第3話 安心して下さい、全員ゾンビですよ!
ずらり並んだ村人の男たち。
全員必死の形相で、槍や農業用フォークを構えている。
「ど……どうしてこんなことに……! 神様……!」
「みんな誤解しているんだろう。俺が話そう。えー、皆さん。俺はアニタを救った者だ。皆さんは勘違いをしている。俺は魔王教団の者ではない……」
これは本当である。
魔王スキルを持っているけど、魔王教団ではない。
「な、何を言ってやがる! 見たこと無い服を着て、魔王教団の連中を引き連れて! アニタにたぶらかされたな!? アニタ! この毒婦め! 都会から逃げてきたお前の面倒を見てやった恩を忘れたか!!」
「恩……!? 恩って何よ! 毎日残飯やカビの生えたパンくらいしかくれなくて、その上馬小屋で動物と一緒に寝泊まりさせられて、朝から晩まで休み無く働かされて、男たちは乱暴してくるし、挙句の果ては魔王教団が近くに来たからって、私を縛って生贄にしたんじゃない!! そんな私が、それでもせめてみんなに知らせようって、魔王教団はいなくなったって伝えに来たのに!」
「そうだそうだ!」
俺は同意した。
大変可哀想な身の上じゃないか。
可哀想は可愛い。
いいね?
「そ、そこの男、ニヤけてやがる!!」「おかしいやつだぞ!」「それに後ろにいる魔王教団の連中はなんなんだ!」「みんな土色の肌をして黄色く濁った目をしてて、人間とは思えない……」
「ああ、このことか!!」
俺は合点した。
村人たちが何に怯えていたか、理解したのだ。
「安心して下さい! 全員ゾンビですよ! 魔王教団は全滅しています!!」
フレンドリーな笑顔を浮かべて、俺は彼らに語りかけた。
「ウボアー」
なんか呻くゾンビ。
「ひぃーっ、化物!!」
そうしたら村人の一人が暴発してしまった!
農業用フォークを投げつけてくる。
「危ない、神様! ウグワーッ!」
アニタが俺を庇った!
農業用フォークが胸に突き刺さる!
彼女は血をどばどば吐きながら、弱々しく俺に振り返った。
「良かった……。神様を守れた……」
「アニター!! く、くそう、悔しいけどリョナ展開は胸が熱くなってしまう。これはアニタの仇を取るしかないなあ……」
俺はアニタをそっと寝かせる。
その間にも、俺めがけて石や農具が降ってくる。
みんなブレーキが効かなくなったらしい。
暴走状態だな。
民衆の心理とは恐ろしい。
何をそんなに怖がっているのかね。
「アパラチャノモゲータ!」
俺はリサイクルの力を発動した。
彼らが投げ捨てた石や農具が、全て浮かび上がって俺の周囲を旋回し始める。
なお、俺にぶつかった農具や石はなんのダメージにもなっていないぞ。
不思議なことに無傷だし、服に全く汚れがついていない。
「ひ、ひいい、化物!」「魔王教団なんかじゃねえ!」「なんだあいつ、もっと……もっと恐ろしい化物だ!」
「諸君、危機を知らせに来た少女を手にかけて殺し、善意で魔王教団員をゾンビ化した俺にこの仕打ちとは……。本当の化物はどちらだと言うんだね。人間は……誰しも心のなかに化物を飼っているんだ……! 負けちゃいけない! 自分の中の怪物に! ……くう~、ちょっとカッコ良すぎたかな……」
「うわあああああ! あいつを、あいつを殺さなきゃ!」「牛を連れてこい! 突き殺させるんだ!」「馬で踏み殺せ!!」
「残念だ……。交渉が決裂してしまった。俺は苦渋の選択をせねばならない」
ゾンビたちに振り返る俺。
いやあ、実に悲しいすれ違いだ。
だけど仕方ないね。
さあ、殲滅だ!
「ではゾンビたちよ。なんか体内に可燃性ガスが発生してるのが俺には分かるぞ。お前らの役割を教えよう! 金物と石をゲットして、口の前でカチカチやって火花散らしながらガスを吐き出してダッシュ! ゾンビ爆弾軍団、ゴー! アパラチャノモゲータ!!」
俺の呪文に合わせて、ゾンビたちが走り出した!
猛烈な勢いだぞ。
破壊されている体組織が、走ると更に壊れていくが、そんなもん気にせず走る。
走りながら、口から可燃性ガスを吐きながら、その前で金属の農具と石をカチカチ打ち合わせる。
「き、きたー!!」「迎え撃てー!!」「魔王教団めーっ!!」「あれっ? あいつらの息が燃え上がって……」
一人のゾンビが大爆発!
続いて他のゾンビも、連鎖して爆発だ!
「ウグワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
うわーっ!
思ったより爆風がでかい!!
くそーっ、冗談じゃないぞ!!
俺は爆風からアニタの死体を庇った。
どうせリサイクルするが、傷はつかないほうが気分がいいじゃないか。
背後で、村の三割くらいを巻き込んで爆発が続いた。
堆肥から出るメタンガスにも点火してしまったんだろう。
不幸な事故だ。
しばらくして振り返ると、背後は焦土になっていた。
俺は天を仰ぐ。
「戦いは虚しい。誰もが平和的に生きるべきだ。リサイクル!」
俺が手を叩くと、足元のアニタの体からフォークが抜けた。
周囲に撒き散らされていた血は不純物を弾きながら戻っていき、彼女の体の中に。
傷は塞がり服は治り……。
アニタが目を覚ました。
「神様!!」
「とんでもない、俺は神様ですよ」
「良かった! 神様、無事だったんですね!」
「アニタのお陰だよ。だが悲しいお知らせがあるんだ」
俺はとても辛そうな顔をした。
「村が壊滅してしまった……」
「まあ……!! どうしてこんなことに……」
「彼らは争いをやめようとしなかったんだ。人の争おうという意志は、こんな悲しい結末を招いてしまう。やはり戦いはよくないのだ。NOWAR……NOLIFE……」
なんか用語が間違ってる気がするけど、かっこいいからいいか。
「アニタ、村は消えてしまった。悲しいがこれが現実なんだ。過去は振り返らず、君の故郷の街を救うために旅立とう」
「はい……。村の人達にはひどい目に遭わされたけれど、それでも死ぬよりは良かったし、お陰で神様にも会えたんだもの。みんな、神は世界を見捨てたって言ってる。でも違ったの! だって、神様は私を助けてくれた! 神様! 故郷を救いに行こう! きっとみんな、神様を待ってる!」
「ああ、もちろんだよアニタ! 行こう! ゴー! ウエスト!」
「あれ? あの、他の魔王教団だった人達は……?」
「悲しい犠牲だったよ……」
「まあ……! みんな村人の暴走を止めるために……!」
「ああ。みんないいやつだったのにな」
出会ってまだ数十分だし、会話したことは一度もない。
だが、あんなに有用な活躍をしてくれたみんなだ。
俺は焦土となった村に祈りを捧げ、彼らの魂が救われることを願った。
まあ地獄行きだろうな。
こうして俺とアニタの旅は始まった。
村の焼け残った家から、食べ物などをいただき……。
燃え尽きた灰から食べ物をリサイクルし。
村を出て、数時間ほど行ったところで……。
「待ちな! 食い物を置いて行け! あと、女もな! 男は死ね!!」
めいめいバラバラな装備に身を包んだ武装集団が、前方に現れたのだった!
山賊だ!
ここでゾンビを補充できるぞ!
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