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流浪の魔導師   作者: 麺見
2章 イゼロン騒乱編

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62/322

62. 幕間 港街にて

 大陸中央部よりずっと南、内海(ないかい)に面した小国の港街。豊富な海産物に恵まれ、古くから漁業の街として栄えてきたが、一年を通して穏やかな気候のため最近ではリゾート地として注目を集め始めている。


「おーい! ワインおかわり!」


「はい、魚介のスープお待ちどう!」


「カウンターですけどいいですか?」


 ガヤガヤと賑やかで活気のある店内。日が落ちてからが特に忙しく、テーブルは常に満席状態だ。大通り沿いの繁華街から外れた場所にあるため、観光客はほとんど来ない。上がったばかりの新鮮な魚介類を、港街ならではの素朴かつ豪快な料理で提供するこの店は、地元の住民から支持されている隠れた名店だ。


「聞いたか、先週また一人()られたらしいぞ」


「またかよ……」


「ん? 何、何の話?」


 中央付近のテーブルに着いている三人の漁師の男。漁を終えるとほぼ毎日、この店に入り浸っている。


「西地区にあるザインって商会の会頭だとよ」


「あぁ、知ってるわ。敵多そうだったもんな、あそこ」


「だから何の話って!」


「殺人だよ! 連続殺人! 最近ちょこちょこあるだろ?」


「ああ、半年くらい前から続いてるやつ? まだ犯人捕まってないの?」


「捕まってないどころか、被害者がどんどん増えてんだよ。この国だけじゃねぇしな」


「やっぱアレだ、あいつらが復活したんだよ」


「何お前、そんな噂信じてんの?」


「何? 噂って?」


「ばっかお前、隣の街じゃこの噂で持ちきりだぞ?」


「だからってよぅ、さすがにムリ筋だろうが」


「だから噂って何!」


「っだ~、うるせぇな、アルアゴスだよ、アルアゴスの目ぇ!」


「アルアゴスの目って……だいぶ前に壊滅したでしょ。ハンディル協会が旗振ってさ、頭目から幹部まで捕らえられて処刑されたんでしょ?」


「表向きはな。ところがだ。協会の連中、頭目を逃しちまったって話があんだよ。この辺の国も巻き込んだ大きな作戦だったからよ、逃しちまったって言えなくて、世間には処刑したって発表してな、裏ではずっと頭目を探してた、って話よ」


「そうだったの!? 知らなかった……」


()に受けるなよ、噂だ、噂」


「いや、噂、噂って言うけどよ、手口がまんまアルアゴスのもんだって話だぜ? 先月()られた隣の国のなんだかって大臣なんかよ、真っ昼間に城の中でられたそうじゃねぇか。白昼堂々城に忍び込んで人の目に触れずに殺すなんてよ、アルアゴスにしかできねぇだろ。そもそもなぁ――」


 賑やかな店内、一人カウンターに座っている男はぐいっとワインを飲み干す。五十代前半くらいで白髪混じり、一見するとくたびれた様子のその男は、静かに席を立ち店を出る。それを見ていた斜め後ろのテーブルの男は、カウンターの男を追うように店を出る。


 店を出たカウンターの男は海沿いの通りを歩く。そして程なくして倉庫街へ。角を曲がり狭く暗い通りを歩く男は、ふと立ち止まる。


「何か、用か……」


 ゆっくりと振り返ると、そこにはその男を追って店を出たテーブルにいた男の姿があった。


「さっすが、やっぱり気付いてたんだね~」


「お前、ハンディルか……」


正解(せいか~い)! 何で分かったの? やっぱりあれかな、ハンディルには敏感なのかな?」


「お前、()かれてる……いや、()かせてるのか……」


「またまた正解(せいか~い)! スゴいね、こんなすぐ分かっちゃう人に初めて会ったよ」


 カウンターの男は着ているローブの前を開き、両腰から二本のナイフを抜き軽く構える。


「どうした、やらないのか……」


「う~ん……止めとく」


 意外な返答だった。


「妙な奴だ……何がしたいんだ……」


「ここでやり合ってもいいんだけどさ……見逃しといた方が面白くなりそうだな~、って」


「面白く……?」


「あ、それはこっちの話。でも取り敢えず、この街は出た方がいいかな? 思い切って海渡ってもいいかもね」


「どういうことだ……?」


「この街、すぐにハンディルでいっぱいになるよ。ちょっと派手にやり過ぎたね~。ほとぼりが冷めるまでどっかに隠れてた方がいいかな?」


「本当に妙な奴だ……」


 カウンターの男はナイフをしまう。


「見逃すと言うなら甘えさせてもらうが……?」


「どうぞ、どうぞ」


 カウンターの男は背を向けて歩き出す。歩きながらも背後を警戒しているのは後ろ姿で分かる。やがて男は倉庫街に消える。


「………………」


「え? 大丈夫だよ。この方が絶対面白くなるからさ」


「………………」


「大丈夫だって。ボクがキミに嘘ついたことあるかい?」


「………………」


「でしょ? だから今回は我慢してさ……」


「ヨーク!!」


 振り返るとディストンが立っていた。


「あ、ディストン! よくここが分かったね~」


「あ、ディストン、じゃない! 何で勝手に店を出る? ちょっと用を足している間にいなくなるとか、落ち着きのない子供か!」


「あ~、ごめんごめん。ちょっとそれっぽいおじさんが店にいてさ、後を追って確認してたんだよ」


「そうなのか、で、どうだった?」


「残念! 外れだったよ。漁師のおじさんだった」


「そうか……」


「ねぇ、ディストン、もうエルビに帰りたいよ。魚飽きた~」


 はぁ、とため息をつくディストン。


(本当に子供か、こいつは……)


「来週にはあちこちからハンディルが集まってくる。そうすりゃ俺達と交代だ。もう少し辛抱しろ。行くぞ」


「う~、分かったよ」


 ヨークは歩き出すディストンの後を追う。しかしすぐに立ち止まって振り返り、カウンターの男が消えた通りの先に目をやる。


(うまく逃げてよね、頭目さん……)


 ヨークはかすかに笑い、再び歩き出す。

二章、終幕です。次話より三章スタートします。

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