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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第三章 悪夢
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第四十四話 裏切り

 絆(ばん)は秋場(あきば)プロに戻ると、自分に化けていた式神(しきがみ)の小助(こすけ)と交代した。

 礼を言って、彼には里に戻ってもらい、残っていた仕事を大急ぎで終わらせた。

 何とか勤務時間内にやるべきことを済ませ、事務所を後にする。

 残業なしと喜んでいたところ、絆は急に不思議な浮遊感に全身が包まれた。

 ちょうどエレベーターで一人だった時だ。


(……これは?)


 すると、パッと視界が暗転して、その次の瞬間には、絆は見覚えのない狭い通りにいた。

 式神としてどこかに召喚されたのだろう。

 絆は四つん這いの状態のまま、目の前にいる狐のぬいぐるみを見つめる。


「よお点点。どうしたんだ急に?」

「うむ。大変なことになった」

 その割に、全く動じた様子がない彼に視線を向けながら、絆は起き上がる。

「何があった?」


「すみません。今は説明している余裕がないかもしれません」

 振り返ると、案の定、そこに同級生の姿があったのだが、予想外の光景に目を丸くする。

「ゆかり、これはどういうことだ?」

 絆は慌ててすぐに臨戦態勢を取った。

「だから……」彼女は困ったような表情になる。「今はそれどころではないと……」


 狭い通りには、ヘルシングのメンバー石川佳叶(いしかわけいと)が突っ立っていた。

 この場に彼女がいることにも驚きなのだが、彼女を守るようにガラの悪い男達が武器を構えている。

「有島(ありしま)さん!一体どうやって……?」石川は突然現れた絆に、目を丸くした。「まあ、いいわ。忍者は不思議な術を使うものだもんね。別に驚くことじゃない」


 彼女はなぜか絆が忍者であることを知っている。

 事情は分からないが、状況から察するに、彼女はヴァンパイア側の人間と見ていいだろう。

「悪く思わないでね。私にも事情があるの。後は任せたよ」

「おう!」と石川佳叶に応えたのは、五人の男達。

 一目見てヴァンパイアだと分かる。


 石川は絆達に背を向けると、一目散に走り出してしまった。

 絆はその光景に驚きよりも失望が勝った。

 つまり、彼女は同じグループのメンバーを裏切ったということだからだ。

 すももの親友と思っていただけに、怒りを覚える。

 事情はどうあれ、石川佳叶を許すわけにはいかない。


 だが、彼女を追おうにも、目の前には、ヴァンパイアが立ち塞がっている。

「へっへっへ……逃げられると思うなよ」

 ガラの悪い男達の手には武器が握られていた。

「ゆかり、石川を追うぞ」

 絆は小声で同級生に呼び掛けながら、革製の手袋をはめた。

 その間にも石川の姿は、どんどん見えなくなってしまっている。


「ええ」

 ゆかりは静かに頷いた。

「儂も手伝うか?」

 と点点が前に出るが、絆は待ってくれと、彼を止めた。

「俺達だけで充分だ。五分で片付ける」

「一分で充分でしょう」

 いつになく、ゆかりは強気だった。


 そんなやり取りを、ヴァンパイア達は、苛立たしげに見つめていた。

「おい、何を話している?そっちが来ないのなら、こっちから行くぜ」

「どうぞ、ご勝手に!」

 その瞬間、ゆかりの姿が視界から消えた。

 気付いた時には、すでに彼女はヴァンパイアに膝蹴りを食らわせていた。

 どうやら、自分以上に彼女は怒っているらしかった。


「やりやがったな!」と周囲のヴァンパイア達がいきり立つ。

 ゆかりに後れを取るわけにはいかない。

 とにかく、この連中を片付けないと……。

 少し遅れて、絆も彼女に加勢した。

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