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流浪の魔導師   作者: 麺見
3章 裏切りのジョーカー編 第1部 西の兄弟

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63. ほぼ拉致

 朝、エリノスを出発して……いや、連れ去られて、そろそろ日が暮れる時間。

 百人からなるならず(・・・)者達は、馬や馬車に乗り列をなして街道を進む。時折すれ違う商人や旅行者はこの物騒な集団を見や否や、皆一様に下を向きすぅ~っと道を開ける。そりゃそうだ、こんな(やから)と揉めたくはないだろう。

 出発前に皆から一人ずつ自己紹介を受けたが、当然憶えられる訳がない。そもそも今日出発するなんて聞いていないし、もっと言えば俺はゼルと一緒に行くつもりなんてなかったのだ。と言うのは、次の目的地が決まっていたからだ。


 ドワーフの国、イオンザ王国。イゼロンから遥か北方に位置する、ドワーフが建てた国だそうだ。


 ドワーフ、いるんだ……さすが異世界、もう驚かない。


 ハイガルド軍を退けたご褒美として、イオンザに行って武器でも作ってもらえ、と老師からとある紹介状をもらったのだ。何でも、イオンザ随一の鍛治職人がいる工房だとか。


 ドワーフ会いたい、武器欲しい。


 イオンザに行こうと準備していたところを、ジョーカー達に拉致された。ワッショイ、ワッショイ(かつ)がれながら、馬にくくり付けられてイゼロンの参道を駆け降りる恐怖たるや……そしてゼルの乗る馬車に押し込められて、今に至る訳だ。


 同じ馬車には他に数人の男と女。目を閉じていたり、武器の手入れをしていたり、思い思いに時間を潰している。俺は途中何度か脱出を試みたが、ことごとく失敗し諦めた。


「なぁ、上手いこと拉致(らち)られたんだけど、どこ連れてかれるの?」


 俺が尋ねると外を眺めていたゼルはこちらを向きニィィと笑う。


「拉致るなんて聞こえが(わり)ぃじゃねぇか。ただちょっと身柄を拘束して、(てい)よく働かそうとしてるだけだぜぇ」


「よりたちが悪いわ。それと……」


 向かいに座る男はさっきからずっと俺にメンチを切っている。


「この人ずっと(にら)んでるんだけど。何なの? こういう病気?」


「あぁん? んだ、このクソ魔ぁ!」


「……クソ魔って何?」


「クソ魔導師だろがよぅ!」


 男はこれでもか、ってくらいの悪態をつく。カチンときた。


「なぁ、これケンカ売られてるよね? ()っちゃっていい案件だよね?」


「はっはっは、ムカつくだろ? でも気持ちは分かるが()っちゃダメだぜぇ。ブロスもその辺にしとけよ?」


「冗談じゃねぇぞ、マスター! こっちは黒焦げにされたんだぞ!」


「黒焦げ?」


「てめぇ忘れてんじゃねぇよ! ロイ商会でやっただろうが!」


 イゼロンに行く前、王都ミラネリッテのロイ商会で初めてゼルに会った。あの時は敵同士。ガツンと雷かましてやったのだ。どうやらこの男、その時いたゼルの取り巻きの一人のようだ。憶えてないけど。


「……あぁ、ユージスさんの所ね。あの時いたんだ?」


「いたんだ? じゃねぇよ! てめぇ、クソ魔がぁ!」


 今にも殴りかかって来そうな勢いのブロス。すると横の男が割って入る。


「いつまでも昔のことごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ、みっともねぇ。だからお前は小せぇって言うんだよ、器とか、アレとか……」


「アレって何だぁ、リガロ! おい!」


「え? 背だよ、背ぇ」


「リガロ、お前……含みのある言い方すんじゃねぇよ……」


 どこか冷静で落ち着きのあるリガロ。ガーガー(わめ)くブロスを上手くなだめる。きっといつもこんなやり取りをしているのだろう、と想像できる。すると俺の横に座っている女も参戦する。


「ブロスが色々小さいのはどうでもいいよ、知ってるし。器とか、アレとか……」


「アレじゃなくて背って言えよ」


「え? 背じゃなくて、アレはアレだよ?」


「何でお前……それ知っ……ライエ、お前……」


「とにかくギャーギャー言うの、その辺にしときなよ。弱い何とかほど何とかって言うでしょ?」


「何とかばっかでわかんねぇよ!」


「それより~……」


 ライエはぐいっ、と俺に近付く。


「コウってあのドクトルに魔法教えてもらったんでしょ~? スゴいよね~、あの人弟子取らないって有名だったでしょ~? いいなぁ~、ねぇ~、あたしに魔法教えてよ~」


 ライエと呼ばれるこの女。この中では一番まともそうな感じがする。そして美人だ。何て言うか、傭兵っぽくない? 感じがする。何より美人だ。


 にしても、おおぅ……顔近いぞ……いい匂いするぞ……


「はっ、急にキャピキャピしてんじゃねぇよ、気色(わり)い」


 ブロスの悪態が止まらない。


「うっさい、黙れ。ミルクでも飲んでろ。小さいんだよ!」


 ライエは一刀両断する。うん、やっぱり傭兵だ。


「おいおい、ライエ。ミルク飲んでもアレはでかくならねぇんだぞ?」


 リガロは悪のりする。


「だから何でアレの話なんだよ! ミルクで伸びるのは背だろがよ! てか飲まねぇし! 小さくねぇし!」


「いや、小さいぞ?」

「いや、小さいよ?」


「…………」


 ブロス黙る。なんかかわいそうになってきた……


「ライエはそんな感じがタイプなんかぁ?」


 ライエの向かいに座る男が話し出す。


「え~? だって、なんか~、可愛くない? と言うか、正直あんたらみたいな山賊(しゅう)プンプンの男以外なら誰でもいいのかも……あれ? あたしこんな理想低かったっけ?」


 向かいの男は反論する。


「ライエ、勘違いしてんぞ? 俺らは傭兵であって山賊じゃない。傭兵と山賊じゃ似て非なるもんだろ?」


「ねぇ分かんない? あんたが一番山賊(しゅう)撒き散らしてんだけど? もうちょっと身なりどうにかならないの?」


 男は顔くらいありそうな干し肉を噛み千切る。上半身は所々へこんだり割れたりしている革鎧、腰からは汚れに汚れた皮袋をいくつも下げ、伸びっぱなしの髪は適当に後ろで縛られ、いつから剃ってないんだ? って思うような髭面(ひげづら)、ブーツは穴が開き……うん、確かにこの男、山賊だ。


「山賊なんだからその辺で村娘でも(さら)ってきて酒でも飲んでな」


「ブハハハハ、上手いこと言うな。でもなライエ、勘違いしてんぞ? いくら俺が山賊っぽいからって、さすがに誘拐なんてしねぇぞ? 任務でもない限りはな」


 するとゼルが口を挟む。


「おいおいホルツ、任務でも誘拐なんてアウトだぜぇ? そういうブラックな依頼はもう受けねぇ。ジョーカーは変わるんだ、そうだろ?」


 ……ん?


「ちょっと待て、俺は? 誘拐されてるよね、これ? 拉致だよね? やってんじゃん、任務でもないのに、拉致ってんじゃんよ!」


「お、あの辺いい具合に開けてんな。おおい、そこで止めろ! 今日はそこで野営だ!」


 詰め寄る俺をさらりとかわすゼル。


 で、結局どこ連れてかれんだ?

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