腔が光ったと思ったら、黄金の火球がぶっ飛んできた。
「あぶなーい!! 避けろヒロピン号~!!」
『オオーッ!?』
ヒロピン号、必死の回避!
だが、側面を黄金の火球にごっそりと削られる!
うひょー!
「強いな!」
「亜竜の中でも上等なものでしょう」
「あれでも亜竜なの?」
「然り」
カグツチが頷いた。
「真の竜はあの程度のものではありません。もっと……我々の想像もつかぬほどの高みにいる、化け物です」
「つまりあれは」
「大きいだけの紛い物ということですな」
「なーるほど」
眼の前にいるのに余裕な俺達。
ドラゴンがギロリと睨み、口を開いた。
おっと、黄金のブレスが来るぞ。
「我にお任せを! ふぅん!!」
カグツチがグレートバルログの姿をあらわにした。
つまり、本気で相対するレベルの相手というわけだ。
こりゃ、間違いなく遊牧民の切り札だな。
「かーっ!!」
『ゴアアアアアアアッ!!』
カグツチの放つ炎と、ドラゴンの炎がぶつかり合う!
がんばれがんばれ、どっちもがんばれ!
俺がひょいひょい踊りながら応援していたら、炎同士が相殺した。
互角かあ。
で、ドラゴンの上には遊牧民の戦士たちが乗っており、俺を目掛けて矢やら槍やらを降らせてくる。
全て盾で防ぐぞ。
カキンカキンと跳ね飛ばし、折れたものや壊れたものはリサイクルだ。
「あー、こういう消耗品をリサイクルするの懐かしい……! お返しするぞ!」
俺からの返礼だ。
だが、これで落ちるのはほんの数名。
ドラゴンの上の遊牧民、やるぞ!
「私が行く!! ハアーッ!!」
おっ、誰か降りてきた!
黄金の槍を持った女だ。
体格もでかい。
俺よりでかい。
そして、大きな槍をぶんぶん振り回す。
「俺と一対一でやるつもりか」
「いかにも! 我が名は迅雷のオトハ! 帝国を愚弄した魔人よ、覚悟せよ!! ハアーッ!!」
「なんのー!」
カツーンと盾で跳ね返す……と思ったら、彼女は盾を駆け上がり、頭上から槍を突き出してきた。
うひょー!!
槍が俺の頭に直撃!
ガワが!
ガワが剥がれたー!
「やはり、人間ではないか!!」
「そうだぞ。ところであなた、もしや……女将軍にして美女、遊牧民編のヒロインだったりするんじゃないですかね?」
「何を訳の分からぬ事を! 時間稼ぎか!」
「姉上、援護します」
そこに降り注ぐ矢!
光の矢だ。
こ、これはー!
さっき皇帝を貫いて永遠に殺したやつ!
ちょっと後ろを見たら、ギフト持ちの女がいた。
お前、もしかして遊牧民のスパイだったのか!?
「ダブルヒロイン……!!」
「主様、我はこちらでいっぱいいっぱいなので構えませぬが、嬉しそうで何よりですぞ! かあーっ!!」
「カグツチは頑張ってな! あ、後方のドラゴンは任せるぞ、シンカーイ!!」
「御意~」
遠くで声が聞こえてきた。
頼むぞー。
で、俺はオトハと弓使いの姉妹を相手にするわけだ。
こちらの得物は炎の槍と盾。
だが、接近戦が素人なので、こっちの攻撃は全く当たらず!
盾で防ごうにも、盾そのものを足場にされて攻撃される!
あーれー!
俺、大ピンチ!
まあ、ノーダメージなんだけど。
ガワがねえ!
どんどん削られていくのよ!
このオーバーロードのガワ、結局何の力も無かったな。
いや、俺には使いこなせないタイプの力があったのか?
『あーっ!! 完全にオルトファースボディになってしまった』
「醜い姿を晒したな、化け物め! とどめだ! ハアーッ!!」
「援護します姉上!!」
光の矢が降り注ぐ。
黄金の槍が突きつけられる。
それが、一見して弱点っぽく見える、俺の中心の黄金の目に叩き込まれた。
俺も、この部分が何なのかさっぱり分かってないんだよね。
だけど今分かった。
「なにっ!?」
黄金の目が、すうっと黄金の槍を吸い込んだ。
光の矢も吸い込まれ、戻ってこない。
「なっ、し、しまっ……!!」
槍がどんどん吸い込まれ、オトハの片腕が飲み込まれた。
「がっ……があっ、がああああああああっ! 腕が、腕がぁっ!!」
オトハ将軍は苦悶の表情で叫ぶ!
