第45話 さあ交渉しよう
帝都上空に、次々とワイバーンが飛び出してくる。
迎撃体制というやつだ。
これには、俺が作り出したドラゴンゾンビをぶつけておく。
多分こいつは炎に弱いから、いい感じで遊牧民たちがやり返してるぞって意識を持てるだろう。
ちょっとは調子に乗ってもらえると嬉しい。
その鼻っ柱をへし折るのが楽しいからな。
「いいご趣味ですわねえ」
ファルメラが呆れているが、今回の復讐行に積極的な彼女。
止める気は全く無いらしい。
「それでリョウ様はどうなさいますの?」
「ドラゴンゾンビに紛れて、帝国に近づいてみるよ。みんなは好き勝手に暴れるといい」
どうも遊牧民連中、ワイバーンライダーに戦力を全振りしているみたいだな。
馬に乗った連中もちらほら出てくるが、もう戦う気がなさそうだ。
ワイバーンに任せきりで、安心しているというか。
一応下から弓矢でぺちぺちやって来るな。
「リョウさんいってらっしゃ~い!」
『お気をつけてですぞーっ!』
「我が同行しましょう。先刻はちょっと炎を放った程度で、全く暴れ足りませんでね」
「そっかー。じゃあ一緒に行くか」
俺とカグツチで、ふわりと飛び上がる。
そしてドラゴンゾンビの背に着地するのだ。
「主様、どうするおつもりで?」
「適当にワイバーンとやり合いながら、帝都の上空へ向かう。そこから直接皇帝に会ってやろうじゃないか」
「ほう! 亜竜めを使う人間どもの長ですな? たかが人間でしょうが、亜竜を従えたことでどれほど増長していることか……」
「な? 鼻っ柱をへし折りたくなるだろ」
「全くです」
俺とカグツチで、クックック、と笑い合うのだ。
その間も、下では幽霊船が、俺達の足元ではドラゴンゾンビがワイバーンの群れと戦いを始めている。
「順調に削られていっておりますな。やはりドラゴンゾンビでは炎に弱い」
「だろうなー。だがこいつらはもう死んでるんだ。恐れることなく、ワイバーンの群れの中をひたすら前に突き進む」
「ウグワーッ!!」
ワイバーンが数匹、ドラゴンゾンビの進軍に巻き込まれた。
瘴気と死体を混ぜ合わせたような代物だ。
飲み込まれてしまえば、ただのワイバーンなど無事で済むものではない。
「ということで、リサイクル&リメイク。欠けたところを補充してだ」
「本当に便利な力ですな」
「便利は便利だが、ちょっと仲間は増やせても決定打にはならん能力だと思うなー」
「自己評価が辛くていらっしゃる」
「何せ、君には通用しなかったからなあ」
「ハハハ。我に並ぶほどの位階ともなれば、魔人将、あるいは魔将と呼ばれる位階に達しますからな。小手先の技など通じませんぞ」
「ほらー、通じない!」
二人でわいわい騒いでいたら、ついに帝都の上空に到達した。
ほう、無限に広がるステップ地帯の中央に築き上げられた国だと思っていたが、東方に川が流れているな?
あれが帝都の水源か。
水があるということは……。
「シンカイ!!」
「御意!!」
川の水面で、巨体が跳ねた。
水あるところ、どこにでも現れるシンカイだ。
「あとで命令を下すので待機!」
「御意」
テレパシーみたいなもので会話する。
これはカグツチも感じ取れたようで、
「なかなか腕の立つ腹心がおりますな? あれは我ほどではなくとも、他のあらゆるバルログを凌駕するでしょう」
「ほんと? 部下が強いのは嬉しいなあ」
ワイバーンライダーたちの攻撃は激しさを増している。
帝都まで押し込まれた焦りと、攻撃しても攻撃しても止まらぬ俺達への恐れが満ちているのだ。
まあ、恐れても無駄無駄。
俺達に仕掛けようとしたワイバーンライダーは、カグツチが放つ炎に焼かれ、撃ち落とされる。
近づくこともできない。
「弱兵ですな。並のバルログでは相手にもならぬ、恐るべき亜竜がいると聞いたのですが」
「いるのかもしれないぞ。こいつら、世界中に手を広げて侵略しまくってるだろ。強力なのは出張っていて、こういう半端なワイバーンしかいないんじゃないか?」
「ありえますな。いや、そうあって欲しい! こんな連中を脅威だと思ってボルカノ山に籠っていた我が身が情けなくなります!」
「あー、気持ちは分かる。おっと、あれが皇帝の城か。遊牧民なのに立派な城を立てやがって」
岩と木で作られた、巨大な城だ。
その屋上には兵士らしき連中が詰めかけており、こちらに矢を放ってくる。
ふむふむ、技術レベルはエルミジャッド未満。
恐らく、あの砂漠の国がしっかり備えていれば、一方的にやられることはなかっただろう。
結論、弓矢は無視。
当たってもダメージにはならない。
ドラゴンゾンビは半分ほどに削られたが、結局ワイバーンは俺達までたどり着けなかった。
城に着地すると、ドラゴンゾンビの重さに耐えられず、構造体がミシミシ音を立てて崩れ掛かる。
「ドラゴンゾンビ、瘴気のブレスだ」
『かーっ!!』
無数に生えた、腐った頭部から真っ黒なブレスが吐き散らされた。
これに当たった人間たちは「ウグワーッ!!」と全身を毒に侵されて溶け崩れ、木は腐り、岩は泥へと変じていく。
城の上部が沈み込み……。
俺達は、自然な流れで城内へ。
「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」「ウグワーッ!」
ドラゴンゾンビに押しつぶされたか、悲鳴が聞こえた。
この感じ……戦闘員の悲鳴ではない。
「主様、この先に灯りのついた広い空間がございますぞ」
「おっ、じゃあ皇帝の間だな。行こう。おいドラゴンゾンビ。適当にワイバーンの相手をしてやれ」
『ムギャオーッ!!』
返答とともに、俺達を運んだドラゴンゾンビが、また空へと上がっていった。
さて、眼の前には赤字に金の豪奢な縁取りがされた絨毯が広がり、その先には数々の工芸品が立ち並ぶ。
最も奥には、玉座があった。
でっぷりと太った男がそこに座している。
俺達を憎々しげに睨みつけるそいつこそが、遊牧民たちの皇帝だろう。
「やあ皇帝、はじめまして。いきなりだが交渉をしよう」
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