第36話 いざ、砂漠のダンジョン!
「地下牢獄に人が立ち入った形跡が? 何か知っているか?」
「いや、なんにも?」
アイハムに聞かれたのでしれっと否定しておいたのだった。
隠しておきたいものなら、あんなおざなりな鍵で閉ざしておくんじゃありません。
こうして知らんぷりをしつつ、俺達は砂漠の暁号に乗り込んだ。
さあ、出航だ。
日が高くなれば、魔人たちはダンジョンに引きこもって出てこなくなる。
連中、砂漠に住んでいるくせに暑さにそこまで強くないのだ。
「いやー、昼はあっついねえ」
アニタが日傘をかざしつつ呟く。
「お前、肌の色も白いし日焼けしたら痛そうだな」
「そうかも。日傘は絶対いるよねえ」
ローデスと何かお喋りしているな。
ちょっとアニタの方がお姉さんなのだが、ローデスが背伸びして色々口出ししてくる感じか。
ギフト持ちのウォリアーだと、年頃の近いやつはいないだろうからなあ。
そこに、ギフト持ちという触れ込みでアニタが来たので、親近感が湧いたのかも知れない。
うむうむ、仲良きことは美しきかな。
いつまでも仲良くいられるといいなあ。
「リョウ様が良からぬことを考えている笑顔ですわ」
「ええーっ、俺はいつも平和のことだけを考えていますよ」
「本当ですか……?」
俺とファルメラもいつものようなやり取り。
これを見たアイハムが、感心したようだ。
「大きな戦の前だと言うのに、皆少しの緊張も見えない。豪胆だな……!」
「ああ、俺達は大変負荷に強い。女子たちなんか極限の負荷……ヒロピンからのリョナ死から帰還しているからな」
「うん……? よく分からんが、いい笑顔だな。頼りになる! リョウ殿、俺達の割り当ては西のダンジョンだ。三つのダンジョンを同時襲撃し、中央ダンジョンへの援軍を出させないようにする。そこには将軍が存在するはずだ。将軍の討伐。これだけは絶対に果たさねばならない」
「了解した。頑張ろうー」
「おー!」
「おーっ……って、ちょっと軽すぎません?」
俺とアニタの軽いノリで、船の中の雰囲気がちょっと和らいだ。
何言ってやがんだ、新参者がみたいな空気だが、それでも緊張してない奴がいれば張り詰めた空気も変わるものだ。
いいことをしたなあ。
そんな俺達が降りる場所がやって来た。
西のダンジョンだ。
見た目は巨大な洞窟だった。
砂漠の暁号がくぐれそうな入口というのは、とんでもないスケールなのではないだろうか?
「正直、ここは雑魚を散らすだけで攻略を行わない予定だった。戦力が足りないからだ」
アイハムが説明する。
ここは俺達三人と、アイハム、ローデス、その他ウォリアーが二名ほどで担当することになる。
俺達が来る前は四人だったので、これは他のチームの半分の人数でしか無い。
人が足りなかったんだな。
ギフト持ちのローデスがいることでどうにかする腹積もりだったのだろうが、頭数の少なさはなんともならないよな。
「リョウ殿、ファルメラ嬢、アニタ嬢。よくぞ来てくれた! ギフト持ちがローデスを含めて四人もいれば、将軍級は討ち取ったも同然だ!」
「あまりプレッシャーを掛けないでほしいな」
ローデスがぼそっと言った。
だが、その表情はちょっと笑っており、嬉しそうではある。
他のウォリアーも、意気軒昂。
エルミジャッドの人間たちは、皆前を向いて生き延びようとしている。
とてもいい。
まあ、魔人への理解はゼロっぽいが。
残る二人の武器は、弓矢とボウガン専任。
前衛が俺達三人に、アイハムの双剣とローデスの大剣だ。
なかなかバランスがいいんじゃない?
では行こうということになり、ダンジョンに足を踏み入れた。
俺が生前知っていたダンジョンは、踏み込んだ瞬間に別世界のようになるものだったが……。
こっちは普通に地続きだ。
大きく、内部がずっと続いている洞窟くらいの意味合いじゃなかろうか?
灯りをつけて、一丸となってダンジョン内を移動する。
闇雲に動いているわけではない。
この灯りを発しているのは飼い慣らされた虫の一種で、魔人が近づくと威嚇のために音を立て始めるらしい。
つまり、音が大きくなるほど魔人が近くにいるということだ。
かちゃかちゃ、シャカシャカと灯りが音を立て始めた。
魔人がいる。
「ちょっと私見てくるねー」
「バカ、一人だと危ないだろ!」
先行しようとするアニタの後を、ローデスが追った。
彼が手を虚空に向けると、そこに白い糸が放たれた。
糸が空間に張り付き、ローデスの体を一気に引っ張り上げる。
なるほど、糸を使った立体機動と、高速移動が彼のギフトなのか。
あれ、どういう仕組みなんだ?
魔力とは違う。
魔法が使い捨てられた、残滓みたいなものが全く無い。
「これはリサイクルできんなあ。なるほど、魔王が勇者に倒されたのは、彼らがギフト持ちで再利用できなかったからか」
俺が分析しているうちに、戦端が開かれていた。
「わーっ!」
「たくさん固まってやがる!」
ガンガン、ギンギン、堅いものを叩き切る音が響き渡る。
アンドロスコルピオが山程いたかな?
「行くぞ!」
「ええ!」
アイハムとファルメラが走った。
ファルメラは大いに手加減しているとは言え、アイハムも身軽だな。
ギフトのないただの人間でも、鍛えればそれなりに強くなるのだ。
普通のバルログとならば互角だと思う。
幹部バルログの三人組クラスになると勝負にならない程度だろうが。
おっと、他の二人も俺を追い抜いていくぞ!
待てー。
待ってくれー。
俺は盾を構え、槍を構え、えっちらおっちら歩いた。
動きづらいったらない。
なんだこの盾の大きさは!
ふざけてるのか!
怒りがこみ上げてきたぞ!
責任者出てこい!
「逃げ遅れた人間がいるわ」「うふふ、たった一人だけいるわ」「卵を産み付けましょう」「苗床が足りないところだったもの」
頭上からそんな声がするぞ。
見上げてみたら、下半身が蜘蛛になった女たちが俺を見下ろしている。
「みんなで捕まえるわよ! それっ!」「それーっ!」
一斉に、蜘蛛の尻から糸を吹き付けてきた。
君たちィ!
俺が炎の槍を持っていることをお忘れか?
「オリヤー!」
俺は適当な気合の声とともに、空に槍を突き出した。
燃え盛る炎(本物)で作られた槍が、降り注ぐ糸をガンガンに焼き尽くしていく。
「ついでリメイク! 伸びろ!!」
ぐーんと伸びる槍!
まさかの15mだ!!
こんなに伸びると思ってなかったらしく、蜘蛛女の一人が槍に貫かれて炎上した。
「ウグワーッ!!」「なに!? 何が起きたの!?」「なんでこんなところに炎が!?」「あいつ、何をやったの!?」
「槍、分かれろ! アパラチャノモゲータ!!」
炎の槍がバラバラに引き裂かれ、炎の鞭に変わった。
それがめいめい勝手に暴れまわる。
槍ほどの一撃必殺力は無いが、炎が蜘蛛女たちを襲う!
「ウグワーッ!!」「こ、こいつ、まずいわ!」「逃げろー!」
逆さまになったまま、ワーッと散っていく蜘蛛女たちなのだった。
全く、不意打ちとは卑怯な女たちだ。
俺はプリプリ怒りながら、ファルメラとアニタとの合流を急ぐのだった。
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