第40話 優先順位をつけよう
「リョウ様?」
「ファルメラ様はアニタとシエスタの住民の援護をしてくれ。あ、最優先は地下牢のガランドーとアニタね。他はリサイクルすればいいから」
「分かりましたわ。リョウ様はどうなさいますの?」
「俺はそうだな、ちょっと遊牧民に挨拶してくる」
俺は武器を呼び寄せた。
盾と、炎の槍が手元に戻ってくる。
「おーい、俺はここだー。こいこい」
俺はとっとこと周辺を走り回る。
宴会場は広場になっており、そこをドラゴンたちは狩場にしていたようだ。
逃げ遅れた人間に火球が降り注ぎ……。
そこに俺がスッと入ったので、火球が盾でペチッと防がれた。
『!?』
これがドラゴンの逆鱗に触れたらしい。
『ギャアアアアアアアアア!!』
咆哮をあげて、俺目掛けて飛び込んでくる。
おっ、背中に人間が乗ってるな。
慌てている。
で、ドラゴンは石造りの家を破壊するほどの体当たりをかましてくるのだが……。
俺がそれをピタッと受け止めた。
衝撃が後ろに抜けないから、全部ドラゴンに返るぞ。
『ウグギャアアアアアアア!?』
自分のパワーをもろに反射されて、ドラゴンが錐揉み状に吹っ飛んだ。
地面を削り、背中に乗っていた遊牧民なんかもう人間の形をしてないね。
ドラゴンのうち、数匹がこれに気付いたようだ。
次々に火球を吐きかけてくる。
ハハハ、くすぐったいな。
お前らの攻撃の全ては俺に通用しない。
だが、ここは人間のフリをしながらだな……。
「小粒なドラゴンを奪ったところで意味がない。こいつらの中にいる一番強いやつをだな……」
「リョウ殿ーっ!! 助けをーっ!」
おっと、アイハムの声がした。
そこでは、女子供老人を守って満身創痍のアイハムがいる。
ボウガンを構えているが、なかなかドラゴンに当たらないようだ。
彼は避けるわけにはいかないから、その辺りのガレキや板を使って、必死に火球を防いでいる。
「ボロボロじゃないか」
俺が駆け寄って、降り注ぐ攻撃を全て引き受けてやった。
「ありがたい……! どうか……どうか、子どもたちは外へ逃がしてやって欲しい……! 子どもたちはエルミジャッドの希望だ……! ここで殺されるわけにはいかない……!」
「ほうほう。あっ、アイハム凄い怪我じゃないか。死ぬぞ?」
「ああ。死ぬ前に、リョウ殿が来てくれた。お陰で未来を守れる……」
ゆっくりと崩れ落ちるアイハム。
守られていた連中が悲鳴をあげた。
ふむふむ。
最後まで勇敢な男だったな。
俺もちょっと敬意を表するぞ。
こいつをリサイクルするのもなんか違うもんな。
死んだままにしといてやる。
「おーい! シエスタの住人!」
「あいよー!」「はーい」「ここにいるぜー」
レッサーヴァンパイア化した住民たちが、あちこちから飛び出してきた。
目視で火球を回避して、物陰に隠れてたな?
「この広場に、ボウガンが大量に転がってるだろ。それ装備してドラゴン撃ち落とせ」
「えーっ!?」「こんなの使ったことないよ」「どうするんだいリョウさん?」
「えーと、ああ、おい現地人! あんたボウガン使える? こいつらに使い方見せてやって。あとお前ら! そこにドラゴンが倒れてるだろ? あれの血を吸ってこい! パワーアップしたお前らを使って遊牧民を押し返すぞ!」
「リョウさんが次から次に難儀な事を言うよ!」「まいったねー」「ああ、ボウガンってのは、筒の先を的に向ければいいのかい?」「遠いと当たらなそうだね」「近づこう!」「そのためには精を付けなくちゃ!」「あとはこのデカいトカゲの血を吸うんだね?」「ウエーッ、生かあ」
シエスタの連中は、倒れているドラゴンにワーッと群がった。
ドラゴンは生きているのだが、生きながらレッサーヴァンパイアに血を吸われるわけだな。
弱々しげに叫びをあげるドラゴン。
すると、他のドラゴンが猛烈な勢いで飛びかかってきた。
仲間の尊厳を踏みにじられてるとか思ってるのだろうか?
