第12話 王に興味は無いがそのバックに興味がある
どうやらシエスタが解放され、カザン軍が撤退した情報は伝わっていたらしい。
俺達が姿を見せると、城の兵士というよりは騎士みたいな、大層な格好をした連中が駆け寄ってきた。
「ファルメラ様!」「殿下、よくぞご無事で!」
無事じゃないんだわ。
一回ひどい目にあって死んでるんだわ。
あの記録はファルメラとともにいると常に参照できるので、俺はもう彼女から離れられないねえ……。
「ただいま戻りました。父に報告致します。取り次ぎなさい」
「はっ!」
こうして即座に俺達は国王の前に案内される。
俺はともかく、いかにも普通の町娘って感じのアニタと、ボロボロの衣服に仮面を被ったラッシュ&ヘッドレス。
お連れが怪しいんだなこれが。
騎士たちがちょこちょこ振り返っては、俺達を怪しそうに見る。
ええい、見せもんじゃないぞ。
ドラク王国というのも、見た目は城壁の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれた三次元都市と言った外見だ。
地面があり、建物がところ狭しと立ち並び、さらに城壁の壁面にも幾つもの階段。
壁にへばりつくような建物と、そこから橋が渡されて二階の建造物に繋がっていたりだ。
そして、そこここに畑がある。
茂みかと思ったら畑だったり、花壇かと思ったら畑だったり、建物の上が畑だったり。
限られた空間をフル活用している国、それがドラク王国だった。
おお、頭上の橋をバタバタ走っていく連中が見える。
彼らはファルメラに気づくと立ち止まり、橋の上から頭を下げてくる。
慕われてるな、姫騎士。
それでこそヒロインというものだ……。
「神様はなんで嬉しそうなの?」
「そりゃあ、姫騎士が姫騎士らしい慕われ方をしているとだな。これこれ、こうだよねって欲しいものを見せてもらったような満足感をだな」
「そうなんだー! 神様が嬉しいなら、私も嬉しいなー」
日傘をくるくるさせるアニタなのだった。
ラッシュはラッシュで、
『いやあ懐かしい! 昔と何も変わっておりませんなあ! いや、もっと高層まで家々が立ち並んでおりますな。どうやら人が増えたと見える』
「ラッシュ、あなたは本当にドラク王国にいたのですね。確かに、叔母様の時代より人の数が増え、国は上へ上へと伸びました。ですけど、明るいでしょう?」
「確かに明るいですね」
ドラク王国は、およそ三層に渡って積み重なった積層都市になっている。
なのに、昼間の輝きが一階まで降り注いできている。
その秘密は……。
「鏡か!」
「はい。鏡を用いて、太陽の光を下まで届かせているのです」
なるほど、工夫に満ちた国だ。
そして限られた土地を無駄にしない。
エコシティと言っていいだろう。
俺の能力とも実に合致している。
そんな街を抜け、国の中心にある王城へ到着した。
丸い壁に囲まれた建物だ。
敷地もそれなりにあるが、城というには小さめか。
王城は高く高く伸びていた。
城が、見張り塔も兼ねているのだろう。
あまり大きくない門をくぐると、階段があった。
これを登り、振り返ると謁見の間だ。
省スペースを上手く活用してらっしゃる。
謁見の間は生前、ファンタジーものを見てイメージしたものよりこじんまりしていた。
学校の普通の教室くらいの広さだな。
それでも恐らく、この空間はドラク王国でもかなり広いほうなんだろう。
奥に玉座があった。
先にファルメラが入室し、王の元まで歩いていった。
ほう、神経質そうな初老の男がいる。
あれがドラク国王か。
玉座の左右に小さい椅子があり、片方には男が座っていた。
王子だろう。
で、もう一つに女が座っていた。
ファルメラの姉か?
おう、ファルメラが報告している。
国王はこれを聞き、頷く。
王子はやたらまばたきが多く、ファルメラの報告が終わったあと、大きくため息をついた。
姉の方は、いやーな目でファルメラを睨み、その後俺達をジロジロと見ている。
「入るが良い!」
でかい声が掛けられて、入室が許可されたぞ。
騎士団長っぽいのがいて、こいつがこの声を発したらしい。
鋭い目が俺を睨みつけている。
俺は笑顔で手を振った。
真似してアニタも手を振った。
後に続いたヘッドレスも手を振った。
「なに、こいつら。不敬じゃない?」
ファルメラの姉がぼそっと呟く。
周りの兵士がなんか殺気立った。
「おやめ下さい! 彼らはシエスタ解放の助けとなった方々です! わたくしもとても……とてもお世話になりました……!」
(ここで彼の機嫌を損ねてはいけない……! 王国の助けになる人なのに、下手な対応をしたらドラク王国を滅ぼす毒になってしまう!)
