第10話 魔王と姫騎士の同盟
コツコツと、死んだ街の人間たちを復活させていく。
カザン兵ゾンビを使い、死体を街の中央に集めさせているのだ。
「神様、いつもみたいにバーっとやったりできないの?」
「それをやるとゾンビになっちゃう。リサイクルはね、正面から向き合ってきちんとやらないと、人間で復活しないの」
「ほえー、そうだったんだ! じゃあ、神様はシエスタのみんなを大事にしてくれてるんだなあ。嬉しい」
まあ、アニタの目標がここだったからな。
俺としても、第一目標だったここで、締めにいい加減な仕事をしたのでは意味がない。
きちんとアニタの希望を叶えてやってこその神様なのだ。
俺は身内には優しいぞ。今までほとんど身内がいない人生だったけどな。
ちなみにリサイクルに関しては、ファルメラに使ってから気づいた事実だ。
俺がテキトーな気持ちでリサイクルさせると、人間はゾンビになる。
人間に戻れー、人間に戻れー、と思ってリサイクルすると、人間になる。
多分人間。
恐らくは。
メイビー。
横から俺の作業を覗き込んでいるアニタが、前よりも肌の色が青白くなってるとか、瞳の色が赤くなってるとかは副作用によるものだろう。
その副作用があるのかないのか、あったとしたら何なのかは全く知らんけど。
「ほい、リサイクル」
「うおーっ!! やめろ、やめろカザン兵めーっ! ハッ!? お、俺は今まで何を……」
起き上がったのはヒゲのおっさんだ。
衣服まで直ってるから、殺される前の状態に完全修復だぞ。
周囲の街まで完璧に元通りなので、復活したおっさんは戸惑っていた。
「ジョシュアおじさーん!」
「アニタ!? 疎開したはずのアニタかい!? 無事だったのか! 良かったー!!」
「知り合いだったの?」
「みんな顔見知りみたいなものだよ!」
なるほどなあ、この世界、これくらいの時代の街は、外に出ていくということがあまりない。
街の人間たちで、お互いの顔は見知ってて当然というわけだ。
ではなおさら、気合を入れてリサイクルしていかねばな。
回収できる限りの死体を回収し、じっくり作業を進めていくのだ。
(この男……。邪悪な存在だとばかり思っていましたけれど、どうして街の人々をこんなにも真剣に復活させているの……? もしや、持っている力は邪悪でも心根は……)
アニタの知り合いだからだよ!
特に縁もゆかりも無い相手は雑に使い捨てるからね。
だが、俺の性根は基本的に小市民なのだ。人格がネジ曲がっててちょっとサイコパスとソシオパスのブレンドっぽくはあるけど。
「あっ、魔法使いをゾンビ化させたけど、こいつゾンビになったら魔法使えないんだな! かーっ、意味ない!」
俺が町の人々の復活の合間に、カザン兵をゾンビ化させて息抜きしていると、これを復活した住民が「ほーっ」と感心しながら眺めているのだった。
「ゾンビ化作業が珍しい?」
「はい。我々を生き返らせてくれたのは本当にありがたいのですが、それと同じくらい、あの凶悪なカザン兵が牙を抜かれて人形みたいになっているのが不思議で不思議で」
「ハハハ、多分、ゾンビになると生前とは別の人格だからね。魂みたいなのが抜けて、ゾンビとして動く無個性なプログラムみたいなものが走るようになるんだ。だがさっき試したけど、このゾンビはカザン帝国の敵味方識別魔法をくぐり抜ける」
「と、言いますと!?」
「カザン帝国の連中は、本格的に戦うことにならない限り、こいつらが敵だって分からないわけだ! よーし! カザン兵ゾンビども! 命令を下すぞ!」
「ウボアー!」
「全員、カザン帝国に帰還! そして内部に入り込んで全員ゾンビ爆弾!」
「ウボアー!」
俺の命令を受けて、ゾンビたちは街の外へと去っていった。
何日も掛けてカザン帝国に到着し、致命的な破壊を行うことであろう。
異教徒に厳しいカザン帝国だからこそ、同胞の見た目で魔法にも味方判定がされるゾンビに対しては脆弱なのだ。
うーん、実にスマートな戦い方……。
あとは象だが、こいつらは大飯ぐらいなので街の外に追い出したのだ!