これこれ!
これだよーっ!!
俺、嬉しくて感動しちゃって棒立ちだもん。
彼女は決死の思いで、手にした剣で己の腕を切断した。
「がああああああああっ!! はぁ、はぁ……」
「あ、姉上ーっ!!」
「なんだ……なんなのだ、お前は……!!」
『よく分からないんだな、これが。ところで君、戦場でその怪我は助からないねえ……。では、苦悶を大いに楽しませてもらって……』
「や、やめろ、外道が……! 私は……私は貴様などに屈し……あああああああああああっ!!」
「姉上ーっ! やめろ! 姉上を辱めるな、怪物めええええええっ!!」
『それ! それだよー! 欲しかった反応だよー! 欲しかった展開だよー!! ああー! 良かった! 異世界転生して本当に良かった……!!』
黄金の目玉からぼたぼたと流れる涙!
感動の涙だ!
最後にオトハ将軍は息をしなくなったので、俺は彼女を丁寧に丁寧にリサイクルしてやった。
失った腕や、他の部位も全て戻ってくる。
そしてハッとした。
「わ……私は一体……?」
「あ、あ、姉上……! そ、その、そのお姿は……!!」
彼女の肌は真っ青に染まり、黒い瘴気がマフラーのように纏わりついている。
『復活おめでとう! 君には資格がある。俺の軍団の幹部になりなさい』
「な、何を勝手なことを……。!? な、なぜだ!? 私の中に、この怪物に仕えたいという気持ちが湧き上がってくる……」
「姉上! なぜ跪くのですか! 姉上ーっ!?」
「カレン!! 逃げよ! 帝国は終わる! この恐るべき力を持った怪物のために! 我らは何も知らなかった! こんな怪物が、世界を手に入れようと動いていたことを! 私はこの怪物と繋がった……! 全てを知った……!! カレン! 私が私であるうちに逃げよ! そして世界に伝えよ、真なる敵の姿を! 人と人が争う時代ではない! 人が手を携えねば、この怪物には……抗え……ない……!!」
「姉上! 姉上ーっ!! くっ……!!」
俺は振り返り、弓使いのカレンちゃんに攻撃をする素振りを見せた。
フリだけね、フリ。
『アパラチャノモゲータ!』
弓矢とか槍とかが、びゃーっと浮かび上がってカレンに向かっていく!
彼女はこれを撃ち落としながら、「あああああああああああっ!!」と血を吐くような叫びを漏らし、逃げていった。
見逃すからね!
この展開、美味しい。
俺は今、素晴らしい満足感に包まれているぞ。
眼の前では、すっかり魔人としての己に馴染み始めたオトハ将軍がいる。
これを見て、ドラゴンの上の遊牧民たちが絶望の声を漏らした。
『カグツチ! ずっと拮抗しているな。そろそろ飽きたから俺が替わるぞ』
「主様! 今しばらくお待ちを……!」
『ダメ!』
『条件を満たしました。能力、リリースを解放します』
俺の中で、言葉が囁く。
新たな力を得たと言うか、オルトファースが持っていたであろう力をまた取り戻した。
『リリース』
それは解放の力。
俺の影がぐんと伸びた。
ドラゴンを覆い尽くすほどの大きさに。
そして、影と俺が反転する。
ドラゴンを超越する大きさの俺が出現した。
俺はただ、無造作に拳を振るうだけだ。
圧倒的な質量が、上からドラゴンを打ち据え、地に叩き落とす。
『ギャオオオオオオオッ!!』
「お、おお……! これは……! この力は……!! オルトファースをも超えている……!!」
『そうなの? ほいやっ!!』
ドラゴンの頭をギュッと踏んだ。
ブチッと音がして、ドラゴンが動かなくなった。
よし、お前、真・ドラゴンゾンビとして復活させてやるからな。
なお、遠くでは川から吹き上がった大量の水が、ワイバーンを片っ端から撃ち落とすところだった。
あー、これで戦いは終わりだな!
帝都制圧、終了!
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