↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンシング・ヘルシング  作者: 逸見 秋仁
第二章 夢
PR
32/53

第三十一話 いざ秋葉原へ

 絆(ばん)とすももは、石川佳叶(いしかわけいと)と待ち合わせをしている秋葉原(あきはばら)駅までやって来た。

 オタクの街としても知られる『アキバ』には、ヘルシングのファンの聖地とも言える場所があった。


 駅の改札をくぐり、絆とすももが並んで歩くその間には、人間の子供に化けた小助(こすけ)がいる。

 二人に手を繋がれて歩く式神(しきがみ)は、本物の子供のようにはしゃいでいる。


「おおっ!ここが『アキバ』でござるか」


 休日ということもあり、駅前は行き交う人々で混雑していた。

 秋葉原はアニメなどの作品の舞台となったこともあり、近年はオタクと呼ばれる人だけでなく、観光客にも人気だ。

 外国から来る人も増えていて、賑わいを見せている。


 小助は物珍しそうに周辺の景色に視線を向けていたが、たまたま近くを通りかかった若者のグループに目を留めた。

「彼らは何者でござるか?」

「随分と奇妙ななりをしておるのう」

 点点(てんてん)は人形のふりをしたまま、声だけ発した。


 絆の目から見ても奇妙な一行に、何と答えたものかと悩んでいると、すももは笑いをこらえるように言った。

「巡(じゅん)さんのファンの人達だね。ほら、巡さんのグッズをたくさん身に付けてるでしょ?」

 駅前に集まっていた若い男女は、潮巡(うしおじゅん)のファンの人達らしく、Tシャツやピンバッジなどのグッズを全身に身に纏い、まるで鎧で武装をしているかのようだった。

 近くにいた外国人のグループも、彼らを見て、くすくすと笑っている。


「東京はいろいろな人がおるんじゃな……」

 驚く小助の横で、絆は静かに頷く。

「あ、ああ……。そうだな……」

 秋葉原駅周辺は、異様な熱気に包まれているように感じた。

 誇張な表現かもしれないが、アイドルのイベントというのは、絆にとって未知の世界なのだった。


「これも一種の信仰心なのじゃろうか?」と点点も何やら哲学的なことを言っている。

「そんなオーバーな……」とすももは笑った。「推しを応援したいっていう純粋な気持ちだと思うけど……。そう言うあたしも、巡さんのTシャツ着て来ちゃった、ほら」

 すももはそう言うと、おもむろに羽織っていたパーカーのファスナーを下ろした。

「……っ」と絆は息を呑む。


 すももは下に潮巡のライブTシャツを着ていたのだが、服の下の大きな膨らみで、シャツは大きく膨れ上がっていたのだ。

 絆は空を見上げ、息を吐き出す。

 すももは小柄な体格には似合わず、大きなものを持っているらしい。


「ん?どうしたの?」

 すももはポカンとした表情で、再びファスナーを上げる。

「いや、何でもない」

 絆は日差しに顔をしかめつつ、下心を誤魔化すかのように視線を上に逸(そ)らした。

 だが、腕を引っ張られて、再び視線を下に向ける。


「それで絆殿?すもも殿の友人と待ち合わせをしているのでござろう?」

 人間の子供に化けた小助が、下から絆を見上げていた。

「ああ、うん。彼女とは〈ヘルシング・シアター〉で落ち合うことになってて……」

「何じゃそれは?」

 戸惑う小助に、すももは説明をしてあげた。

「あたしが所属してる、ヘルシングっていうアイドルグループの専用の劇場。普段はあたしもそこに出演してるの。今日はお客さんとして行くんだけどね」

「ほう……。それじゃあ、まずはそこに向かえばいいのじゃな」


 小助が理解したところで、一行は駅から離れて目的地のヘルシング・シアターを目指す。

 秋葉原の電気街を、絆は小助を挟んで、すももと並んで歩いた。

 さまざまな店舗が軒を連ねているこの通りには、さまざまな看板広告が設置され、人々の購買意欲を掻き立てていた。

 電気街というだけあって、家電量販店やPCパーツを扱う店が多かったが、ドラッグストアやディスカウントストアなども目立つ。

 たまたま通りかかったドラッグストアの看板には、見覚えのある女性の広告がでかでかと飾られていた。

 絆は思わず立ち止まり、自身の式神に声を掛けて教えてあげた。


「小助、彼女が今から観に行くアイドルの潮巡だぞ」


 看板の女性は、白いノースリーブのワンピースを着ていた。

 爽やかな印象を与える表情で、通行人に笑みを浮かべている。

 スプレー缶が一緒に写っているので、制汗剤の広告のようだ。

 銀イオンを配合していて、効果が長続きすると謳(うた)われていた。


「ほー彼女がそうか……」と小助は物珍しげに視線を看板に向けている。

「潮巡っていろいろな広告に出てるんだよな。さすが人気アイドルというべきか……」

 ここへ来る途中、電車内の中吊り広告でも絆は彼女の姿を目撃していた。

「すごいよね。あたしと同じグループなんだもんね」

 感心する彼女に絆は言う。

「すももはまだデビューして一年くらいなんだろ。まだまだこれからだよ」


「そうだといいんだけどねー。なかなか、あたしのような新人だと巡さんと話す機会すらなくて……。でも、あの広告の制汗剤はあたしも持ってるよ。銀イオンのやつ……」

「自慢にはならないだろ」と絆は笑う。「まあ、銀を含んでるらしいから、ヴァンパイアには効くかもしれないけどな」

「あ~そうなんだ~」とすももは驚く。「銀なら何でも効くのね。みんながいるし、使う機会はなさそうだけどね」


 すると、彼女の言葉に反応するように、点点が鞄の中から、ひょっこりと上半身を出す。

 手には例の制汗剤を持っている。すももの鞄の中に入っていたものだろう。

「これのことかの?」

「あ~それそれ~」

 すももは笑っているが、こんな人通りの多い場所で点点には出て来てほしくはなかった。


「おい点点!静かにしてろ」と絆は注意する。

「おお、すまんすまん」と点点は謝る。

「ん?何やつ!」

 その時、小助は何者かの気配を察知し、後ろを振り返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。