帝国に帰れ帰れ!
パオーン、と鳴きながら象たちも去っていった。
「リョウ様、ちょっとよろしいかしら」
ファルメラからお声が掛かる。
俺が街の人間の復活作業を一休みしているところだった。
夜を徹しての仕事になるぞと思っていたら、姫騎士が話しかけてきたのだ。
「どうしましたかファルメラ様」
「リョウ様、あなたは人知を超えた力を持ち、シエスタの街を救ったお方。カザン帝国相手に何もできなかった私をも助けてくださったのですから、他人行儀ではなくファルメラとお呼び下さいませ」
「じゃあファルメラ。思い詰めた様子だけどどうしたんです?」
一応、敬語の体は取っておく俺。
姫騎士の関係者に、馴れ馴れしい! とかで敵意を懐かれても面倒だからね。
それで攻撃なんかされたら、王国をゾンビの園にしてしまうかも知れない。
「あなたの力を見込んでお願いがあるのです。どうか……あなたの力を、ドラク王国に貸してくださいませんか……!」
「ほう……!」
いや、普通に予想はついてたけどね!
シエスタに派遣された兵の数は少なかったんだろう。
ファルメラがそれを指揮していたということは、ドラク? 王国とやらがあまり戦力を持っていない小さな国であるということになる。
カザン帝国のいきなりの襲撃で、実は王国も大変危ないところだったのだ。
……というのは全部俺の想像なんだけど。
さて、俺としては、この姫騎士が大好きになってしまったので、頼みを聞いて上げる気満々だ。
なにせ、生前の俺が遊んでいた叡智ゲームのヒロインがこのファルメラだったのだから。
だがしかし!
安請け合いしたら、これはこれで裏があると思われたり。あとは姫騎士の曇り顔なんかを見られなくなるではないか。
ちょっと無理したらいけそうな難題を吹っ掛けて、この件を請け負うというのはどうか。
そうだ。
それで行こう。
「ファルメラ、俺はアニタの街を復活させた後、やるべき事があるのですよ」
ありません!!
何も!!
ありません!!
シエスタを再生させたら、俺のやりたいことも目的も無です!
虚無です!
「では……わたくしのできることならば、なんでも致します。どうか……どうか、ドラク王国に手をお貸し下さいませ……!!」
ファルメラが跪いた。
高貴な姫騎士が!
俺の前に跪いて!
うーん、興奮する。
たっぷりとこの光景を堪能し、俺は意識的に落ち着いた声を出した。
「そこまで請われるとは……。では一つ条件を出しましょう」
「条件……でございますか……!」
「毎日、王国の臣民を一人差し出していただきます。俺も手勢を補充したいのでね」
「そ、それは……」
姫騎士の顔が青ざめた。
あ、これは受け入れられない条件ね?
本当にいい子だねえー。
逡巡し、懊悩する彼女をたっぷりと堪能した後、俺はツヤツヤになった。
ちなみに!
俺は手勢なんか一人もいなくてもいい!
その場その場で補充できるし、どうせ使い捨てるからね。
「ふむ、それが叶わないならば、別の条件でいいですよ」
「は、はい……! なんでしょう……!」
今さっき、姫騎士は己の命を差し出して受諾してもらおうなんて考えていたのだった。
それはいけない。
俺としては、ファルメラは生きていてくれるのが何よりのご褒美なのだ。
「なるべく珍しい、壊れた武器や道具をたくさん持ってきて下さい」
今度はきょとんとするファルメラなのだった。
「そんな……そんなことでいいのですか……!?」
こっちは、クリティカルに俺が必要とするものだ。
たくさんの壊れた物品は、リサイクルすればそのまま俺の力となる。
「ええ。それで結構です。では街の再生が終わったら、ドラ……ド、ドル……」
「ドラク王国です」
「そう、それ。ドラ……ク……?王国へ旅立ちましょう」
かっこつけたのに、固有名詞が覚えられなくてかっこつかなかったんだけど!!
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




