第四十二話 ばったり再び
すももが店を出ると、ゆかりは自宅まで送りましょうと言ってくれた。
だけど、すももは家には帰りたくなかったので、彼女に言った。
「ねえ、ゆかりちゃん、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」
「えっ……買い物ですか?」とゆかりは戸惑ったような表情を浮かべる。
「嫌かな?実は絆君にプレゼントを贈ろうと思ってて……」
「プレゼント……?あっ……そうか。今月は有島君の誕生日でしたね」
ゆかりはさすがに付き合いが長いだけあって、すぐに察してくれた。
「そう」とすももは頷く。「四月二十八日。適当に通販で買おうか悩んでたけど、ゆかりちゃんと一緒なら買いに行けるかなって……」
「私でよければ……。上京してから、誰かと一緒に買い物なんて初めてです」
遠慮がちに言った彼女の頬は、朱に染まっていた。
「そうなんだ?あたしも東京にはメンバー以外の知り合いとか、ほとんどいないから。お友達になってくれたら嬉しいな」
すももは笑顔を浮かべて、ゆかりの手を取った。
切れ長の意志の強そうな瞳。
厳しい修行をしてきたといっても、彼女もまだ、すももと同じ十八歳の女の子なのだった。
「は、はい!喜んで」
ゆかりが大げさな言い方をするので、すももは笑ってしまった。
「うん。ゆかりちゃんは、やっぱり可愛い娘だよね」
というわけで、二人はそのまま近くのデパートに直行した。
すももが腕を絡めるようにして歩くと、ゆかりは再び顔を赤くした。
「たまには女の子だけ、というのもいいよね」
すももは誰に聞かせるでもなく、独りごちる。
絆が護衛に付くようになってから、実はなかなかこういう機会がなかった。
女の子二人で買い物なんて久しぶりだ。
「……儂もおるぞ」と点点がふいに顔を出した。
デパート内ということで遠慮がちに。
「あははは。そうだったね」とすももは笑う。
二人と一匹は、何を買うのか決まらないまま、デパート一階のエレベーター乗り場の前まで来ていた。
近くにある案内板の前で、すもも達は足を止める。
「それで、何階に行きます?」とゆかりは訊ねた。
「どうしよっか?」とすももは質問に質問で返す。「プレゼントといっても、男の子が喜ぶものって分からないんだよね……」
「そ、そうですよね……」とゆかりは口を濁した。
「困ったなー。こういう時、何買って贈ればいいんだろ?」
すももが頭を悩ませていると、鞄の中から点点が再び頭を出す。
「それなら、あやつに訊けばよかろう?」
「あやつ?誰のこと言ってるの点点?」
すももは狐のぬいぐるみに訊ねるが、点点は質問に答える前に、鞄の中に隠れてしまった。
その直後、二人の背後から、コツコツと靴音を響かせて現れる一人の影が……。
「あっ……やっぱり、すももだ」
聞き覚えのある声に振り向くと、ブーツを履いたスレンダーな女の子の姿があった。
伊達眼鏡で変装しているが、同期の彼女で間違いなかった。
「あー佳叶。奇遇だね。どうしたの買い物?」
すももは笑顔で訊ねる。
「うん。仕事の帰りに、ちょっと寄り道してたとこ……。そちらの方は?事務所の人?」
佳叶はゆかりに愛想笑いを浮かべる。
スーツ姿の彼女は、確かに事務所の人間に見えなくもない。
だけど、ゆかりは忍者。
佳叶にはその辺りの事情は言えない。
「あ……えっと……」
すももが口を濁していると、ゆかりが咄嗟に口を開く。
「あっ……私は、すももさんのマネージャーをしている有島の知人でして……」
「ああ有島さんの?」と佳叶も一応、納得してくれたようだ。
「そ、そうなの」とすももは続ける。「絆君の同級生なんだって。蓮井ゆかりちゃん。レコーディングの帰り道にたまたま会って、そのまま話の流れで、絆君の誕生日プレゼントを買いに行こうってなって……」
すももの話を聞きながら、佳叶は笑みをこぼす。
佳叶はクールに見られがちだが、すももには優しかった。
「そっか。大体、事情は分かった。それでデパートに来たってわけね。有島さんの彼女と」
「違います違います」と慌ててゆかりは否定する。「私達はただの同級生で……」
「あたしも疑ってたんだけど違うって」
すももは苦笑しつつ言った。
「そうなんですか?」と佳叶は首を傾げる。「何となくお似合いだと思うんだけど……。まあ、いっか。それでプレゼント買うんでしょ?何買うの?私も付いて行っていいかな?お邪魔じゃなければ……」
「お邪魔なんてそんな……」とゆかりは滅相もないといった表情をした。
「そうですか?よかった」そう言って、佳叶は居住まいを正す。「あ、ごめんなさい。自己紹介まだでしたね?ヘルシングというグループでアイドルをしてる石川佳叶です。初めまして。えっと……蓮井さん?」
「あ、こちらこそ」
へこへこするゆかりが面白くて、すももは笑ってしまった。
ふと鞄の方に視線を落とすと、そんな彼女達のやり取りを、点点は姿を隠して見つめていた。
すももは、おやっと思ったが、佳叶を驚かせたくないので黙っていた。




