第四十四話 裏切り
絆は秋場プロに戻ると、自分に化けていた式神の小助と交代した。
礼を言って、彼には里に戻ってもらい、残っていた仕事を大急ぎで終わらせた。
何とか勤務時間内にやるべきことを済ませ、事務所を後にする。
残業なしと喜んでいたところ、絆は急に不思議な浮遊感に全身が包まれた。
ちょうどエレベーターで一人だった時だ。
(……これは?)
すると、パッと視界が暗転して、その次の瞬間には、絆は見覚えのない狭い通りにいた。
式神としてどこかに召喚されたのだろう。
絆は四つん這いの状態のまま、目の前にいる狐のぬいぐるみを見つめる。
「よお点点。どうしたんだ急に?」
「うむ。大変なことになった」
その割に、全く動じた様子がない彼に視線を向けながら、絆は起き上がる。
「何があった?」
「すみません。今は説明している余裕がないかもしれません」
振り返ると、案の定、そこに同級生の姿があったのだが、予想外の光景に目を丸くする。
「ゆかり、これはどういうことだ?」
絆は慌ててすぐに臨戦態勢を取った。
「だから……」彼女は困ったような表情になる。「今はそれどころではないと……」
狭い通りには、ヘルシングのメンバー石川佳叶が突っ立っていた。
この場に彼女がいることにも驚きなのだが、彼女を守るようにガラの悪い男達が武器を構えている。
「有島さん!一体どうやって……?」石川は突然現れた絆に、目を丸くした。「まあ、いいわ。忍者は不思議な術を使うものだもんね。別に驚くことじゃない」
彼女はなぜか絆が忍者であることを知っている。
事情は分からないが、状況から察するに、彼女はヴァンパイア側の人間と見ていいだろう。
「悪く思わないでね。私にも事情があるの。後は任せたよ」
「おう!」と石川佳叶に応えたのは、五人の男達。
一目見てヴァンパイアだと分かる。
石川は絆達に背を向けると、一目散に走り出してしまった。
絆はその光景に驚きよりも失望が勝った。
つまり、彼女は同じグループのメンバーを裏切ったということだからだ。
すももの親友と思っていただけに、怒りを覚える。
事情はどうあれ、石川佳叶を許すわけにはいかない。
だが、彼女を追おうにも、目の前には、ヴァンパイアが立ち塞がっている。
「へっへっへ……逃げられると思うなよ」
ガラの悪い男達の手には武器が握られていた。
「ゆかり、石川を追うぞ」
絆は小声で同級生に呼び掛けながら、革製の手袋をはめた。
その間にも石川の姿は、どんどん見えなくなってしまっている。
「ええ」
ゆかりは静かに頷いた。
「儂も手伝うか?」
と点点が前に出るが、絆は待ってくれと、彼を止めた。
「俺達だけで充分だ。五分で片付ける」
「一分で充分でしょう」
いつになく、ゆかりは強気だった。
そんなやり取りを、ヴァンパイア達は、苛立たしげに見つめていた。
「おい、何を話している?そっちが来ないのなら、こっちから行くぜ」
「どうぞ、ご勝手に!」
その瞬間、ゆかりの姿が視界から消えた。
気付いた時には、すでに彼女はヴァンパイアに膝蹴りを食らわせていた。
どうやら、自分以上に彼女は怒っているらしかった。
「やりやがったな!」と周囲のヴァンパイア達がいきり立つ。
ゆかりに後れを取るわけにはいかない。
とにかく、この連中を片付けないと……。
少し遅れて、絆も彼女に加勢した。




