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ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
序章 コサージュ
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第三話 卒業式の定番ソング?

「はぁ~腕、痛って~」

 試験を終えた絆(ばん)は、なかなか痛みが引かない肘をさすった。

「保健室に行った方がいいんじゃありません有島(ありしま)君?」

 心配してくれたのは、同級生の蓮井(はすい)ゆかりだ。

 二人は寮に戻るところだった。


「いや、いい」と絆は強がる。「これくらいの傷ならすぐに治るよ」

「でも、明日の試験は、二科目とも実技試験ですけど?」

「明日の試験は何と何だっけ?」

「〈忍具〉と〈武道〉です」とゆかりは即答した。

「ん?まあ、大丈夫だろ。明日は負けないからな」

「はいはい。分かりましたから」

 ゆかりは少し呆れたように、そっけなく応じる。

 

 絆とゆかりの試合、対戦結果は絆のストレート負けである。

 もっとも、この試験は忍術の技巧を審査するもので、負けたからといって、卒業に影響が出るものではない。

 居関(いぜき)先生は絆の〈身代わりの術〉を評価していたので、卒業自体は問題ないだろう。


 絆はややご機嫌斜めだったが、隣りを歩くゆかりは鼻歌混じりに知らない曲を口ずさんでいる。

「やっと気づいた答えは~言葉にできない~」

「随分と機嫌がいいな、ゆかり。それ何の歌?」と絆は素直に訊ねる。

「HEALSING(ヘルシング)の『コサージュ』という曲です。卒業式の定番ソングですよ」

「へるしんぐ?今流行ってるグループなのか?」

「えぇ……。国民的アイドルグループじゃないですか?」

「そうなんだ?義賀(ぎが)の里に来てから、すっかり流行に取り残されちゃったな……」


 義賀の里は、関東にある忍者の里なのだが、外部から隔離されていて、一般人は立ち入りできないようになっている。

 インターネットやテレビなどを通じて、日本社会の流行を追うことは可能だが、里の生活に必死で、気にも留めていなかった。


「でも、有島君。この『コサージュ』という曲は、かなり前の曲ですよ。私達が忍者塾に入学したのは、たった三年前じゃないですか?」

「元々アイドルなんて興味なかったからな……」

 そのグループが男のグループなのか、女のグループなのかすら、絆には定かではない。

「つーか……もう三年も経ったんだな。長かったような短かったような……」

「何をいまさら」

 彼女の言う通り、つい先ほどまで卒業試験を受けていたのだ。

 絆の言葉はずれていると言わざるを得ない。

 だが、ここでの暮らしが激動だったのは確かだった。


「俺、三年前まで、忍者が存在するなんて半信半疑だったからさ。おまけに、妖怪まで……。でも、まあ……ゆかりのおかげで、何とかここまで来れたよ」

「褒めても何も出ませんよ」

 ゆかりはそっけなく返したが、やはり今日の彼女は機嫌がよかった。

 彼女が口ずさんだヘルシングの『コサージュ』という曲が、絆の耳から離れなかった。


 セーラー服を着るのも 今日で最後

 高校を卒業しても あたしはあたしだから

 それでも 自分が変わってしまう気がして 少し怖いんだ


 赤い花のコサージュ 卒業生のしるし

 桜が咲くには まだ冷たい三月

 あたしの胸には 一輪の花が咲いていた


 友達が泣いてるのを見て 思わずもらい泣き

 やっぱり 卒業したくない 卒業するのが怖いんだ

 満員のバス つまらない授業 友達とのおしゃべり

 何気ない日常が 実はかけがえのない宝物なんだ


 涙で濡れた 胸のコサージュ

 変わってしまうことが 怖いと思ってた

 でもそうじゃないんだ この空間が愛しい


 涙で濡れた 胸のコサージュ

 変わってしまうことが 怖いと思ってた

 やっと気づいた答えは 言葉にできない

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