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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第三章 悪夢
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第四十一話 すももとゆかり

 すももはレコーディングを終えた後、ゆかりに食事を誘われ、近場の料理屋に入った。

 絆(ばん)は結局、秋場(あきば)プロに戻ることにしたので不在だ。


 駅前の中華料理屋は、昼休憩のサラリーマンや学生で混み合っている。

 女子二人で来るところではないのかもしれないが、たまたま目に留まって、そのまま入ってしまった。


「ゆかりちゃんは、どうして忍者に?」

 すももは餃子(ぎょうざ)を頬張りながら訊ねる。

「どうしてと言われても……」とゆかりの箸が止まる。「義賀(ぎが)の里の忍者は、全員が忍者の一族の末裔(まつえい)ですから……。私の意志に関係なく、忍者になることは決まっていたのです」


「あーそっか」とすももは思い出したように言った。「忍者以外は入れない場所なんだもんね。絆君が言ってた」

「ですが、嫌々なったわけではありませんよ」と言って、ゆかりはエビチリをパクッと一口。「……忍者の両親に憧れていたので。忍者になって、よかったと思っています。もちろん、任務は大変ですけど、やりがいはあります」


 すももは前の席に座るゆかりを見つめる。

 身長は小柄だが、何となくたくましい感じがした。

 強い女性という感じだ。


 それに、見かけによらず、彼女はすごく食べる。

 すももは佳叶(けいと)から大食い扱いされているけれど、彼女はすもも以上だ。

 男性でも食べきれないほどの量を、何食わぬ顔でぺろりと平らげてしまう。


「ふふっ……」思わずすももは笑った。「ゆかりちゃんは偉いね。立派、立派!絆君は忍者の学校行ったの嫌々だって言ってたもん」

「そんなことないです」と彼女は箸を置いた。「彼は私以上にいろいろと背負ってて……。有島君、すももさんには話してないんでしょうか?」


「何を?絆君って、あんまり学校でのこととか話してくれないんだよね……。訊かれたことには答えてくれるんだけどさ……」

 すももはもぐもぐと、のんきにご飯を咀嚼(そしゃく)する。

 だが、ゆかりの方はどことなく思いつめたような表情に変わる。


「ゆかり、話してやれ」

 テーブルの上にいた点点(てんてん)が彼女に声を掛けた。

「で、ですが……有島君は嫌がると思います。私の口からは……」

「構わんよ。彼は君には頭が上がらないようじゃからな……」

 点点はくっくっくと笑った。


「二人で何の話してるの?」とすももはゆかりと点点を交互に見る。

 神の使いの方は涼しい顔をしていたが、ゆかりは意を決したように言った。

「それじゃあ、すももさんには私から話します。有島君がなぜ忍者になったのか……」


 絆が話したがらないことを、他人の口から聞くのは気が引けた。

 だが、すももは彼女の話に口を挟むことはしなかった。

 多分、この機会を逃すと、この先も知る機会がないままになると思ったからだ。


 絆が背負っている過去。

 それは忍者塾に入学する前に、彼の両親がヴァンパイアに殺されたということだった。

 すももの両親は二人とも元気にしているので、その話は心にグサッとくるものだった。

 絆が中学三年生の時のことだ。

 その頃の自分は、何をしていただろう。


 悲惨な目に遭った絆と比べれば、すももの人生は平穏穏やかなものだった。

 毎日、普通に学校に通い、帰りは友達と寄り道をする。

 家に帰れば毎日、温かい食事が出てくる。

 そんな日々を、彼は突然奪われたのだった。


「……そっか」思わずすももはため息を吐く。「絆君にもいろいろとあったんだね。あたし、何にも知らなかった……」


 忍者とヴァンパイアの戦いは、すももが思っている以上に過酷なのかもしれなかった。

 それなのに、自分はどこか夢見がちな気分でいた。


 梟(ふくろう)。絆の仇。

 彼が忍者になったのは復讐のためだった。

 すももには彼の気持ちを完全には分かってあげられないけれど、これ以上、悲しまないでほしいと心から願った。

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