第39話 うわーっ、遊牧民が攻めてきたぞ!
凱旋だ。
女王の頭を切り落とし、帆船の舳先に掲げ、砂漠の暁号がエルミジャッドへと帰還する。
時刻は夕方。
黄昏時の真っ赤な夕日が、女王の頭を照らし出している。
「おお……。彼方を遮る砂嵐が消えた。多くの将軍と女王が倒されたためだな。こんなにも綺麗に夕日が見えるとは……」
アイハムがしみじみ呟いた。
「確かに、昨日よりも夕日がでかいな。それに地平線がもっと低いところにある。実はこの砂漠、砂嵐に覆われていたのか……」
俺とアニタとファルメラは強靭な作りをしているので、砂嵐をトコトコ歩いて通過してしまっていたらしい。
だが、恐らくこの砂嵐はバルログにとっては致命的だったりするのだろう。
「あっちは北かな? 向こうの地平線も下がってら。果てしなく砂漠が続いてるなあ」
「……何か、わたくしたち忘れているような……」
「なんだっけ?」
「おいアニタ! 一緒に行こうぜ! 美味しいもの用意してくれてるぜ!」
「うん! じゃあリョウさん、ちょっと行ってくるねー!」
ローデスとアニタが船を飛び降りて、街中に走っていってしまった。
青春だなー。
「リョウ様、まだ企んでいたりしますの?」
「うーん、一緒に戦って、エルミジャッドのウォリアーたちにもちょっと愛着湧いたからなあ」
この国は、いつかは俺の作る軍勢とぶつかり合うとしても、今は見逃してあげようかなーと思っている。
砂漠のダンジョンが空いたから、しばらくはそこを拠点にすればいいではないか。
うん、それがいい。
そうしよう。
こうして、戦いが終わった後、エルミジャッドでは大宴会が開かれた。
備蓄食料を大量に放出してるんじゃないかという宴だ。
「大丈夫? こんなに食べ物を出して」
俺が聞くと、アイハムが笑った。
「また俺達が集めてくるさ! そのための武装キャラバンだ! それに、女王や将軍の素材もある! 魔人たちがいなくなった今、ゆっくりと回収にも行けるだろう? 移動するなら、日差しを恐れなくてもいい夜がいい。砂漠に安全な夜がやって来たんだからな」
「そうかー。言われてみればそうだなあ」
何もかも丸く収まったような形だ。
まるで、嵐の前の静けさみたいな。
俺、こういう状況は次なる混乱の前触れでしかない、みたいな気がするんだよね。
フラグみたいじゃん?
おっ、宴の中に当たり前みたいな顔して紛れ込んでるギリアおばさんが、ご馳走をもりもり食べている。
たくましいなあ。
あれ?
シエスタで見た連中が何人もいるじゃないか。
アニタがあちこちでこっそり召喚してるな?
きっとアニタのことだ。
美味しいものが食べられる宴を、シエスタのみんなにも体験して欲しかったんだろう。
帰る時どうするんだ。
ファルメラは活躍が目覚ましく、さらに見目麗しいために多くのウォリアーや国の偉い人々から声を掛けられている。
王族として、身のこなしや礼儀作法も洗練されているからね。
それに対して、俺はあんまり周りに人が来ないのだ。
最近のイケメン特撮俳優は線が細いし、エルミジャッドの人達の顔貌と比較すると幼く見えるというのはある。
それに、俺が盾と槍でちまちまとした活躍しかしてないのは広まっているようだからな……。
飯も酒も一切口にしないで、あたりを見回しながらニコニコする俺に、話しかけづらいというのもあるかも知れない……。
「リョウ殿はこう、近寄りがたい雰囲気を纏っているからな」
アイハムにそんな事を言われてびっくりした。
「えーっ!! なんでだ!? 俺は親しみやすい人間だと思っているのに」
「ハハハ、リョウ殿のおられた環境ならそうなのだろう。だが、我らウォリアーの持つ空気と、どこか決定的に違うのだ。人の上に立つ者でもなく、商人でも職人でもない。俺は知らんが、伝承で聞く王宮に仕える道化師というのがリョウ殿に似ているのかもな」
「ほおー! そんな性格分析初めて受けた。アイハムは賢いなあ」
「色々なものを見てきている分、経験を積んだからな。ま、実力はそれなり止まりだが」
いやいや、ただの人間としては強いんじゃない?
でも、才能の限界って感じだよね。
人間である限り、ギフトみたいな超絶的な力を持たない限り、上限が決まっているように思う。
俺はアイハムの話を聞きながら、大して美味いとも思えない酒を飲んだ。
この世界、コーラとかが無いのが最悪だよな。
屋外で開かれた宴は真夜中になっても続く。
普段は灯りを節約するために暗いらしいエルミジャッドの街。
だが、今日は煌々と灯りに照らされ、地上に星空が生まれたようだ。
反面、空の星々はハッキリと見えなくなっている。
こんな日に空を飛んでいる者がいたら、さぞかしエルミジャッドを見つけやすいことだろう。
「あれ? あんなところに星があったっけ? 真っ赤な……それも、だんだん大きくなる……」
酔いで顔を真っ赤にした一般人が、空を見上げてそんな事を言った。
なぁにぃ~?
酔っ払ってるから変なもん見るんじゃないか。
「あれ、こんなに星が大きく……ウグワーッ!!」
次の瞬間、空から降り注いだ真っ赤な火球を浴びて、一般人が炎上した。
一瞬で全身が燃え上がり、炭化して崩れ落ちる。
一瞬、会場が静寂に包まれた。
そしてすぐに、
「襲撃だーっ!!」
誰かが叫ぶ。
街がパニックになった。
何が襲ってきたのか、何が起こっているのか。
誰も何も分からないまま、人々が逃げ惑う。
俺はハッキリと空を飛ぶ者たちが見えた。
ありゃあ……小さなドラゴンじゃないか。
それが大量に、空を舞っている。
そして次々に、火球が降ってきた。
抵抗力のない人間たちを、焼き尽くしていく。
俺にも一発降ってきたので、
「ぺいっ」
手で払って脇に落としてやった。
地面で燃え盛ろうとするのを、「おりゃ」と踏んづけて消す。
ドラゴンブレスか。
大した威力じゃないが、一般ピーポーがこれ喰らったら死ぬだろうなあ。
人間は儚いから。
そんな俺のアクションを、アイハムは見ていなかったようだ。
既に彼は駆け出していて、一般人たちの避難を行っている。
「みんな、建物の中に避難しろ! 炎は石の家で防げる! これは……遊牧民だ! 奴らが攻めてきたんだ! くそっ、どうして奴らが今日、いきなり……!」
俺、分かっちゃった!!
このドラゴンども、砂漠に出現する砂嵐が邪魔して侵入できなかったんだ。
だが、将軍と女王たちが倒されて砂嵐が消えた。
奴らは晴れて砂漠に侵入し、そしてギラッギラに輝くエルミジャッドへの攻撃を開始したというわけだ。
雨のように降り注ぐブレス。
石の家に逃げ込んでも、そこにドラゴンが急降下し……。
「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」「ウグワーッ!!」
家ごと砕かれる。
遊牧民の総攻撃だなー。
ウォリアーたちがボウガンを持ち出して、反撃を開始する。
いやあ、この状況、あの数のドラゴン。
絶望的でしょ。
それにしても……。
俺は空を飛び回るドラゴンを見た。
「あれも欲しいなあ……!」
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