知らんがな。
俺はそっちに駆け寄り、飛来するドラゴンを盾で防いでふっ飛ばし、盾で叩き落とし、炎の槍で牽制したりなどした。
アイハムが守っていた女子供老人は、信じられないようなものを見る目を向けてくる。
ドラゴンを軽々あしらう俺もだし、群がってドラゴンの血を吸い尽くすシエスタの連中も、異常なものにしか見えないだろう。
「目撃されてしまったか。なあに、大人はみんなここで死んでもらう。だが、子どもは生かしておこう。アイハムとの約束だからな」
俺は宣言した。
戦争に巻き込まれた子どもの証言を、まともに取り合う者などおるまい。
アイハムが死んだ今、見られたって全然構わないのだ。
「リョウさん! このトカゲ死にましたよ!」「お腹いっぱいだー」「力がみなぎってくるかも!」「次はステーキにしてやるからなー」
「よーし、お前ら、ボウガン持って飛翔! 飛べるようになってるからな! な!」
ステータスを確認すると、全員が第三位階に達している。
飛行能力を得ているのだ。
「どれどれ?」「あっ、翼が出た!」「コウモリの翼だ」「いかすじゃーん」「よし、いっちょやりますかあ」
ボウガンを手にしたレッサーヴァンパイアが、一斉に空へと舞い上がった。
その姿が、夜闇に溶ける。
翼の音はしない。
無音。
そして彼らは体温を発しない。
そして彼らは呼吸をしない。
静かに飛び上がったレッサーヴァンパイアたちが、音を立てずにドラゴンに接近する。
その速度は、アイドリング状態で飛び回るドラゴンを上回る。
至近距離で放たれるボウガン。
『ウグギャアアアアアッ!?』『ウギャアアアアアアッ!!』『ウグギャギャァァーッ!!』
ドラゴンが次々と落下してきた。
そのうちの一匹は、悔し紛れか地上の人間たちを狙って落下する。
「させないぞ。ほい、リメイク!!」
「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」「ウグワーッ!?」
大人たちが生きながらにして、盾へと作り変えられた。
それが炎を防ぎ、ドラゴンを受け止め、そして砕け散る。
子どもたちは全員無事だ。
「アイハムとの約束は守ってやるからな?」
子どもたちが、恐怖に染まった目で俺を見る。
叫ぶことも泣くこともできないでいる。
そこへ、真っ白な糸が飛来した。
壁を蹴って飛翔する、ローデス少年。
空中でドラゴンの一匹に痛打を与え、俺の近くに着地した。
一緒にアニタもいる。
「リョウ! どうなってるんだこれ!」
「大人たちはみんな死んだな。アイハムも子どもたちを守って死んだ」
「な……なんだって……!?」
「アイハムは、子どもを連れて逃げろと言っていた。ローデス、頼むぞ」
「お、俺が……!? あんたは……リョウはどうするんだよ!」
「俺は残る。やることがあるからな。エルミジャッドをこのままにしてはおけない」
ガランドーを回収して、ボス格のドラゴンを見つけ出し、そいつを俺のものにする。
一番大事な役目だからね!
「くそっ、大人たちはみんな勝手だ……!!」
ローデスが悔しそうに地面を蹴った。
なお、頭上でボウガンが唸りを上げているのにはすぐに気付いたようだ。
だが、今はアイハムの最後の頼みを叶えることにしたらしい。
「行くぞみんな! 逃げるんだ! 亜竜を使って、砂漠を抜ける! 砂嵐がないから、今ならみんな逃げられる!」
そしてローデスがアニタを見た。
「一緒に行こう、アニタ!! お前だって子どもだろ!」
「ううん、私はリョウさんと一緒にいるよ! だってそれが私の役目だもん」
「アニタ!!」
ローデスの手が伸びたところで、そこに撃ち落とされたドラゴンが落下してくる。
アニタとローデスの間が引き裂かれたような形だ。
「くそっ! くそぉーっ!!」
叫びながら、ローデスは子どもたちを連れて遠ざかっていった。
よーし、これでアイハムの頼みはコンプリート!
あとは遠慮はいらないな!
「よーし、瓦礫どもよ! リサイクル、リサイクル! そしてリメイク! 高く高く積み上げられて、巨大な腕となれ! それアニタ、乗るぞ! 高いところから遊牧民たちを睥睨してやろう! それに、その方がでかいドラゴンも見つかるってものだ!」
「うん! お祭りだねー!」
※
砂漠の王国エルミジャッドは一夜にして滅んだ。
国を後にしたローデスが振り返った時、そこには空の月を覆うほどの巨大な腕が見えたという。
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