第56話
「納得いかん・・・」俺は呟いた。
マギーの街で指折りの成功者だ。
ネットでカネをバラ撒いてるヤツを時々見る。
孤児院に寄付している俺は似たようなものなのかも知れない。
だが、それは異世界での話だ。
日本で、川崎で、高津で俺より貧乏なヤツは本当に珍しい。
せめて東京都内、世田谷区、三軒茶屋に住みたい。
三軒茶屋なんて贅沢は言わない、せめて池尻大橋に住みたい。
池尻大橋なら渋谷も歩いていける。
貧乏人の悲壮感もあまり感じない。
異世界の財をあまり日本でひけらかしたくはない。
異世界で日本の事、日本で異世界の事は内緒にすべきだろう。
だが、あまりにも差がありすぎる。
わかっている。
「なぜ医者が姿を消したのか?」
日本人があまり目立つ訳にはいかないのだ。
日本に繋がる姿見を探していた盗賊団のボスのようなヤツもいる。
だから作った会社の代表者はアイアちゃんにして、その部下は盗賊達にしたのだ。
俺は出来るだけ表には出ない。
しかし・・・あまりにも日本の金にならなさすぎじゃねーか!?。
俺が週に二回は日本のコンビニで夜勤をしようか考えていた時の話だ。
異世界での生活はまあまあ順調だった。
強いて言えば、トイレがあっても汲み取りなのと、下水道がないのがイヤなくらいで。
朝は盗賊達をしごく。
そして、アイアちゃんにしごかれる。
日本に戻り、シャワーを浴びて大学へ行く。
バイトをしていないから以前より金回りが悪い。
異世界でほとんどの食事をする事で、なんとか食い繋いでいる。
最初の内は何を食べれば良いかわからなかった異世界料理も『パスタ』みたいな『ポロリ』という麺料理はハズレが少ないと知った。
しかし『ポロリ』ってヒデー名前だな。
何にしても、日本に帰ったらロクなモン食えないんだ。
今日もダンジョンでレベル上げして、ついでに美味いもん食ってやる!・・・と意気込んでダンジョンに潜ろうとした時の事だった。
ダンジョンの入り口に貼り紙
『ダンジョンは三人以上のパーティでないと入れなくなりました。』
へー、まあ関係ないわな。
何て言ったって、俺はギルド長に許可もらってるし。
俺が一人でダンジョンの入り口に入ろうとしたとき俺は衛兵に呼び止められた。
「もう三人以上のパーティじゃないとダンジョンに入れないよ!。」と衛兵。
「いや、俺は特例なの」と俺。
「今回から特例は認められなくなりました」と衛兵。
どういう事だ?。
俺は街の冒険者ギルドのギルド長の部屋に怒鳴り込んだ。
ドアを荒々しく開ける。
「おい、どういうこった?。」と俺。
「来ると思って待ってたんだよ」ギルド長に悪びれた様子はない。
「最近、大した準備もしてない冒険者が一人か二人でダンジョンに潜って行く様子がダンジョン入り口で頻繁に目撃されててね。
真似して、心の準備が出来てない冒険者がダンジョン内で怪我をする、といった事件が頻発していてね。
もう、これ以上事故が起こらないように、如何なる例外も認めない事にしたんだ。
あ、『大した準備もしないでダンジョンに潜って行く冒険者』って誰の事かわかる?。」
「・・・・・・・」俺は何も言いかえせないでギルド長の部屋を後にした。
アイアちゃんは代表者に任命したばかりだ。
しばらくは抜けられない用事がある時も多いだろう。
盗賊達も必死で仕事を覚えている最中だ。
冒険者として無理矢理ダンジョンに連れて行く訳にはいかない。
つまり、俺がダンジョンに潜りたかったら、パーティメンバーをあと二人揃えなくちゃいけない、という事だ。




