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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第四章 洋館の戦い
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第五十話 家畜小屋

 屋敷の中は停電の影響で真っ暗だった。

 すももは手探りで奥へと進む。

 その間も、ゆかりと唯川(ゆいかわ)の戦闘は続いているようだった。

 絶えず激しい物音が途絶えることはなかった。


 すると、どしどしと歩く男の集団に出くわし、すももは咄嗟(とっさ)に身を隠した。

 男達はどうやら唯川の部下らしい。

 見つかったら、まずい。


 すももは男達に見つからないように、地下へ続く階段を降りて行った。

 とりあえず、男達が去るまでここで待とうと思う。

 しばらくすると、物音や話し声が聞こえなくなり、すももは安堵のため息を吐く。

 だが、それも束の間、どこからか、うめき声のような音が聞こえてくる。


「何?」


 すももは思わず声が出てしまい、咄嗟に口元を押さえた。

 早く逃げた方がいいのは分かっていた。

 だが、助けを求められているような気がして、地下にある部屋の中に足を踏み入れる。

 非常用の電源が作動しているためか、室内から微かな明かりが漏れていた。

 その部屋で、すももは奇妙な光景を目の当たりにする。


「これは……」


 狭い室内には、手足を拘束された人間がベッドに寝かされていた。

 年齢もばらばらな九人の男女だったが、皆、一様に苦しそうな表情を浮かべている。

 彼らは何かの病気にかかっているのだろうか。

 その中の一人に、すももは目を留める。

 高校生くらいの男の子だったが、見覚えのある気がした。


 虚ろな表情で見つめ返してくる男の子に、すもも訊ねた。

「君は?ここは一体?」

 その男の子は、かすれた声で何かを言っていたが、聞き取ることはできなかった。

「名前は?」

 男の子の近くに耳を近付けて、もう一度、訊ねてみる。


「……の、望(のぞむ)……」

「のぞむ……?望君!」すももは思わず男の子の顔を覗き込んだ。「望君はお姉さんがいるでしょ?写真を見せてもらったことがあるの。安心して。あたしは佳叶(けいと)の友達だから。助けてほしいのね?大丈夫。望君達を置いて行ったりしない」


 すももの言葉に、望は驚いたように目を丸くした。

 まさかこんなところで、佳叶の弟と会うことになるなんて……。

 何とか彼らをここから助け出さないと……。

 そう思ったのも束の間、望の視線がすももではなく、自分の背後に向けられていることに気付いた。


「誰!?」

 咄嗟に振り返ると、すももは片手を掴まれてしまった。

 いくら力を込めても、びくともしない。

 背後に立っていたのはヴァンパイアの唯川だ。


「落ち着いてください。出発の準備ができました。さあ、ここから早く出ましょう」

 唯川のシャツは血で赤く染まっている。

 彼と戦っていたくノ一(くのいち)に付けられたものだろう。


「ゆかりさんは?」

「お友達の忍者のことを言っているなら、彼女は死にましたよ」

「そんな……」

 すももは後悔の念に駆られる。

 ゆかりが死んだのは、自分のせいだ。


「そう肩を落とさずに……。お友達なら、また作ればいいじゃないですか?今度はヴァンパイアの友人を作ればいい。ヴァンパイアなら簡単には死にはしませんからね」

 唯川が冗談を言ってるのか、本気で言っているのか、すももには判断できなかった。

「のぞ……ここにいる人達は?この部屋は一体何?」

「ここは我々が飲む血を確保するためのものです。毎日一定量、彼らから頂いています」


「ひどい……」

 すももは嫌悪感を隠さなかった。

「そう思いますか?人間だって、にわとりを狭い小屋に押し込めて、卵を頂いているじゃないですか?同じことですよ」

 ヴァンパイアにとって、人間は家畜と変わらないというのだろうか。


「さあ、すももさん……車の用意はできています。急がなければ……」

「この部屋の人達はどうするの?」

 すももは唯川の手を振りほどいた。

「彼らはもう用済みです。ここに置いて行きます」


 ということは、絆がこの部屋を見つければ、ここにいる人達は助かるということだ。

 だが唯川は、そんなすももの淡い期待を打ち砕くかのように、嫌な笑みを浮かべた。

「まあ、ここの連中を逃がしてやるつもりは、ありませんけどね。くくく……。私達が屋敷を後にする頃には、ここはがれきの山だ」


「どういうこと?」とすももは彼に喰らい付く。

「そのままの意味ですよ。証拠を隠蔽するために、爆弾を仕掛けてあります。起爆すれば、侵入者も巻き込まれて、ただでは済まない」

 唯川の表情からは、まるで罪悪感のようなものは感じられなかった。


「そんなことしたら、あなたの仲間も死んでしまうんじゃないの?」

「それが何か?」

「えっ?」

 予想外の反応に、すももは困惑する。

「私にとってはどうでもいいことです。彼らの代わりはいくらでもいる。私にとって大事なのは、あなたの方だ。もう二度と、私のそばを離れないように」


 唖然としていると、急に身体の自由が取れなくなった。

 何かがおかしい。

「動けないでしょう?」と唯川はじっとすももに視線を向ける。「催眠を掛けさせてもらいました。これ以上、出発が遅れる訳にはいきませんからね。それでは、失礼しますよ」


 そう言うと、唯川はすももに腕を伸ばして抱きかかえる。

 ちょうどお姫様抱っこの形になる。

 すももは声も出すこともできずに、ただされるがままになった。

 唯川に抱っこされた弾みで、鞄が落ちてしまったが、もちろん拾うことができなかった。


「出発しましょう。移転先はここよりも狭いですが、あなたもきっと気に入るはず」


 唯川は有無を言わさず、すももを抱えたまま部屋を後にした。

 この男は、すももを人形か何かだと思っているのだろうか。

 すももは悔しくして仕方がなかったが、何の抵抗もできないまま、唯川の腕の中で揺られるしかなかった。

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