古風なやり取りとカフェデート
深月の滞在先は手ごろな値段で宿泊できるビジネスホテルだった。彼女の気品には不釣り合いな場所だが、家庭の都合で一時的に身を寄せているらしい。付き人として同行している伊織も同じホテルの別室に宿泊しているようだ。
訳ありのようだが、詳しい詮索はできていない。
連絡手段がない私たちはホテルのフロントを介して手紙を渡し合うという周りくどい方法でやりとりをした。普段キーボードを叩くのとは違う手書き文字は私の日常に癒しを与えてくれた。
そうこうして深月と土曜日の約束を取り付けることができた。
待ち合わせ場所は駅から少し離れた路地裏にあるカフェにした。
しかし、約束の時間を三十分すぎても、深月は現れなかった。
デジタルなつながりを持たないことが脆く不安さを感じた。スマホの画面を無意味にスワイプしながら、私はホテルの前まで迎えにいくべきだったと反省する。
「本当にごめんなさい。カフェの場所がわからなくて。」
ようやく現れた深月は肩を上下させ、顔を上記させていた。必死にカフェを探したであろう姿を見て、何より無事に来てくれたことに内側にたまっていたイライラや不安は急速に形を変えて喜びを生じさせた。
「いいよ、このカフェわかりづらい場所にあるよね。」
彼女を促し、私たちは店内の隅の席に着いた。注文したコーヒーの香りが二人の間に漂う。
「…それにしても、婚活パーティで会った女の子同士でこうしてカフェでお茶しているなんてだよ」
私が冗談めかして言うと深月は小首を傾け不思議そうに私を見つめた。
「…? 女の子同士だと何か不都合があるの?」
「不都合っていうかさ、普通は結婚を目標に相手を探しに行く場所でしょ。なのに、別の方向に進んだ感じだなって」
「ああ、そういうことね。理紗…さんは結婚したかったの?」
「結婚か…私は千花に連れてこられただけだからなぁ。あっ千花って一緒に参加していた女の子ね。」
「うん、知ってる。…千花さんもは結婚したかったのかしら」
「どうだろう、あいつの考えていることは昔からよくわからないんだ。まあでも何か状況を変えたかったんじゃないかな」
「ふーん。」
深月は思うところあるのか顔をしかめる。その曇った表情も可愛らしい。っとこっちも聞いておこう。
「深月こそ結婚したくて参加したの?」
「えっ、私は…その、社会見学、かな」
「社会見学、言うね。一番人気あったのに。余裕あるね」
「そっかなぁ。伊織のほうがずっと注目を集めてたよ。」
「伊織さんは女性陣からの人気でしょ。確かにかっこよかったし。」
「えっ、理紗さんも伊織のこと気になった?」
深月の声が、心なしか低くなった気がした。私は苦笑して首を振る。
「うーん、あの中だと一番かっこは良かったと思うけど、好みかというと違うかな」
「そう、良かった。」
安堵したような彼女の様子に、私は少し意地悪な質問を重ねる。
「もしかして伊織さんのこと好きだったり?」
「そんなことない。」
驚くほどはっきりと深月は言った。触れてはいけない地雷だったのかと動揺する。
沈黙が流れる中、深月が唐突に、重い口を開いた。
「ねぇ理紗さんはもし結婚相手を自分の意志に関係なく強制的に決められたらどうする?」
「え?」
「好きな人ならいいけどそうじゃない、会ったことも知りもしない相手と結ばれないとしたら」
問いかけは切実に感じられた。
「…嫌だね。今の時代はそんなことはよっぽど起きえないと思うけどね…深月は今そういう状況だったりするの?」
「…」
深月は答えず、しょんぼりと俯いた。小さい肩が震えているようで私は思わず彼女に触れて支えたくなっていた。
「もし困ってるなら、何でも言って。私にできる手助けなら、何だってするから。」
「…ありがとう。」
彼女が顔を上げた時、その瞳には覚悟のような色が宿っていた。
「そうだ、今度は千花さんも一緒にお出掛けしない?」
「え、千花と?」
深月からの予想外の提案だった。
「多分来てくれると思うけど、どうして?」
「うーん…」
深月は言いづらそうにしている。
「こっちも伊織連れてくるから四人で遊びたくて」
「ふーむ…」
何かを隠している気がした。二人で遊ぶほうが気楽な気がしたが、彼女の願いなら、彼女を元気づけられるならみんなで遊ぶのも悪くない。
「いいよ、じゃあ四人でどこか行こうか」
そのあとも私たちは他愛のない生活のことから仕事のことまで様々な話をした。
彼女は私のことを知りたがっていたし、私を通して社会のことも知りたがっているように感じられた。
やはり、いいとこの箱入りお嬢様で間違いなさそうだ。




