63. ほぼ拉致
朝、エリノスを出発して……いや、連れ去られて、そろそろ日が暮れる時間。
百人からなるならず者達は、馬や馬車に乗り列をなして街道を進む。時折すれ違う商人や旅行者はこの物騒な集団を見や否や、皆一様に下を向きすぅ~っと道を開ける。そりゃそうだ、こんな輩と揉めたくはないだろう。
出発前に皆から一人ずつ自己紹介を受けたが、当然憶えられる訳がない。そもそも今日出発するなんて聞いていないし、もっと言えば俺はゼルと一緒に行くつもりなんてなかったのだ。と言うのは、次の目的地が決まっていたからだ。
ドワーフの国、イオンザ王国。イゼロンから遥か北方に位置する、ドワーフが建てた国だそうだ。
ドワーフ、いるんだ……さすが異世界、もう驚かない。
ハイガルド軍を退けたご褒美として、イオンザに行って武器でも作ってもらえ、と老師からとある紹介状をもらったのだ。何でも、イオンザ随一の鍛治職人がいる工房だとか。
ドワーフ会いたい、武器欲しい。
イオンザに行こうと準備していたところを、ジョーカー達に拉致された。ワッショイ、ワッショイ担がれながら、馬にくくり付けられてイゼロンの参道を駆け降りる恐怖たるや……そしてゼルの乗る馬車に押し込められて、今に至る訳だ。
同じ馬車には他に数人の男と女。目を閉じていたり、武器の手入れをしていたり、思い思いに時間を潰している。俺は途中何度か脱出を試みたが、ことごとく失敗し諦めた。
「なぁ、上手いこと拉致られたんだけど、どこ連れてかれるの?」
俺が尋ねると外を眺めていたゼルはこちらを向きニィィと笑う。
「拉致るなんて聞こえが悪ぃじゃねぇか。ただちょっと身柄を拘束して、体よく働かそうとしてるだけだぜぇ」
「よりたちが悪いわ。それと……」
向かいに座る男はさっきからずっと俺にメンチを切っている。
「この人ずっと睨んでるんだけど。何なの? こういう病気?」
「あぁん? んだ、このクソ魔ぁ!」
「……クソ魔って何?」
「クソ魔導師だろがよぅ!」
男はこれでもか、ってくらいの悪態をつく。カチンときた。
「なぁ、これケンカ売られてるよね? 殺っちゃっていい案件だよね?」
「はっはっは、ムカつくだろ? でも気持ちは分かるが殺っちゃダメだぜぇ。ブロスもその辺にしとけよ?」
「冗談じゃねぇぞ、マスター! こっちは黒焦げにされたんだぞ!」
「黒焦げ?」
「てめぇ忘れてんじゃねぇよ! ロイ商会でやっただろうが!」
イゼロンに行く前、王都ミラネリッテのロイ商会で初めてゼルに会った。あの時は敵同士。ガツンと雷かましてやったのだ。どうやらこの男、その時いたゼルの取り巻きの一人のようだ。憶えてないけど。
「……あぁ、ユージスさんの所ね。あの時いたんだ?」
「いたんだ? じゃねぇよ! てめぇ、クソ魔がぁ!」
今にも殴りかかって来そうな勢いのブロス。すると横の男が割って入る。
「いつまでも昔のことごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ、みっともねぇ。だからお前は小せぇって言うんだよ、器とか、アレとか……」
「アレって何だぁ、リガロ! おい!」
「え? 背だよ、背ぇ」
「リガロ、お前……含みのある言い方すんじゃねぇよ……」
どこか冷静で落ち着きのあるリガロ。ガーガー喚くブロスを上手くなだめる。きっといつもこんなやり取りをしているのだろう、と想像できる。すると俺の横に座っている女も参戦する。
「ブロスが色々小さいのはどうでもいいよ、知ってるし。器とか、アレとか……」
「アレじゃなくて背って言えよ」
「え? 背じゃなくて、アレはアレだよ?」
「何でお前……それ知っ……ライエ、お前……」
「とにかくギャーギャー言うの、その辺にしときなよ。弱い何とかほど何とかって言うでしょ?」
「何とかばっかでわかんねぇよ!」
「それより~……」
ライエはぐいっ、と俺に近付く。
「コウってあのドクトルに魔法教えてもらったんでしょ~? スゴいよね~、あの人弟子取らないって有名だったでしょ~? いいなぁ~、ねぇ~、あたしに魔法教えてよ~」
ライエと呼ばれるこの女。この中では一番まともそうな感じがする。そして美人だ。何て言うか、傭兵っぽくない? 感じがする。何より美人だ。
にしても、おおぅ……顔近いぞ……いい匂いするぞ……
「はっ、急にキャピキャピしてんじゃねぇよ、気色悪い」
ブロスの悪態が止まらない。
「うっさい、黙れ。ミルクでも飲んでろ。小さいんだよ!」
ライエは一刀両断する。うん、やっぱり傭兵だ。
「おいおい、ライエ。ミルク飲んでもアレはでかくならねぇんだぞ?」
リガロは悪のりする。
「だから何でアレの話なんだよ! ミルクで伸びるのは背だろがよ! てか飲まねぇし! 小さくねぇし!」
「いや、小さいぞ?」
「いや、小さいよ?」
「…………」
ブロス黙る。なんかかわいそうになってきた……
「ライエはそんな感じがタイプなんかぁ?」
ライエの向かいに座る男が話し出す。
「え~? だって、なんか~、可愛くない? と言うか、正直あんたらみたいな山賊臭プンプンの男以外なら誰でもいいのかも……あれ? あたしこんな理想低かったっけ?」
向かいの男は反論する。
「ライエ、勘違いしてんぞ? 俺らは傭兵であって山賊じゃない。傭兵と山賊じゃ似て非なるもんだろ?」
「ねぇ分かんない? あんたが一番山賊臭撒き散らしてんだけど? もうちょっと身なりどうにかならないの?」
男は顔くらいありそうな干し肉を噛み千切る。上半身は所々へこんだり割れたりしている革鎧、腰からは汚れに汚れた皮袋をいくつも下げ、伸びっぱなしの髪は適当に後ろで縛られ、いつから剃ってないんだ? って思うような髭面、ブーツは穴が開き……うん、確かにこの男、山賊だ。
「山賊なんだからその辺で村娘でも拐ってきて酒でも飲んでな」
「ブハハハハ、上手いこと言うな。でもなライエ、勘違いしてんぞ? いくら俺が山賊っぽいからって、さすがに誘拐なんてしねぇぞ? 任務でもない限りはな」
するとゼルが口を挟む。
「おいおいホルツ、任務でも誘拐なんてアウトだぜぇ? そういうブラックな依頼はもう受けねぇ。ジョーカーは変わるんだ、そうだろ?」
……ん?
「ちょっと待て、俺は? 誘拐されてるよね、これ? 拉致だよね? やってんじゃん、任務でもないのに、拉致ってんじゃんよ!」
「お、あの辺いい具合に開けてんな。おおい、そこで止めろ! 今日はそこで野営だ!」
詰め寄る俺をさらりとかわすゼル。
で、結局どこ連れてかれんだ?




