第35話 地下牢獄の魔人
夜が明ける前に、ファルメラと一緒に街を隅々まで歩いてみる。
途中、どこからかアニタもやって来た。
というか飛んできた。
夜闇に紛れて、音もなく俺の横に降り立つ。
「リョウさんと姫様先に行っちゃうんだもん」
「悪い悪い。ローデスと喋ってたから気を使ってさ」
「ふふふ、年頃の女の子はこういう機会を大事にするべきですわよ」
ファルメラが微笑んだ。
「そお? わかんないなあ」
アニタが首を傾げると、ファルメラがちょっとかがんで彼女に視線を合わせた。
「わたくしは色々なしがらみに縛られて、ついぞ得られませんでしたから」
「あっ」
「あっ」
俺とアニタで色々察してしまう。
さて、俺達は灯りが落ちつつある街中を、一切の灯火も持たず歩き回る。
そうしたら、地面からニョッキリ生えている扉を発見したのだった。
周囲の灯りも全く届かないであろう、隠されているような場所だ。
「ここは牢獄か。地下に潜っていくようになっているんだな」
「鍵が閉まってるねえ。シエスタには鍵開けが得意なおばさんとかいたから、あの人がいたら開けて中を見られるんだけどなー」
「それだ。アニタ、シエスタの住人を呼ぶ力が君にはあるぞ。呼ぶんだ」
「そうなの!?」
「そうなのですか!?」
そっか、二人には自分のステータス見えないもんな。
アニタはいきなり、レッサーヴァンパイアの召喚能力の存在を知ったことになる。
ぶっつけ本番でいきなり使うよりも、いい予行練習じゃないか。
「ええと、どうやるんだろう。おばさーん! ギリアおばさーん」
アニタが夜闇に声を掛けると、そこに闇が集まっていく。
……と思ったら、狡猾そうな印象のおばさんが出現した。
あーあー!
俺、この人のことリサイクルした記憶があるわ!
「あら、アニタちゃんにリョウさん、それに姫様まで! イッヒッヒ、どうしたんです? こんな夜中に大勢で」
「おばさん、私がおばさんを呼んだのよ。ここは砂漠の街なんだから」
「あれまあ! アニタちゃんの意思が伝わってくるよ! ぜーんぶ分かった。これで説明不要だよ! イッヒッヒ、面白いこともあるもんだねえ。それで、あたしに鍵開けをしてほしいわけかい? お任せってなもんよ!」
ギリアおばさんは髪の中から細長いピンを取り出すと、鍵穴に差し込んだ。
カチャカチャっと動かして、
「ふんふん、大雑把な構造だね。シリンダーを回転させるだけだ。じゃあここにこれを引っ掛けて……。アニタちゃん、そこら辺の石ころを取ってくれないかい? ああそれそれ! こいつをえいっ」
ギリアおばさんの指先が石を削り取り、細い棒のように変えた。
これ、普通に人間業ではないのだが、彼女はレッサーヴァンパイアだからね。
おっ、鍵が開いた。
では、地下の牢屋に向かうとしよう。
降りていった先には……。
360度を鉄格子で囲まれ、天井から吊るされている者がいた。
中に入っているのは、石の塊だ。
あ、いや。
ありゃ魔人だな?
エルミジャッドは、地下に魔人を捕らえていたと見える。
「おーい」
俺はそいつに声を掛けた。
「石に化けてるようだが、あんた魔人だろ。俺も似たようなもんだ。色々話を聞かせてくれないか」
「なんだとう」
岩石の中央に、ぎょろりとした目が出現する。
そいつはガチャガチャと形を変えて、辛うじて人間に見える形状に変化した。
「まあ見てくれ。俺は……これだ」
顔のガワをちょっと剥がしてみせる。
岩石魔人はそれを見て、目をギョロッと剥いた。
「オ、オ、オ、オルトファース!!」
「肉体だけな。中身は違うのでとてもフレンドリーだ。君はなんで捕まってるんだ。教えてくれないか」
「お、お、俺はだな。魔人鍛冶と呼ばれていた……。お、俺の名は、ガランドー。さ、最後の、ドワーフだ」
「魔人鍛冶? ドワーフ? 見た目は岩みたいなんだが」
「お、お、俺は喋るの、得意じゃない……。血が薄い……血と肉が混じった奴が、増えた。お、俺達ドワーフは追いやられ、消えていった……。お、俺が、最後の一人。だ、だが、人間どもに捕まり、鍛冶のやり方を聞き出され、こ、ここでずっとぶら下げられてる」
「なーるほど。エルミジャッドの恐るべき武装加工技術は君が教えたものだったのか」
「ちゅ、中途半端……。見て、られない……。お、俺が見込んだ人間、この国、で、出ていった……。だ、だからここ、半端な出来損ないしかない」
どうやらガランドーは、エルミジャッドに広まっている武装の数々に納得行っていないらしい。
これは本物だ。
「意識が高い! そこを見込んで、君に頼みがあるんだ」
「な、なんだ……」
「仲間になってくれ! 実は俺達には、技術者が不足しているんだ! ブレインとなる仲間は得た。次は技だ。やはり幹部たちにはいい装備をさせてやりたいじゃないか。俺はリメイクで物を作れるが、見た目が本当にひどくてな……。美的センスがゼロなんだ」
「お、俺を鍛冶師として雇いたい、のか……?」
「そうだ! 俺には君が必要だ!」
「お、俺を利用、しようというのか、オルトファース……」
「俺はリョウ。オルトファースはもう死んだ。もういない。だが、この体は力を持っている! 俺はこの力を使って、面白おかしく暮らすつもりだ。その楽しい暮らしには、君が必要なんだガランドー!」
「お、お、俺が!? 俺が、必要……!?」
「うむ。というわけで、迷宮を制覇したら迎えに来るぞ。楽しみに待っていてくれ。いやあ、エルミジャッドに来た甲斐があった。彼らの力の秘密を探る予定が、その根源であるガランドーに出会えるなんて……」
「む、む、む……少し、考える……考えさせてくれ……」
「分かった。時間はたっぷりある。明日答えを聞かせてくれればいい!」
俺は彼にそう声を掛けると、地下牢を後にするのだった。
「なんだかリョウ様、妙に物わかりがいい感じでしたわね。ああ、いえ、基本的にあなたは紳士的なのですけれど、言葉が通じないとなると相手を排除するのでした」
「そうそう。俺のことよく分かってきましたねファルメラ様。ガランドーは今後、絶対にうちに必要になるメンバーなんで、仲間にしないとですよ。で、彼を連れて行くとエルミジャッドは騒ぎになるから、ちょっと一撃大ダメージを与えてそれどころじゃないようにしないといけない。あー、偶然超絶ダメージが入って、エルミジャッドが機能不全になったりしないかしら」
「そうだねー! 明日、大忙しだ!」
アニタが両手を広げてびっくりしたような顔になる。
思わず笑顔になってしまうな。
「ギリアおばさんは、俺らが帰ってくるまで適当に隠れてて」
「あいよ! 空き家に籠って寝てるとするさね!」
たくましいレッサーヴァンパイアのおばさんは去っていった。
さあ、そんなこんなで夜明けだ。
アンドロスコルピオのダンジョンを攻略することになる。
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