胃をキリキリさせてるっぽいね!
ごめんね!
俺はアニタとヘッドレスに命じて、跪かせた。
二人ともやり方が分からないらしいので、俺が率先してやり方を見せた。
真似する二人。
うん、なんか変な形だけどそれっぽいぞ!
「リョウとやら。大儀である。我が娘ファルメラを救い、シエスタを解放した旨……」
むにゃむにゃ言ってるな。
俺は国王に興味などないし、言っていることにも興味はない。
今のところ気になるのは……。
玉座の後ろ、壁に大きく刻み込まれたレリーフだ。
一つ目の巨人の頭をかたどったようにも見えるそれは、謁見の間の主役のような存在感だった。
あれがウェンディゴか?
カザン帝国の連中が言うに、ドラク王国の後援を行っている存在。
いやあ、早く会ってみたいもんだ。
レリーフをじっと見ていると、まるで国王に目を合わせているように見える。
「陛下のご尊顔を凝視するとは無礼な……」「何なのだあの男は」「いかにファルメラ様の手助けをした者とは言え、無礼は許されん」
おっ、おっ、おっ、大層反応が悪いようですが……。
ファルメラがぎろっと振り返り睨むと、ボソボソ言っていた兵士か家臣かは押し黙った。
「陛下。リョウ殿はわたくしたちに手を貸してくれると言っています。彼の力を借り受け、黄の平原を奪還致しましょう!」
「うむ。たかだか三名で、それほどの成果を成したというのはにわかには信じられぬが……。ファルメラが嘘をつくはずがない。余は信じる他無いということだ。ではリョウ殿。我が国に手を貸してもらえるか」
「はい、手を貸しましょう。ただし条件がございます」
「不敬な! 先程から無礼を繰り返し……! いかなファルメラの連れてきた連中と言えど、もう堪忍なりません!!」
おっと、ファルメラの姉がなんか怒って立ち上がったぞ。
直後、ファルメラを見ていやーな笑いを浮かべる。
こいつー、嫌がらせするつもりだぞ。
「騎士たちよ! この無礼な者共を捕らえよ! 罰を与えねばなりません!」
「お姉様!? おやめください!」
(やめて~!! ほんっとうにやめてーっ!!)
そうしたら、家臣たちもわあわあと騒ぎ始める。
騎士なんかやる気だ。
こっちに掴みかかろうとしている。
だが、困っている姫騎士の内心を聞いちゃなあ……。
助けてあげたくなっちゃうなあ。
俺は立ち上がる。
そして両手を広げた。
「まあまあ、そういきり立たず! 面白いものをご覧にいれましょう! ラッシュ!」
『はっ!』
ヘッドレスの上にいたラッシュが、ふわりと飛び上がる。
「く、首が!」「ひい!」「なんだこれは……!」
「リメイク」
同時に、俺の足元の床がぐにゃりと捻れ、盛り上がっていく。
そして天井はたわみ、俺の頭がぶつからないちょうどいい高さになった。
横からニューっと腕のような突起が伸び、ラッシュをガシッとキャッチした。
「俺はこのような曲芸めいた真似ができる。この力をお貸ししようと言っているのだ」
国王が呆然と俺を見上げた後、コクコク頷いた。
物わかりが良くてよろしい。
「ウェンディゴという存在をご存知か? カザンの兵が言っていたが……残念ながら彼らは会話ができぬ故、皆ゾンビにしてしまった。国王陛下と皆さんなら会話ができると期待している。ウェンディゴをご存知か?」
俺の問いに、この場にいる者たち皆が、青ざめながら頷いた。
(な……なんという威圧感……! このリョウという男、その存在感だけで謁見の間の人々を飲み込んでしまった……!)
「会わせていただきたい。そのウェンディゴなるお方に。あなた方の神なのだろう?」
こうして俺は、ウェンディゴとの会見をとりつけた。
アニタはこの姿を見て、「神様かっこいー」とか無邪気にはしゃいでいるのだった。
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