遭遇
その日、一人の女が屋敷に現れた。
「ここね。待っていてね、クライヴ殿下」
その女はいとも容易く、屋敷内に入り込んだ。
* * * * * * * * * *
その頃、リリアーナは図書室で見つけた面白そうな本を部屋で読もうと上機嫌で運んでいるところだった。
「あら?」
そのとき、一人の黒髪の女性がこちらに向かって歩いて来る様子が見えた。
「貴方がクライヴ殿下の奥様ね」
「はい。そうですけど、イヴのお知り合いの方ですか?」
「何も聞いてないようね。私はクライヴ殿下の妻よ」
「えっ……」
本がばさばさっと音を立て、地面に落ちた。
あっ!! 傷がついてないかしら!?
リリアーナは慌てて拾い上げた。
傷がないのを確認し、ほっと安堵の息を漏らす。
しかし、混乱は収まらない。
つ、妻!? どういうことなの!? 奥様がいらっしゃったの!?
「良いこと教えてあげるわ。彼が愛しているのは私よ」
「っ……」
困惑して頭が上手く回らなくなっているのを感じた。
「ふふふっ。やっぱり何も聞いていらっしゃらないみたいねぇ。私たちは両想いなのよ。あのお方ったら気を引こうとなんて本当可愛い方」
彼女がクライヴを心から愛しているのだと、瞳を見てすぐに分かった。
……もうこれ以上聞きたくないっ。
なぜだか強くそう思ってしまった。
私たちはただの王命での婚姻関係じゃない。なのに……なのにどうしてこんなっ。
「今日のところはこれで失礼するわね。またお会いしましょう」
そう言うと彼女は、こちらを振り返ることなく去っていった。
部屋に戻ったリリアーナは、一人悶々とした時間を過ごしていた。
こんな気分、初めて……。
折角少しは仲良くなれたと思っていたのに。奥様がいらっしゃるなら教えてほしかったわ。もしかして、この国の王族って物語みたいに一夫多妻制なのかしら。でも、一夫多妻制なら事前に説明があるわよね? 本当はあの女性と婚約したかったけど断られたから、力のない私と婚約して、口出し出来ないようにしたかったとか? ううっ、あり得そう……。それに、過去のことを尋ねても知らないふりをされてしまった。私、過去に何かしちゃったの? 本当は結婚なんてお嫌だったんじゃ……。
どんどん悪い方向へと考えてしまう。
以前、この屋敷には特殊な魔法が掛けられており、クライヴが許可した人物しか入れないのだと聞いたことがあった。
屋敷内でお会いしたなら、イヴが許可したってことよね……。
だけど、今までイヴは私を妻として扱ってくださった。それは紛れもない事実。だからただの願望かもしれないけれど、信じたい気持ちがあった。
でも、どんな顔をしてお会いすればいいの? お聞きしなきゃいけないのは分かっているけど、直接尋ねる勇気なんてないわ……。
結局、今日はどうしてもクライブに会う気にはなれず、夕食は部屋で摂ることにした。それを伝えたところ、マイラにはかなり心配をかけてしまったし、クライヴも訪ねて来たが、聞こえないふりをしてしまった。




