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平凡な私と可愛い彼、そして時々ファンタジー?  作者: 成露 草
第二章 日常と携帯、そして時々デート
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小等部の学園訪問

 小等部生は3年生から6年生まで1年に1回、高等部を訪れる。学部の選択が行われるのは中等部二年からだが、その頃には学部の中の何を専攻するかも決めなくてはならないので、小等部の内から其々の学部が何をしているかを知る必要があるのだ。

 この学部選択の為の学園訪問は6月の終わりから夏休みにかけて行われる。今年も去年と変わらず、この時期はやってきた。

 小等部生は中等部ではなく、高等部を主に見て回る。学部ごとの色が強く表れるのが高等部だからだろうと、自分が高等部生になって分かった。

 まず学園に訪れるのは3年生の集団だ。クラスごとにバスに乗ってくる彼らは1日に5クラスずつ来る。担任を先頭に廊下側の窓から授業風景を覗きまわる彼らに、普段なら授業中に平気で寝ているクラスメートも真面目な顔で授業を受けていた。

 由梨が「いつもからそうしてればいいのに」と言うのに苦笑を漏らす。時たまそのクラスメートの一員になっている私には少々耳に痛い一言だ。

 「小さくて可愛い!」などと言い小等部生を構ったり、懐かしい担任を見つけて声を掛たりして一部の生徒が学園訪問の妨害をしたが、概ね今年も3年生の訪問は2週間弱で無事に終了した。

 けれども学園訪問の本番がこれからだと分かっている私達は段々と緊張感を深めていく。1日で帰って行くのは3年生だけで、4、5、6年生は交代で1週間ずつ寮に泊まるのだ。これが中々に大変で高等部生は毎年苦労をしている。なぜなら、小等部生の滞在期間中は高等部生が基本一対一で面倒を見ることになるからだ。宿泊場所も同じ部屋になるので、1人部屋は兎も角、2人部屋は4人もの人数が入ることになりかなり苦しい。そして小等部生の面倒を見るのは高等部の2、3年生と決まっている。小等部の内から進路が決まっている一部の生徒――帝王学科や武芸科など――はその学科生の中から選ばれるが、他の生徒は学科関係なしの抽選になるのだ。一応学校側が生徒の成績から判断しているらしいが、それが当たっているかと聞かれれば微妙としか言えない。何しろ私の時は家裁科に回された。意味が解らない。

「毎年のことながら面倒よね。まぁ、私達は絶対に問題児を当てられることはないだろうから気楽だけど」

 中年の担任の話を聞きながら、由梨が言う。声を潜めるわけでもなく話しているが、担任が注意をする気配はない。教室中がこのちょっとしたイベントに沸き立ち、私語で溢れているのだから仕方がないだろう。

「そうだね。それに比べて武芸科とか体育科は大変だろうね」

 由梨の言葉に頷きながら叔母さんに同情する。武芸科や体育科は体力があり、腕っぷしも強い為に問題児を当てられるのだ。しかも武芸科は、問題児の他に進路が決定している生徒も請け負う。人数が少ないことも有り、一人で二人の面倒を見なくてはならない生徒が殆どなのである。

「明日、担当する下級生を発表する。プリントにも書かれているが、寮の部屋に下級生たちは直接来る。当日は出かけずに待っている様に」

 誰も話を聞いていないと分かっていながらも説明を終えた担任は、最後にそれだけ言って教室を出た。残りは自由時間という事なのだろう。

「どんな子の担当になるかな。男の子より女の子の方が楽でいいけど。出来れば大人しい子がいいな」

 カバンから雑誌を取り出しながら由梨が言う。その言葉に私は苦笑を浮かべた。そんな私を全く気にせず由梨は雑誌を捲り始める。

 会話が止まったのを見計らっていたかのように、ポケットに入っている携帯電話がブブブと振動した。短さからしてメールだろう。取り出して確認する。


[To:柳咲彼方 Sub:もうすぐですね

 一週間後に始まる学園訪問ですが、僕の学年は第一陣です。僕は帝王学科の先輩についてもらうのですが、紫信さんでは無くて残念です。]


 まぁ、これは仕方がないことだろう。柳咲弟は長男ではないが、柳咲財閥の子息に変わりはない。将来はおそらくだが、柳咲兄のサポート役として働くのだろう。ふと、柳咲兄の下で問題なく働けるのだろうかという不安な気持ちが浮かんだが、これからまだ時間はあるのだから気長に頑張ってもらうしかない。…柳咲弟の性格だと、問題解決に至らなくとも仕事は完璧に熟しそうな気もするが。

 由梨は雑誌に夢中になっているので今のうちに返信を書いてしまおうとボタンに手を伸ばすと、スクロールが出ていることに気が付いた。いつも見やすいメールを送ってくる柳咲弟に珍しい。

 何も書いていないかもしれないが、一応下ボタンを押した。


[学園訪問時、ほんの少しで構いませんので紫信さんの時間を僕に頂けませんか?]


 ホストか!!

 心の中で叫びながら、私は机に右拳を叩き付けた。右手に握った携帯電話の底が机に当たり、ガツンという音を立てる。

「…どうしたの」

 私の奇行に由梨が一瞬雑誌から視線を上げた。たまに思うが、由梨はかなりドライな性格だと思う。由梨の事をぶりっ子だと言っている他の女子に見せてやりたい。このドライな所が楽なので文句をつける気はないが、「名取さんって、よくあんなぶりっ子と付き合えるよねぇ~」と鼻で笑いながら言われるととてもムカつくのだから仕方が無い。

 どうでも良いことを考えたお蔭で冷静になれた。「大丈夫、ありがと」と由梨に返事をした後、了解の意思を示すメールを手早く作成した。

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