第44話 これ止まらないやつだね
遊牧民たちの帝都みたいなのがあるらしく。
そこを目掛けて、大いなるヒロピン号が突き進む。
途中で出会った遊牧民は全て殲滅だ。
一人も生き残ってないし、亜竜も全滅、家畜も全滅しているぞ。
「徹底的だなあ……」
今回。
俺はこの采配に、一切何も関わっていないのである!
『オオオオオーッ!!』
遊牧民の集落を飲み込み、血祭りにあげた幽霊船が勝利の雄叫びをあげる。
いやあ止まらない、止まらない。
滅ぼしてすぐに移動を開始し、次なる遊牧民の血を求める。
この数日間で、両手の指に収まらない数の集落や街が消えた。
「楽っちゃあ楽なのだが、他人の復讐を横で見ていると、何も産まない非生産的な時間だな。ファルメラ様はなんか止めたりとかしないんですか? キャラ的に」
「あら、わたくしは今回、幽霊船に肩入れする側ですわよ」
「意外!」
「だってわたくし、エルミジャッドがちょっと好きになっておりましたもの。それをあんな不意打ちで滅ぼしてしまうなんて! 自分がやったことを仕返しされるのが当然だと思います」
おっと、これは姫騎士怒ってる。
こわいなーこわいなー。
その怒りをぶつけられるような強い相手が出てきて欲しいなー。
ちょっと幽霊船の行く先が楽しみになってきた。
俺は飽き性なので、完全にこの復讐見物に飽きてしまわないうちに、さっさと終わらせてしまおうという気になった。
「よし、幽霊船よ。ちょっと加速してやる。さっさと帝都に殴り込んで総力戦と行こうや。えっ? 途中途中で見かける全ての遊牧民を滅ぼさなければ、第二第三のエルミジャッドが生まれる? あーなるほどなあ、言われてみればそうかもなあ。かと言って独立で幽霊船員を行動させたら、ワイバーンのブレスで一撃でやられそうだ」
うーんと俺が首をひねる。
幽霊船長と船員たちもうんうん唸る。
「下々のものとともに策を考える。なるほど、主様は慕われる王であらせられる。君臨するのではなく、下僕たちに支えたいと思わせる王なのだ」
カグツチがやたらと持ち上げてくれてるな。
とかやっていたら、ここ数日で最大の遊牧民集団と激突した。
どうやら、俺達が大暴れしている情報は帝都に届いていたようだ。
幽霊船討伐のために、強力なワイバーン乗りたちが集められたわけだな。
というか、遊牧民が飼ってるワイバーン多いなー!
倒しても倒しても出てくる。
これだけの数を持っていたら、そりゃあ一国を滅ぼすくらいわけはないだろう。
つまり……滅ぼされていない国や魔人たちは、大群のワイバーンに対抗しうる何かを持っているというわけだ。
「さて、では今回は我が……」
『オオオー』
「うるさいぞ幽霊船!! いいか? 我らは貴様の復讐にわざわざ付き合ってやっているのだ! 退屈しているのだ! 分かるか? 気晴らしくらいやらせろ!!」
『オオ』
あっ、幽霊船長怖くて泣いちゃった!
俺がよしよししている間に、カグツチが空に飛び上がった。
単身である。
「喜べ人間ども! 貴様らの駆る亜竜ごと、僅かな痛みもなく一瞬で消し炭に変えてやろう」
ワイバーンライダーたちが、わあわあと叫ぶ。
そして一斉に炎のブレスをカグツチに……。
あーっ!
カグツチが敵に向けて突き出した指先に、ワイバーン全ての火球を合わせたよりも遥かに大きな、大火球が出現!!
これに気付いたワイバーンライダーは慌てて指示を止めようとした。
だが、ブレスは急に止まらない。
ワイバーンの火球が次々に吐き出され……。
全てが大火球に飲まれて消えた。
ゆっくり、大火球が動き始める。
一秒ごとに、その速度が倍になる。
ワイバーンたちがターンして逃げ出した。
一糸乱れぬ、統率された動きだ。
つまり追跡が容易になる。
ぐんぐん加速する大火球は、やがてワイバーンの速度を超えた。
ワイバーンたちの絶叫が聞こえる。
その直後、大火球が弾け……空には何も残っていなかった。
カグツチ、宣言通りに敵の軍勢を全て消し炭に変えてみせたな。
おお、スッキリした顔して降りてくる。
「これで我は、あと一週間は我慢できますぞ」
「そうかー。随分我慢してたんだなあ」
「そもそもこんな弱敵どもに時間を掛ける意味が……!」
バルログたちがボルカノ山から出られなかった理由は、砂嵐が天敵だったせいだけなんじゃないか……?
どうも、カグツチやバルログ三人衆レベルになると、並のワイバーンは全く相手にならないようだし。
今回のカグツチは、変身を解きもしなかった。
人の姿のままでワイバーンを滅ぼしたわけだな。
「ちなみに、一匹だけわざと逃がしてあります」
「ほう!」
「今頃奴は人間どもの大集落に戻り、報告をしていることでしょう。クックック……。非力な人間どもが、我らを迎撃するために無い知恵を振り絞り、待ち受けているのですぞ。幽霊船よ。我は貴様の晴れ舞台も用意してやったぞ! 見事、遊牧民どもの本陣に飛び込み、復讐の本懐を遂げてみせよ! いいか? 主様を退屈させるなよ?」
『オオオーッ!!』
良いお返事をする幽霊船たちなのだった。
なんだ、怖い上司をやりながら、ちゃんと部下のことを考えてるじゃないカグツチ!
我が魔王軍はアットホームな職場です!
「よーし、それじゃあ加速して、一気に帝都襲っちゃうか! 俺も手伝っちゃうぞー! 今消し炭になったワイバーンをリサイクルだ!」
「うおっ!! 我が跡形もなく消し去ったはずのものが無から再生してくる!?」
「消し炭ってのは炭が残ってるわけだ。それが大気に分散していたのを集めて固めて、復活させたんだな。これをリメイクしてだ……。よし、全部くっつけてデカくすりゃドラゴンだろ! 誕生、ドラゴンゾンビ!」
『ムギャオー!!』
幽霊船の上を飛翔する、腐りかけ、無数の頭部を生やした巨大なドラゴン。
まあ、こいつは軍団の組織図に加わらないっぽいので、使い捨てのゾンビ扱いなんだろう。
「帝都にはちゃんとしたドラゴンがいるといいなあ。ドラゴンほしいなあ」
呟く俺の目には、地平線の先に少しずつ、帝都の姿が見えてくるのだった。
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