第四十一話 すももとゆかり
すももはレコーディングを終えた後、ゆかりに食事を誘われ、近場の料理屋に入った。
絆は結局、秋場プロに戻ることにしたので不在だ。
駅前の中華料理屋は、昼休憩のサラリーマンや学生で混み合っている。
女子二人で来るところではないのかもしれないが、たまたま目に留まって、そのまま入ってしまった。
「ゆかりちゃんは、どうして忍者に?」
すももは餃子を頬張りながら訊ねる。
「どうしてと言われても……」とゆかりの箸が止まる。「義賀の里の忍者は、全員が忍者の一族の末裔ですから……。私の意志に関係なく、忍者になることは決まっていたのです」
「あーそっか」とすももは思い出したように言った。「忍者以外は入れない場所なんだもんね。絆君が言ってた」
「ですが、嫌々なったわけではありませんよ」と言って、ゆかりはエビチリをパクッと一口。「……忍者の両親に憧れていたので。忍者になって、よかったと思っています。もちろん、任務は大変ですけど、やりがいはあります」
すももは前の席に座るゆかりを見つめる。
身長は小柄だが、何となくたくましい感じがした。
強い女性という感じだ。
それに、見かけによらず、彼女はすごく食べる。
すももは佳叶から大食い扱いされているけれど、彼女はすもも以上だ。
男性でも食べきれないほどの量を、何食わぬ顔でぺろりと平らげてしまう。
「ふふっ……」思わずすももは笑った。「ゆかりちゃんは偉いね。立派、立派!絆君は忍者の学校行ったの嫌々だって言ってたもん」
「そんなことないです」と彼女は箸を置いた。「彼は私以上にいろいろと背負ってて……。有島君、すももさんには話してないんでしょうか?」
「何を?絆君って、あんまり学校でのこととか話してくれないんだよね……。訊かれたことには答えてくれるんだけどさ……」
すももはもぐもぐと、のんきにご飯を咀嚼する。
だが、ゆかりの方はどことなく思いつめたような表情に変わる。
「ゆかり、話してやれ」
テーブルの上にいた点点が彼女に声を掛けた。
「で、ですが……有島君は嫌がると思います。私の口からは……」
「構わんよ。彼は君には頭が上がらないようじゃからな……」
点点はくっくっくと笑った。
「二人で何の話してるの?」とすももはゆかりと点点を交互に見る。
神の使いの方は涼しい顔をしていたが、ゆかりは意を決したように言った。
「それじゃあ、すももさんには私から話します。有島君がなぜ忍者になったのか……」
絆が話したがらないことを、他人の口から聞くのは気が引けた。
だが、すももは彼女の話に口を挟むことはしなかった。
多分、この機会を逃すと、この先も知る機会がないままになると思ったからだ。
絆が背負っている過去。
それは忍者塾に入学する前に、彼の両親がヴァンパイアに殺されたということだった。
すももの両親は二人とも元気にしているので、その話は心にグサッとくるものだった。
絆が中学三年生の時のことだ。
その頃の自分は、何をしていただろう。
悲惨な目に遭った絆と比べれば、すももの人生は平穏穏やかなものだった。
毎日、普通に学校に通い、帰りは友達と寄り道をする。
家に帰れば毎日、温かい食事が出てくる。
そんな日々を、彼は突然奪われたのだった。
「……そっか」思わずすももはため息を吐く。「絆君にもいろいろとあったんだね。あたし、何にも知らなかった……」
忍者とヴァンパイアの戦いは、すももが思っている以上に過酷なのかもしれなかった。
それなのに、自分はどこか夢見がちな気分でいた。
梟。絆の仇。
彼が忍者になったのは復讐のためだった。
すももには彼の気持ちを完全には分かってあげられないけれど、これ以上、悲しまないでほしいと心から願った。




