↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第四章 洋館の戦い
PR
48/52

第四十七話 待ってられない

 夜の街を二つの大きな影が宙を舞う。

 一つは蓮井(はすい)ゆかりと、彼女の鞄にすっぽり入った点点(てんてん)。

 もう一つは石川佳叶(いしかわけいと)をおぶった絆(ばん)だった。


 石川は怖いのか、絆の胸に腕を回してしがみついてくる。

 とはいえ、速度を落としては遅れてしまうので、絆とゆかりはそのまま疾走を続けた。

 三十分近く走り続けたところで、ゆかりは一旦速度を緩める。


「この辺りで間違いないですね?」


 絆も彼女に合わせるように減速し、周囲に目を凝らした。

 一行が訪れたのは、国立(くにたち)市にある閑静な住宅街。

 石川佳叶の話が事実なら、ヴァンパイアのアジトがあるはずだが……。


「うん。間違いない」と石川は言った。「あそこ!あの建物だよ!」

 彼女は腕を伸ばして、とある建物を指差した。

 他の住宅から少し離れた場所に、その建物はあった。

 林に隣接した西洋風の大きな屋敷である。


「分かった。一旦、様子を見よう」

 絆は少し離れた林の中で石川を下ろした。

 その近くでゆかりも足を休める。


 二人ともさすがに息が上がっていた。

 外はひんやりとしていたものの、額には汗を浮かべている。

「ふう、やれやれ……」と点点もゆかりの鞄から外に出て来た。

 三人と一匹は木の茂みに隠れ、洋館の様子を窺った。

 絆達がいる場所は、斜面になっているので全体を見渡すことができる。


「おー何だか……物騒なのが、たくさんいるな」と絆はぼやいた。

 この距離だと人間かヴァンパイアか識別は難しいが、屋敷の周辺には警備員がうろうろしている。

 やはり他の住宅とは明らかに様子が異なっている。


「どうするの?」と石川佳叶は絆に視線を向ける。

「援軍が来ることになってる。だから、今はとりあえず待機。俺達は上司の指示に従う。何かあれば、電話をくれと言われてるけどな……」

「そう」と彼女は理解を示した。


「ごめんなさい石川さん」とゆかりは謝った。「すぐにでも助けに行きたいのですが……」

「別に……」と彼女は戸惑った表情を浮かべる。「蓮井さんが謝ることじゃ……。その……唯川(ゆいかわ)って奴には気を付けて。あの男は仲間のヴァンパイアからも怖がられていた……」


「唯川か……」と絆は考えるように言った。「山岡(やまおか)よりも厄介そうだ……。中隊長の話では、『梟(ふくろう)』とも繋がりがあるとか……」

「そのようですね」ゆかりは曖昧(あいまい)に頷く。「唯川は百年以上も生きるヴァンパイアで、過去に〈中忍〉を殺めたことがあるようです。私達では対処できないかも……」


「ああ、分かってるよ。だから、こうして応援を待って……ん?何だ?」絆は身を乗り出して、屋敷の様子を窺う。「何だか……急に騒がしくなってきたぞ。何かあったのか?」

 屋敷から黒服の男達が大勢、出て来ると、トラックの荷台に荷物を積み上げ始めた。

「引越し?」と石川佳叶が首を傾げる。「でも、こんな時間に?」

 わざわざ日が沈んでから準備を始めるのは、彼らがヴァンパイアだからだろうか。


「おそらく逃げるつもりなんだ」と絆は答える。「同じ場所に留まっていると、特定されてしまうからな。そろそろ潮時と見て、場所を移す気なんだろう」

「有島(ありしま)君」とゆかりは慌てた様子で言った。「このままでは応援が集まる前に、すももさんを連れ去られてしまいますよ」


「望(のぞむ)……」と佳叶も不安げに弟の名前を口にする。

 このまま悩んでいても、埒が明かない。悩んだ末に、絆は言った。

「……応援は待ってられない。俺はすももを助けに行く。もちろん、石川の弟も……」


「うむ。それなら儂も行く」

 点点はやる気満々だったが、その言葉にゆかりは噛みつく。

「ち、ちょっと点点さん……あなたまで?もう……まさか二人して正面から乗り込む気ではないでしょうね?」


 ゆかりの言い方には棘があったが、絆は気にしなかった。

「心配するな。すももと望君は必ず助けるが、深追いはしない。自分のできる範囲で、連中の出発を少しでも遅らせるつもりだ。不安なら、ゆかりは援軍の到着を待っていてくれ」

 絆はそれだけ言うと、手袋を付け直し、自身の装備を確認し始めた。

 手裏剣(しゅりけん)や苦無(くない)などの忍具のストックは充分にあるし、問題なさそうだった。


 ゆかりはそんな絆の様子を見て、大きなため息をついた。

「分かりました。それなら私も行きます。そもそも、すももさんを攫われたのは私のミスですから。それに、あなたに借りを作るのは何だか嫌ですし……」

 そこまで言って、ゆかりは地べたにどかっと座り、絆と同様に戦いの準備を始める。


 忍具をいじる二人を唖然として見つめながら、石川は困惑した表情を浮かべている。

「あ、あのさ……みんなそろって行っちゃうなら、私はどうしたら?」

「とりあえず、石川はここで待機」と絆は短く答える。「援軍が来たら、その人達に事情を説明してくれないか?」


「うむ。今はその方がよいじゃろう」と点点は言った。「一人になってしまうが、お主は大丈夫かの?」

「え、ええ」と石川は頷く。「ヴァンパイアは私を味方だと思ってるはずだから……。あ、あの……みんな死なないでね」

 心配そうな視線を向ける彼女に、絆とゆかりは顔を見合わせる。


 ゆかりはふっと笑みを浮かべて、石川佳叶に大丈夫ですよと声を掛けた。

「私達はまだまだ新人ですが、こう見えて大きな修羅場をくぐり抜けてきましたから」

「まあ」絆は肩をすくめる。「俺が殉職しても、仲間の忍者が来るだろうから心配は……」

「あなたはどうして、そんな縁起の悪いことを言うんですか!?もう、準備は済みましたね?そろそろ行きますよ」


 そう言って、ゆかりは腰を上げる。

 今日、出会った時のまま、彼女はスーツ姿だったが、いつでも戦える準備は整っていた。

 絆も装備の確認は終わった。すぐにでも出発できる。

「ああ、そうしよう」と短く答えた。


 石川佳叶を残して、絆とゆかり・点点は、木の茂みから飛び出した。

 暗闇に紛れて急襲を掛けるが、屋敷の住人達は夜の世界の住人である。

 さすがに夜目が利くらしい。

 絆達の姿はすぐに住人達に気付かれた。

 騒然とする敷地内で、戦いの火蓋が切って落とされる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。