侵入
「昨日は迷惑を掛けてすまなかったな」
あの後、精神的な疲れからかソファでそのままぐっすりと眠ってしまい、起きたら翌日になっていた。横目にリリアーナが眠っている姿を確認したクライヴは驚いて、飛び起きた。しばらくして目が覚めたリリアーナにはソファで一緒に眠ってしまったことを謝られた。クライヴが窮屈だったのではと感じたらしい。そんなリリアーナをクライヴは複雑な面持ちで見ていた。一緒に寝たことを気にしているそぶりはなかったことに安堵した一方、多少は気にしてくれ、と思わなくもなかった。初めて一緒に寝たのがこんな、と少し残念に思っていた。
「いえ、お気になさらないでください。あれからご気分はいかがですか?」
「どうともない。むしろ前よりも楽になっている。改めて礼を言う。ありがとう」
「お礼を言われるほどではありませんわ」
「いや、そういうわけにはいかない」
クライヴは即答した。
「今までリリーにどれだけ救われたか分からない。必ずお礼をさせてくれ」
「充分、よくして頂いていますので」
そのとき、扉の外から声がし、扉が開くとイザックとマイラが立っていた。
「殿下、申し訳ありませんでしたっ」
マイラは部屋に入るな否や深々と謝罪した。
「殿下のご事情も知らず私……」
「別に気にしなくていい。説明していなかったしな。まあでも、本気でリリーのことを想ってくれていることは伝わったし、そういう人物の方が信頼できる。これからも侍女として頼んだぞ」
「っ殿下……。はい、しっかりと務めさせていただきますっ!!」
マイラの気合いが伝わってくる。
「さてと、問題はどこから侵入されたか、だが」
「そのことですが、警備には特に異常はありませんでした。そもそも、この屋敷内に入れる人物なんて限られていますし、私なら屋敷へ手引きしてすぐに疑われるようなことはしないですね」
イザックの言う通りだ。屋敷の周りには結界魔法が張ってあり、屋敷内に自由に入れるのは、俺を含めここにいる四人とセドリックだけなのだ。このメンバーは皆、俺が信頼している人物だし、やっていないとして、他に入る方法は……。
「結界を破らずにすり抜けるようにして侵入したか、それとも自身の魔力を完全にゼロにしたか、だな。結界は魔力のある者を通さない仕組みだからな」
「そのようなこと可能なのですか?」
「普通の魔法ではまず無理だな。魔導具の力を借りることで出来るのかもしれないが、聞いたことがない。もしくはそもそも存在していなかったか、だな」
「えっ、ですが昨日確かに」
「ああ、だからそれ自体が幻影魔法を用いたものだったという可能性だな」
「幻影魔法?」
「ああ、ようは幻だな。そこに存在しないものを見せることができるんだ」
「そんな魔法が……」
リリアーナは目を見開いた。
「とにかくリリー、暫くはどこに行くにもマイラと一緒に行動してくれ。そして、また現れたら俺にすぐに報告してほしい」
「分かりました」
「すまないな」
「え?」
「自由が制限されることになってしまった」
リリーは自由なときが一番輝いて見える。そんなリリーが好きだから、本来縛るべきではない。それに、今まで自由に生きてきた彼女にとって、それこそ窮屈な生活だろう。
「イヴのせいではありません。次会ったら私がびしっと文句を言いますから安心してください。イヴの元には通しませんから!!」
「いや、会ったら逃げてくれっ!! 危ないから。マイラからも言ってくれ」
気合い充分なリリアーナに心配になる。
「そうですね。不法侵入者ですし、私がぶん殴ってもいいですよね」
「え? ん? ……なぜそうなる!?」
自分のためを思ってくれているのは嬉しいが、うちの屋敷の女性は逞しいやら何やらだな、とクライヴは苦笑した。




