とある男の子との記憶
私、やっぱりイヴにお会いしたことがあるのかしら?
クライヴと過ごしていると、いつかの男の子をよく思い出しそうになるのだ。といっても思い出しそうになるだけで、それ以上は何も分からない。しかし、大切な友達だった。その気持ちだけが確かに心の中に残っていた。
確かめたいという気持ちが強くなったリリアーナはクライヴの元へと向かった。
クライヴは図書室で調べ物をしている最中だった。話しかけては悪いかと思い、じっと様子を見ながら待つことにした。
しばらくして、調べ物が終わったのか、本を閉じると、リリアーナの方に身体を向けた。
「リ、リリー!? いつからそこに!!」
クライヴはリリアーナの存在に気がつくと、ビクッと一瞬肩を震わせ、目を見開いた。
「声を掛けてくれて良かったんだが」
「お忙しそうでしたので」
「そんなこと気にしなくていい。これは、その……後でも大丈夫だから」
クライヴは言葉を迷うように視線を彷徨わせた。
「そうなのですか? あまりにも集中していらっしゃるご様子でしたので」
「そ、そうだ」
それは、いつになく強気な言葉だった。
「ふふっ、そうですか」
その態度が、嘘を隠そうとしているように思えて、思わず笑みが零れた。
「ああ。リリーは何か話しでもあったんじゃないのか?」
「あっ、はい。少しお聞きしたいことがありまして」
「なんだ?」
「私とイヴは以前お会いしたことがあるのでしょうか?」
「な、なぜ、そう思うんだ?」
クライヴの表情が強張ったように感じた。
「少し、昔のことを思い出したんです。イヴに似た方と子供の頃、お会いしたことがあるって」
その言葉に彼の瞳が揺れるのが分かった。
「イヴ?」
「あっ……い、いや、俺は会っていない」
クライヴは言葉を詰まらせ、ぎこちなく答えた。
「……そう、でしたか」
目を彷徨わせるクライヴを見て、リリアーナは内心嘘だと確信していた。
“会っていない”などと言われてはこれ以上確かめようもなかった。なぜ嘘をつかれたのか、その理由が分からず、彼女の中に疑問が残った。
「……変なことをお聞きしてしまって申し訳ありません」
「いや、気にしなくていい。俺は部屋に戻る」
「はい」
リリアーナは去って行くクライヴの背中をじっと見つめていた。
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『私と殿下は以前お会いしたことがあるのでしょうか?』
あの質問……まさか記憶が戻りかけているのか?
部屋に戻ったクライヴは先程の出来事を思い返していた。
つい会っていないと答えてしまった……。リリーには嘘だとバレていないよな? もしバレていたら、まるでリリーとの思い出を俺が忘れたいみたいじゃないかっ!! そう誤解されるのは絶対に嫌だ……がバレているのか、なんてとてもじゃないが聞けない。
考えても分からないことをひたすら考え続け、数時間が経過した。
だがなぜ今になって。俺と再会してしまったからか? だとしたらこれ以上会ったら確実に……。はぁ、何を考えているんだか。俺はリリーに忘れてほしいのか? そんなわけがない。あのとき、リリーと過ごした思い出はかけがえのないものなのに。リリーにも覚えていてほしい。思い出してほしい。
……俺が記憶を封じたのに。
「ははっ……最低だな、本当に」
クライヴは渇いた笑いを漏らした。




