第46話 ここは穏便にだな
「化け物どもめ。余の都に押し入ってきた貴様らなどに話すことなどない!」
堂々と啖呵を切る皇帝だ。
やるうー。
だが、今回のこれ、交渉はポーズなんだよな。
ちょっと皇帝が失礼なので殺しちゃおう。
「ほい」
「ウグワーッ!?」
「皇帝陛下ーっ!?」
俺は炎の槍を取り出し、ぐんと伸ばして皇帝を焼き尽くした。
死んだ死んだ。
完膚無きまでに死んだ。
んもー。
状況を見てわきまえろよなー。
これで帝都の住人はさらに危なくなったでしょ。
臣下がこれを見てパニックになる。
やっと状況を理解したか。
人間が俺を眼の前まで近づかせた状態で、なんで敵対的な反応するの。
俺、興味ない相手はサクッと殺す主義なのだ。
「よし、じゃあこっちの命令を聞くだけの皇帝を作ろうか。アパラチャノモゲータ! リサイクルリサイクル!」
灰が巻き上がり、皇帝の形に戻っていく。
あっという間に再生した。
彼は立ち上がると、俺に跪く。
「おお、偉大なるお方よ! なんなりとお申し付けください!!」
「こ、皇帝陛下~!?」
尊厳凌辱だねえ。
だが、こんなおっさんを辱めたところで俺は全く嬉しくないからサクサク話を進めるぞ。
「ああ。聞きたいんだけどさ。お前の部下に凄いドラゴンとかいないの? しょぼいワイバーンばかりでがっかりなんだが」
「おります。じきに戻ってくるかと……」
「ほうほう!」
俺は嬉しくなった。
やっと目的が果たせるぞ。
凄いドラゴンをゲットするのだ。
その後の遊牧民たちのことは知らない。
「主様、しかしここを滅ぼし尽くし、空白にすると……他の魔人たちが侵攻してくることでしょう」
「なにっ、ステップ地帯、そんな一触即発の状態なの?」
「この大陸に、安全な場所など存在しませんからな」
「こわー」
「怖いのは主様ですぞ。真っ向から力押しで敵地の最深部に押し入り、初手で敵の王を殺し傀儡を据える。どう考えても先には破綻と破滅しかない策を、笑いながらやってのける。この世界の者たちは考え方を改めぬ限り、主様には勝てますまい」
「まあねえ。相手が悠長に戦争やってくれる存在だと思ってるなら、おめでたいもんな。よし、傀儡皇帝。降伏を宣言しろ。全面無条件降伏だ。いいな?」
「ははーっ。帝国はリョウ様に無条件降伏致します」
傀儡皇帝が動き出した。
いやあ、穏便に終わりそうな流れでいい感じじゃあないか。
俺はぶらぶらと徒歩で幽霊船まで帰り、復讐に燃える彼らをまあまあとなだめた。
遊牧民たちは多大な被害を出しながら、意味もわからず皇帝の降伏宣言で敗北。
表向き、戦争は収まったかに見えた。
数日が過ぎ、本日は俺と傀儡皇帝による同盟の調印式。
何やら魔法的な力を持った契約書に、二人で血判を押すわけだ。
会場は、帝都の中央にある巨大な広場。
そこには皇帝の立像が作られている。
周辺を大量の兵士たちが守り、帝都の民たちが式を見守っている……いや、あちこちから怒号が聞こえる。
というのも……今回使用する特別な契約書が、とんでもない内容のものだからだ。
この契約書が存在する限り、遊牧民たちは俺に無条件で従い続けねばならない。
皇帝が、全ての遊牧民を俺に売り渡す、そういう書類だな。
こいつは城の奥から発掘した宝物だった。
どうやらピラミッドから出てきたものらしく、そのほとんどがボロボロになり、手で触れると崩れ落ちるほどだった。
なのでリサイクルして新品にした。
「実に……実に恐ろしいお力ですな……。それは神代の魔法が掛けられた契約の書。前の主である魔王マロングラーセが、魔法のあふれる異界を滅ぼした際に持ち出した秘宝の一つ。ですが、それが使われぬようにかの世界の者たちは契約書を破壊した。マロングラーセすら、この契約書をどうすることもできず、かといって廃棄するには貴重すぎるため、ピラミッドへ隠したのです」
「ほーん」
カグツチの話を聞きながら、俺は血判を押した。
契約書が輝き始める。
「あっ、何の躊躇もなく!! この世に二つとない絶対の契約書に!」
「必要とあらば、何度でも再利用するから問題ないよ。俺こういうの得意だからねえ」
「世界が命を掛けて施した封印と呪いすら、鼻歌交じりに弄ぶ……! 恐ろしいお方だ……!!」
「そういうリサイクルとリメイクの能力なんだが、通じないやつには通じないんだよなあー。ほれ、皇帝、血判を押せ」
「はっ!」
皇帝がやって来て、親指にナイフで傷をつけた。
垂れる血を使って、契約書に拇印を……。
というところで、どこからか飛来した輝く矢が皇帝の頭部を貫通、吹き飛ばした。
「あっ」
「あー、これは死にましたな。二度目の死だ」
俺とカグツチで、こりゃ大変だとびっくりしていると、会場の外がわあわあと騒がしくなってきた。
兵士が何者かを追っている。
弓を持った女だ。
あれ?
あいつ、エルミジャッドにいたギフト持ちの女じゃないか?
「ここまで来て、わざわざ皇帝を射殺したのか。まあいい、リサイクルすれば……」
力を使ってみて気づく。
「あっ、リサイクルできない。あの矢で殺されたものは復活できないのか! あー、なるほど。俺の能力を殺す能力だ! こりゃ参った!」
「主様、妙に嬉しそうですな」
「そりゃあな。なんというかこの世界にも、俺の命を脅かすような存在がいるらしい! うわーっ、ちょっと楽しいぞ。ふんわり感じてた退屈感が吹き飛んだ!」
俺が興奮していると、東の空からやって来るものがある。
ワイバーンライダーたちと、それを率いる大きなドラゴンだ。
やっとドラゴンライダーのお出ましか。
ライダーと言うか、一軍を背に乗せて運ぶレベルのでかさだな。
それと同時に、民たちの中から武装した男女が次々に飛び出してくる。
「国を売った皇帝は死んだ!」「我ら遊牧民の魂は、誰にも縛ることはできぬ!!」「国を取り戻せ!」「黒き船から来た異人どもより、奪還するのだ!」「異人を殺せ!」「殺せーっ!!」
彼らの宣言を聞いて、兵士たちも立ち止まった。
そして武装したまま、俺とカグツチにくるりと振り返る。
民衆も叫び始めた。
背後からはドラゴンとワイバーンの群れ。
周囲に蜂起した遊牧民の戦士たちと、大群衆。
不思議なことに、ギフト持ちの女は姿を消している。
「どうされますかな、主様?」
「この頭数を資源として利用できるかと思ってたけど……こりゃダメだな。いや、正直彼らをバカにしてたが、どうしてどうして! やるもんだ!」
俺は感心してしまった。
「みんな魂の底から反骨精神に満ちているらしい」
幽霊船が動き出す。
その上で、ファルメラとアニタが武装している。
川にはシンカイが控えている。
カグツチは悠然と周囲をねめ回しつつ、俺の言葉を待っている。
俺は宣言する。
「よし、遊牧民帝国、滅ぼそう!」
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