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婚パの出会い

婚活、生活の中で恋人を見つけられなかったものたちが行き着く活動だ。

私、理紗(りさ)は不貞腐れた気持ちを抱えながら婚活パーティの会場のテーブルに着席している。

周りを見渡すとスーツの真面目なものからTシャツ姿のラフな格好のものまで様々な人がいるが、いずれもどこか抜けたようなモテない雰囲気が漂ってきている。

私自身も大概抜けているが、学生時代も社会人になってからもモテた。クールに無駄を削ぎ落としたシルエットに黒髪ショート。睨みつけているようにも見える鋭い眼光は全てのものを分析しているかのように見えるらしい。実際、学生時代から告白されることには事欠かなかった。さりげなく手助けしただけでもアプローチされる結果を招いたものだ。

そんな私が、なぜわざわざこのような場所に座っているのか。

向かいの席にいる緊張のあまりおしぼりを執拗に畳み直している男の動きを見て、私は心の中で深い溜息をついた。


「そろそろ始まるかな」

隣から声をかけられ、視線を移す。そこにいるのは幼馴染の千花(ちか)だ。

少しの緊張とワクワクを顔に出している彼女は私とは対照的に「女の子」を絵に描いたような風貌をしている。緩く巻かれた栗色の髪に、潤んだような大きな瞳。小柄な体を包む淡いパステルのニットは、彼女の柔らかな雰囲気をいっそう際立たせていた。高校まではそれこそ毎日のように一緒にいたが、卒業後は疎遠になっていた。それが社会人になり、帰省した折に偶然再会してしまったのが運の尽きだ。

お互いの近況を話すうちにお互いに恋人がいないことがわかり、千花が気になる婚活パーティを紹介してくれたのだ。本来は3名が参加条件なのだが見込みで予約はしたがあと一名足りないようだ。だったら諦めたら良いのに千花の好きなアニメ作品に特化した作品だからと参加させられたわけだ。そのアニメは私も好きだったから、乗り気になり参加したわけだがこの惨状だ。しかも千花の友人は急用で参加できなくなったようで結局二人で会場にいるわけだ。


こちらの人数に合わせられた向かい席の2名は静かに席に座りながらスマホを操作している。パーティは始まってないからと言ってもこういう時は雑談くらいした方が良いと思うが、私の方から何か話したいこともない。こんな調子だと始まった後も気が重い。席の入れ替えもあるようだがそれまで場がもたないだろう。


気分を変えようと顔を上げた。会場の入り口にたった今到着したであろう女性に目がいった。シンプルだが計算されたシルエット、凛とした立ち振る舞い、美しさだけでなく可愛らしさを兼ね揃えた女性。どことなしか千花と似ている気がする。千花の持つ可愛らしさを数十年かけて高貴さへ昇華させたような感じだ。


彼女が受付を済ますと運営の一人が申し訳なさそうに私たちのテーブルへと誘導してきた。

「すみません、六人で1組なので二人合流させてもらいますね。」

彼女と彼女の後ろを歩いていた付き人らしき人が小さく挨拶をした。

付き人らしき人は彫刻のような整った顔立ちをした鋭い雰囲気のイケメンだ。隙のない黒いスーツが執事のような独特な雰囲気を強調している。

女性は私の横に執事はその女性の対面に静かに着席した。


「よろしくお願いします。」

女性はじっと私の方を見て行った。清涼な香水の香りがし、圧倒的なオーラを前に胸の鼓動が高まった気がした。


運営がパーティの流れを事務的に説明した後に自己紹介タイムが始まった。

まずは男性陣から自己紹介をした。最初からいた二人が自己紹介した後にイケメン君が続いた。彼の名前は伊織というらしい。どこか透明感のある男性にしては高めの声で名前も珍しい感じがした。


続いて女性陣の番で隣の女性が名乗った。

深月(ちか)と言います。趣味は…旅行かな…」

「旅行ってどういうところ行くの?」

短く切り上げようとした彼女に対して、気づけば身を乗り出して私は質問していた。普段の私なら聞き流すはずなのに彼女に興味が湧いたのだった。


「うーん、海とか自然とか見えるところかな。あと古い神社とか参るのも好き。」

彼女が答えるたびにテーブルの空気は彼女を中心としていた。当たり障りがない話でも彼女が話すと場は静かにその言葉を聞くのだ。このテーブルの話題は深月一人に集中していた。

ふと右隣の千花を見ると露骨に不機嫌な顔をして手元のジュースをストローでかき回している。場の中心になりがちな彼女が一言も発さないことからも面白くないのは間違いない。


席替えの時間が来て男性陣が入れ替わってもテーブルのパワーバランスは変わらなかった。深月はこの会場の花となる存在だった。


「すみません、アプリをやってないのでフレンド申請はできないです。」

連絡先交換時間となり、皆が深月の周りに集まっている時に深月は言った。

このご時世に今時アプリしていないなんてことはなく、見え透いた嘘だが、でもそう言われると引き下がるしかない。男たちは悲しく別の人に申請しに行くのだった。私と千花もフレンド申請をお願いされたが気乗りせず誰とも交換しなかった。


周囲の参加者は戦果のなさに肩を落としていたが、私は落胆しなかった。深月を中心とした話は楽しく、今も記憶として残っていた。深月と今日最も話せたのは私だ、それは間違いない、ならば。


パーティが終わって、女性陣から会場を出ていくことになった。私は深月の後ろにぴったり張り付き、会場の外で半ば衝動的に彼女を引き留めた。千花はこれでもかというくらい不機嫌そうな顔をしているが私は気にしないことにした。

「深月さん、今日は色々話できて楽しかった。もしよかったらフレンド申請しよ。アプリやってないならメールでも電話番号でも交換しよ」

「ごめんなさい、メールも電話も持ってないの」

えっと驚いたが嘘を言っているように見えなかった。彼女の瞳は真剣で、彼女も私に対して何か思っているように感じられた。ならば、


「どのあたりに住んでるの?手紙でもいいし、直接会いにいくよ。」

もはやストーカーではないかと思う発言だが、こっちも真剣だった。

あれ、なんでこんな真剣になってるんだ。

私の提案に深月はぱっと顔を輝かせた。


「手紙!それは素敵。私の今滞在しているところは」

彼女の滞在先のホテルは驚くほど私の自宅に近かった。

今時中学生でもしないような古風すぎる通信手段。それでも深月とやりとりが続けられると思うだけでも私は十分すぎるほど満たされた。婚パの戦果ありました。

その夜、私は今日の出来事を思い返していた。深月のことばかりだが。

これが出会いってやつなのかも、と胸がときめいた。

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